ロックの冒険2
暗い洞窟の中。
「がはははは、無駄な抵抗は止めてくたばりやがれ!」
大声で笑いながら暴れる男がいた。
二十歳になったロックだ。
緑色の服を着て、要所を金属の鎧で守っている。
右手に六連装回転式拳銃を持っている。
他の武器は持っていない。
茶色の髪に、茶色い瞳。
大きな口を、大きく開けて笑っているので、下品な印象を受けるが、整った顔立ちをしている。
長剣を左手の手甲で受け止め、すかさずその持ち主を撃つ。
腹を撃たれたソイツは吹き飛び動かなくなった。
ここは盗賊がねぐらにしている洞窟。
六人の盗賊は夕餉の途中に乱入して来た男に蹂躙されていた。
既に半数の三人が大怪我を負わされ行動不能に陥っている。
「がはは!そんなへっぴり腰で、このロック様を斬れると思うな!」
言いながら引き金を引く。
特に狙いも付けず、無造作に撃ち出された弾丸は、残っているうちの一人の額に命中する。
「なんなんだ!てめぇは!」
でっぷりと肥った貫禄のある髭面の男が喚く。
「冒険者様だ!観念しやがれ!」
「冒険者だと?」
髭面が喋って気を引いているうちに、もう一人が下から救い上げる様に長剣を振り上げる。
少しでも死角からとの、盗賊なりの工夫だったが、意味は無かった。
ロックが一歩下がるだけで空振る。
「はん!」
反撃の一発。
弾丸は避けようもなく、盗賊の額に穴を開ける。
その隙を付いて髭面が斬りかかってくる。
自分に標準を合わせる前に斬れる。
そう判断した。
銃声が狭い洞窟に響く。
右肩に銃弾を受けた髭面は二歩、三歩と後退り、長剣を取り落とす。
「勝負あったな」
ニヤリと笑う。
「ま、待ってくれ!もう抵抗しねぇ!だから、命だけは助けてくれ!」
「ふーん」
興味なさそうな目で髭面を見る。
髭面の顔は脂汗でいっぱいになっている。
「そうだ!一つ賭けをしようぜ」
性悪な笑顔で提案をする。
「賭け?」
「そう、賭けだ。俺がこいつの引き金を引く。その後でお前が生きていたら、そのまま見逃してやる。どうだ?悪くない話だろ?」
男は銃を知っていた。
詳しくは無かったが突き付けられた、それが六連装だというぐらいは判断できた。
つまり、弾は六発。
手下五人に一発ずつ。
自分の肩に一発。
計六発。
もう、この銃に弾は残っていない。
弾を込め直す隙に、剣を拾い斬り付けるのは無理がある。
激痛に鈍った攻撃は容易く対応されてしまう。
弾丸を避けるというのは、論外だ。
痛みが無くても、そんな芸当は出来ない。
弾を込めている間に少しでも遠くに逃げる。
それしか無かった。
そのために賭けの提案は有難かった。
距離が開けば命中精度は下がる。
何発も撃たれればそんな事、関係ないが、賭けに乗れば一発しか撃って来ない。
運が良ければ外して逃げ切れるし、当たっても、それが手や足なら生き残れる。
それがどれだけの確立か分からないが。
生きる為には賭けを受けるしかない。
「分かった!その賭け受けてやる!」
「受けてやる?」
不機嫌な声。
「あ、いや、受けさせて下さい!」
「よーし、じゃあ行くぜ?」
あっさり機嫌を直したロックは、銃口を髭面の額に押し付け引き金を絞る。
馬鹿か!こいつ、自分が何発撃ったか分かってねぇ!
そう思った髭面は、安堵する。
生き残れる!
