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千裂!剣の勇者シアン

そんなに酷くは無いと思いますが、陵辱、虐殺シーンがあります

苦手な方はご注意下さい

 その少女はいつも祖父と一緒だった。

 人見知りで、口下手な彼女は、近所の人に挨拶されても、祖父の後ろに隠れて俯いていた。

 両親は彼女の幼い頃に亡くなっていた。

 住んでいた、小さな農村には、年の近い子供は居なかった。

  だから、専ら祖父の農作業の手伝いをして過ごした。

 時間の空いた時には、剣術の修行を付けてもらう。

 そんなだから、彼女の人見知りは酷くなる一方だった。

 祖父は、高名な冒険者だった。

 剣一本で、巨大な火龍を屠ったといという話は、少女のお気に入りだった。

 「お前は、男の子のようだの」

 そう言って笑う顔が好きだった。

 「そんな事では、小鬼一匹、斬る事も適わんわ!」

 修行のときに見せる厳しい顔が好きだった。

 「ふう。やっぱり畑仕事は堪えるの。これなら小鬼ゴブリンどもを相手にする方がなんぼか楽じゃわい」

 畑仕事で見せる弱音を吐く姿も好きだった。

 そんな祖父が死んだのは、少女が十四歳の年だった。

 それから一年は、周りの村人の助けもあって、平穏に暮らせた。

 少しは他人にも慣れて、挨拶ぐらいは普通に出来るようになっていた。

 このまま、村に溶け込んで、そのうち誰かと結婚して、子供を産み、育てて、平穏な一生を終えるのだろう。

 十五の冬、それは起きた。

 小鬼ゴブリンによる襲撃。

 二十数匹の小鬼による襲撃は、しかし、大した損害も無く終息した。

 少女一人で全て斬り伏せたのだ。

 少女の戦士としての才能が開花した瞬間だった。

 しかし、彼女が、村の英雄になる事は無かった。

 襲撃された時に出た、数人の怪我人。

 それらは全て、少女の刀によって生まれた物だったから。

 初めての戦いの、恐怖と興奮に見境が無くなってしまったのだ。

 幸い怪我の程度は小さく、死人が出るどころか、数日で治る物だった。

 村人は、感謝の言葉を口にした。

 しかし、その日から、少女に挨拶をする者は居なくなった。

 春になって、少女は村を出た。

 村人に出て行けと、言われた訳では無い。

 腫れ物を触るような態度に、少女が耐えらなかった。

 時間をかければ、関係は改善されたかもしれない。

 しかし、少女は逃げる事を選択した。

 少女は村の近くにある、大きな街で冒険者になる事にした。

 剣の扱いにだけは自信が持てたから。

 祖父の遺品の刀を活用出来るから。

 問題はあった。

 人見知りな少女は、他人に話しかける事が出来ない。

 話しかけてもらっても、逃げてしまう。

 冒険者ギルドでの登録は、受付の女性が、優しそうで、実際に優しかったので、なんとか登録出来た。

 しかし、パーティーを組む事が出来無い。

 冒険者になろうと言う者は、強面で粗野に見える者が多く、どんなに勇気を振り絞っても、声をかける事が出来なかった。

 だから、暫く一人で活動する事にした。

 小鬼ゴブリンや猛獣を退治する位なら、一人で出来る。

 それに一人