撃鉄が落ちて轟音。
髭面の額には銃痕が出来ていた。
「な…ん…で」
ほぼ即死だったがそれだけ言えた。
何故、弾丸が発射されたのか。
その謎を抱えたまま、髭面は崩れ落ちた。
「ああ、弾数を数えてたのか」
髭面の最後の言葉の意味を悟って、そう答える。
「なんでか知らんが俺に弾切れはねぇんだ」
答えになってない。
それが銃の勇者の能力であるのだが、自身が勇者である事も知らないロックにも、知る由もない。
「がはは!残念だったな!」
無様に逃げ回る髭面を追い回して遊ぼうという目論見は外れたが問題ない。
この後の事を考えれば、時間も体力も有った方がいい。
「さーて、ご褒美ちゃんは何処かなー」
嬉しそうに言って洞窟の奥に向かって歩き出す。
探していたご褒美は洞窟の一番奥に、固まっていた。
裸の女が四人。
服は盗賊達に襲われた時に破り捨てられたのだろう。
盗賊が女を襲う時、乱暴に服を破るのには、理由がある。
勿論、恐怖を与えるという意味もあるし、繰り返し犯すのにいちいち服を脱がすのが面倒だという事もある。
が、本当の狙いは逃亡を防ぐ為である。
「ほう、ほう、ほう」
怯えた目でロックを見つめる女たちを、品定めする。
「んー、一人、小っちゃ過ぎるのがいるが、まぁ、よし!グッドだ!がはは!」
ロックが何者か分からない女達は抱き合って震える事しか出来ない。
「よーし!諸君!安心していいぞ!俺様は君たちを助けに来た冒険者様だ!君達を助けてやるから安心するが良い!」
女達の間に安堵の空気が流れる。
「で、君たちは助けて貰うお礼に何が出来る?」
「え?」
意外な言葉に戸惑う。
「まさか、助けて貰うのにお礼もしないつもりか?」
「い、家に帰れば父がお金を…」
そう言った二十歳前後の金髪の女性は何処か気品があり貴族の娘のように思えた。
「ん−、先払いしか受け付けて無い」
金に興味が無い訳ではないが、今欲しいのはソレではない。
「では、盗賊達が私達の持ち物を奪ったので、その中から。あまり多くは有りませんが」
三十前後の年に見える女が提案してくる。
「君は何を言ってるんだ?それは盗賊に盗られた物だろう。ならそれは盗賊を殺した俺様の物だ」
「そんな!」
奪った物は盗賊の物、盗賊の物は退治した冒険者の物。
そんな理屈有るはずが無い。
が、それは現実を知らない者の考えだ。
実際は冒険者が盗賊退治する際、盗品をその懐に入れてしまうことは、普通にある。
そうしたところで誰も彼らを咎める事が出来ない。
なぜなら、その金品が誰の物か証明する手立てが無いからである。
「では、どうしろと言うのですか?ご覧になれば分かるように、私達は何も持っていません」
黒髪の少女が幼い女の子を庇うようにしながら尋ねる。
姉妹だろうか。
「俺様は男で、君たちは女だ。なら、お礼の仕方はあるだろう?ちょうどいい事に君たちは裸だし」
男の言わんとする事を理解して絶望する女達。
「いや、無理にとは言わんぞ?だが、礼の一つも出来ん恩知らずを助ける義理はないなぁ」
ニヤニヤしながら言う。
「な、なら、もう行って下さい!他の人が助けに来てくれるのを待ちます」
金髪娘が気丈に言い放つ。
「ん−良いのかなぁ、そんな事、言って」
「問題ありません」
「そうかなぁ」
男の態度が金髪娘の神経を逆撫でする。
「何が有ると言うのです?盗賊は貴方がどうにかしてくれたのでしょう?」
「ああ、それは間違いない。でもなぁ」
「だから!なんなんですか⁉︎」
「いや、ここは森の中にある洞窟だって分かってるよな?」
「ええ、それは分かってます」
「本当にぃ?森の中だよ?狼や小鬼とか、沢山いる森の中の洞窟だぜ?」
「そんなのがいるとしても、ここには来ないでしょう?」
「今まで来なかったからか?」
「ええ」
「なんで、来なかった分からねぇか?」
「?この辺りにはいないからではないの?」
「ブッ、ブー!この辺は色々いるぜ。ここに来なかったのには、ちゃあんと理由が有るのさ。よく考えないと後悔するぜ」
「何を後悔すると言うの?」
我慢の限界だった。
声を荒げてしまう。
「今までは、盗賊達がいたから、獣はここにこれなかっただけって事だよ。お前たちは、ある意味、盗賊達に守られていたって訳だ」
「でも、盗賊が居なくなったからって、すぐに来るわけでも…」
「ただ居なくなっただけならな。奴らはそこで血を流して死んでるんだぜ。その臭いを獣共はどう思うかな?」
女達の顔が、青ざめるのを通り越して白くなる。
「死んだ後も迷惑なヤツラだよなぁ。でも、まぁ、来るのが狼なら良いな。食われるだけで済むし、腹いっぱいになったら、誰かは食われねぇかもしれない。でも、小鬼なら最悪だぜ?死ぬまで犯されて、孕まされてヤツラの仔を産むんだ。あーやだやだ」
そう言って女達の様子を窺う。
いい感じに怖がっている。
「じゃ、助けはいらんらしいから、俺様はもう行くわ」
そう言って出口へ向かうフリをする。
「待ちなさい!」
無視して歩く。
「待って!」
まだ無視。
「待って下さい」
立ち止まるが、振り向かない。
「俺様も忙しいんだ。じゃあな」
冷たく言い放つ。
「助けて下さい。出来る事なら何でもします」
その言葉を聞いて振り返った男は満面の笑顔だった。
「そうか、そうか。それなら早くそう言っていればいいのに。で、何をしてくれるんだ?」
「わ、私の体を好きにして下さい」
金髪娘が意を決して告げる。
屈辱に唇が震えている。
「おお、そうか、そうか。なら、君は連れてってやろう」
「えっ!皆助けてくれるんじゃないの?」
「お礼をくれるのは君だけだろう?なら、助けるのも君だけだ。小っちゃいのはおまけで助けてやっても良い」
もう何年かすれば、小っちゃいのも美味しく頂けるだろう。
ここで死なすのは勿体無い。
残る二人も体を差し出すと宣言する。
「よーし!和姦成立!グッドだ!」
鎧と服を手際よく脱ぐ。
「がはは!さあ!誰からお礼してくれるのかな?」
三人に朝までお礼をしてもらうロックであった。
翌朝、太陽が昇り切った位の時刻。
ロックは身支度を整えて。
「よし、では、行くぞ」
出立を告げる。
「待って下さい。私達は裸です」
「そんな事、言われんでも見れば分かる」
「だから!何か着る物を下さい。このまま外に出るなんて出来ません」
「いや、俺様、着替えなんて持ってないし」
「そんな…」
「まあ、どうしても裸が嫌なら、盗賊達の服でも引っぺがせばいいだろ」
そう言って出口に向かって歩き出す。
暫く歩いて女たちは驚愕する。
盗賊達の無残な姿を目の当たりにしたからだ。
全ての死体の腹から腸が引き出され、いろんな場所の肉が抉られていた。
「これは、貴方がやったのですか?」
「まさか。これは狼かな?まあ、なんか獣の仕業だろう」
ロックの言った通り、血の匂いに誘われた獣がやって来て、食い散らかして行ったのだろう。
「俺様の言った通りだろ?」
自慢げに言う。
しかし、女達には困った事になった。
盗賊達の服は獣の牙で着用に耐えられない程に破られている。
例え損傷の少ない物が有ったとしても、血に塗れていて着れた物ではないだろう。
「さっさと行くぞ」
「待って、何か着れる物が無いか、探す時間を頂戴」
「しょうがねぇな。早くしろよ」
服は見つからなかったが、毛布が有ったのでそれを羽織る事にした。
「女は支度に時間がかかるって聞いた事があるけど本当だな」
違う、そうじゃない。
ロック以外の全員が、そう思ったが、口には出さなかった。
その後、街迄、三日の距離を、四日かけて帰る事になった。
日程が延びた理由は、昼夜を問わず、ロックが催した時に行為に及んだからである。
とにかく、街に辿り着く事が出来た。
まだ、日は高く、女達は街に入る事に難色を示した。
裸の上に毛布を羽織っただけの格好に羞恥を感じたからだ。
相手がロックだけなら、今更という感じだが、街の中には沢山の人がいる。
奇異の目で見られるのは間違いない。
ロックはお構いなしに街に入って行く。
誰か一人が付いて行き、服を持って来てくれるのを待つという手も、提案されたが、その一人に誰もなりたがらなかった。
それに待っている方も、安全だと言い切れるものではない。
どんな人間がこの道を通るかも分からない。
もしかしたら、ロックでは無い誰かに襲われるかもしれない。
街の中に入ってしまえば、周囲の目が彼女達への不埒な行為への抑止力にもなってくれる。
結局、みんなで付いて行くしかなかった。
ロックは、街の人々に注目され嬉しそうに鼻歌混じりに歩く。
注目されているのは女達の方なのだが。
冒険者ギルドに辿り着く。
女達はここで服が借りられるだろうと、胸を撫で下ろす。
しかし、ロックは足を止めた。
また何か、変な事を言い出すのではないかと心配した。
男が足を止めたのは建物の前に人が二人、立っていたからだ
右に立つ女の、人を値踏みするような目が気に入らない。
そう思ったロックは女を押し除けて、ギルドに入ろうとする。
女は素直に道を空けたが、建物に入ろうとする男に背後から声をかけた。
「お待ちなさい。空なしのロック」
一瞬、無視しようかと、思ったが、思い直して立ち止まる。
目付きは気に入らないが、良い女だ、もしかしたらヤラせてくれるかもしれないと思った。
「その二つ名は、嫌いなんだ」
「あら、ごめんなさい。では何と呼べば良いかしら?」
謝罪が言葉だけのものだと、ロックにも分かった。
「俺様はロックだ。他の呼び方は無い」
「では、ロック。私達に付いて来てくれるかしら?」
「なんだ?ヤラせてくれるのか?」
「ごめんなさい。ムードも無くそんな事を言う人はお断りしてるの。シアン、貴女はどう?」
もう一人の方に声をかける。
そっちは陰気な雰囲気だが、負けずに美人なので、そっちでも良かった。
「きっていいの?」
「まだダメよ。ごめんなさい。彼女も嫌だって」
シアンを制し、ロックに謝る。
「いーや、謝る事なんか無いさ!」
言いながら、胸に手を伸ばす。
ひらり、と躱し。
「何をするの?」
「女とヤるのに、許可なんざいらねぇんだ!」
飛びかかる男、逃げる女。
「こら!逃げるんじゃねぇ!」
「あはは!捕まえてごらんなさい!」
裸の上に汚れた毛布を羽織っただけの女達。
その周りを笑いながら逃げ回る少女。
それを追いかける男。
それをぼうっと見ているもう一人の少女。
これは何の喜劇だ。
金髪娘は怒鳴りたい気分だったが、その元気は無かった。
黒髪の妹の方は、無邪気に笑っている。
ロックに感謝出来る事が、一つだけある。
それはこの幼子には、酷い事をしなかった事だ。
盗賊達はこの子にも手を出していた。
まだ、初潮も来ていない位の歳なのに。
「穴には変わりねぇ」
と言って笑っていた。
しかし、ロックは、優しくもなかったが、酷い事もしなかった。
子供が木の根に躓き、転びそうになった時、その頭を鷲掴みするという乱暴な方法ではあったが、助けていた。
よく考えれば、自分たちもそんなに酷い事はされていないかもしれない。
確かに犯されはした。
しかし、それは命を守ってもらうための対価だ。
自分達はその取引に応じたのだ。
有無を言わさず襲って来た盗賊達とは違う。
そう言えば食料もちゃんと分けてくれた。
「腹が減って死なれても困る。それにちゃんと食って元気な方が抱いてて面白い」
と言っていやらしく笑っていたが。
それに固い干し肉を食べあぐねている子供に、火で炙れば少しは食べ易くなると教えていたりもしていた。
自分たちも真似をした。
ほんの少ししか、変わらなかったが、確かに食べ易くなった。
子供に教えることで、皆に教えたのではないだろうか。
照れ屋なのかもしれない。
本当は、素直で優しいのかもしれない。
そんな風に思ってしまう程、彼女は疲れていた。
盗賊に襲われ、犯され、助けに来たと言う男にも犯され、裸足で森を歩き、街道を歩き、その間も隙を見ては犯され、身体も心も、ボロボロだ。
やっと街に着いたと思ったら、奇異の目に晒され、やっと、建物の中に入って休めると思ったら足止めを食って、突っ立っている。
それでも、自分達は助かった。
幼子と一緒になって笑っても、良いかもしれない。
金髪娘がそんな風に現実逃避をしていると。
「あはは!もう良いわ!シアンー!殺さない程度に、斬っても良いわよー!」
追いかけっこに飽きた少女がもう一人に告げる。
刹那!
ギィイイイイン!
と、耳障りな金属音が響く。
「これは、何の真似だ?」
待機していた少女の抜き放った斬撃を、ロックは拳銃で受け止めていた。
「きっていいって」
「ああん?こいつらは俺様の物だ!勝手に斬るんじゃねぇ!」
シアンと呼ばれた少女は、四人の女ごと男を斬るつもりだったが。
しかし、それを阻止され鍔迫り合いの様な体勢になっている。
刀を抜いたのに何も斬れず、納刀も出来なかった現状にイラついている。
「シアン?私が許可したのは、その男だけよ。ソレ一人に集中しなさい」
ロックの背後から少女が命令する。
落ち着いた声だったが、彼女は内心、驚嘆していた。
シアンの刀を止めた。
それも、ちゃんとその軌道を読んだ上で。
そうでなければ、女達を巻き込もうとしていた事など、分かろう筈も無い
「どっせぇーい!」
ロックが力任せに突き飛ばす。
そして、引き金を引く。
轟音。
キン!
チン。
シアンは体勢を崩しつつも、弾丸を斬り、納刀する。
「嘘だろ?」
そんな芸当、師匠ですら出来なかった。
「よっ!ほっ!」
二連撃を躱す。
チン。
納刀。
シアンの顔が不機嫌に歪む。
「おとなしくきられて」
「無茶言うんじゃねぇよ!それともなにか?斬られてやったらヤらせてくれるのか?」
更に一撃躱し、カウンターの一撃。
その弾丸を納刀前に斬る。
「やらせるってなに?」
小首を傾げる。
「そりゃあ、ヤるって言やぁ、セックスの事だろうが」
シアンは少し考えて。
「きらせてくれるならいいよ」
「斬られてやったら、ヤらせてくれるのか?」
首肯。
「死なない程度だよな?」
首肯。
「んー、んー、んー、やっぱダメ!痛いのダメ!ナシ!」
戦闘中である事を考えれば、結構な時間をかけて出した答えは否。
律儀に待っていたシアンは、それを聞いた途端。
抜刀。
「だから!斬るのナシ!」
避けながら引き金を引く。
無茶な体勢で、碌に狙いを付けているようにも見えないのに、弾丸は確実にシアンへ向かって飛翔する。
反動を力で抑え込んで、もう一発。
両方共に刀に迎撃される。
拳銃は、その構造上、連射出来ない。
引き金を引いて撃鉄が落ちる。
その動作が一発ごとに必要になる。
一発撃つ毎に、一拍間が開く。
並の相手ならそれでも構わないが一定以上の手練れの前では大問題だ。
現に今、完璧に対処されている。
もっと攻撃の間隔が短ければ、一発目に対処できても、二発目は無理なはず。
そう思っても、攻撃の間隔を狭める事は不可能。
では、どうするか?
刀の攻撃には対処出来る。
躱すか、銃で受ければ良い。
眼にも止まらぬ斬撃に、そう思えるロック。
力でねじ伏せるには近寄らないといけないが、剣撃を躱しながらでは難しい。
三回、斬撃を躱し、にたりと笑う。
大きく後ろに飛び退き、シアンに狙いを付けて撃つ。
間髪入れずダッシュ。
弾丸より早く走れるわけではないが、二発目を撃つよりは早い。
シアンは弾を斬り下ろす。
よし!
振り下ろした刀を踏みつけてやる!
その後、殴れば決着だ!
「げふぅ!」
シアンの足が腹にめり込んでいる。
斬り上げられる刀を、またも大きく後ろに飛んで避ける。
「蹴りなんてずるいぞ!剣士なら剣を使え!剣を!」
何を言ってるのか分からないといった感じで首を傾げる。
「ふん、プライドの無いヤツめ」
今、自分がしようとした事を棚に上げる。
初めの一撃を受けた時の様に、鍔迫り合いに持ち込むか。
待ちからの反撃は性に合わないがしょうがない。
そう思ったら、斬り込んでこない。
ロックの目論見を読んだのだろうか。
「うがー!なぜ斬り込んでこん⁉︎」
きっかり五秒しか待っていない。
腹立ちまぎれに撃ってしまう。
「あっ」
感情紛れの悪手に自分で驚く。
シアンは弾丸を迎撃し、納刀、そのまま間合いを詰めて抜刀。
もう弾は無いと思っての行動か。
にやり。
引き金を絞る。
「シアン!」
声が響く。
シアンは右に大きく飛んだ。
弾丸は何も無い所に向かって飛んで行ってしまう。
シアンは銃を知っていた。
だから、六発で終わりだと思って攻めた。
ロックに弾切れは無いと、教えられていた事は忘れていた。
睨み合う二人。
緊張の度合いが一段上がる。
二人共、互いを強敵だと認めた。
ロックは一人の相手に弾を撃ち尽くし『空の一発』を使って、仕留められなかったのはシアンが初めてだった。
シアンは、こんなに沢山抜刀し、掠り傷一つ付けられなかったは、ロックが初めてだった。
シアンは心の奥の綱を細く、細く、糸よりも細くしていく。
そうイメージする事で集中力を高める。
ロックは銃を標的に向け、銃口から一本の光が延びていくイメージをする。
静かな時間が過ぎる。
野次馬はいない。
銃声を聞いた者は巻き込まれる事を嫌って逃げていた。
シアンの相方の女と、ロックの連れて来た女達だけが、この戦いを見守っていた。
しゅうぅぅぅぅ…
二人が細く長く息を吐く。
同時に吐き切り。
止まる。
次の一撃、最高の瞬発力で決める。
「…ふへぇ」
ロックの口から情けない声が漏れ崩れ落ちる。
イビキをかいて眠っている。
「シアン、ステイよ」
女に言われて、シアンは緊張を解く。
「なにをしたの?」
「飽きてきたから、魔法で眠らせたの」
「あ…あのう、その人をどうするんですか?」
金髪娘が恐る恐る尋ねる。
一応恩人であるのだから、余り無体な事はして欲しくない。
「貴女は何?コレの奴隷か何か?」
金髪娘の格好を見れば、そう思うのも無理はない。
「違います。盗賊に攫われていたところを、この人に助けられたんです」
「あっそ。じゃあ早くそこのギルドで保護してもらいなさい。この男は私達の仲間にするの。だから心配することは無いわ」
今のやり取りを見て、そんな事を言われてもと思うが、金髪娘達にはそれ以上どうする事も出来ない。
「シアン、それを宿まで運んで。多少乱暴にしても大丈夫よ」
シアンはロックの後襟を掴んで引っ張って行く。
「では、私達はこれで失礼するわね」
優雅に一礼して立ち去る。
娘達は暫くの間、見送ってから、保護を求めてギルドに入った。
これは銃の勇者ロックのある冒険のお話。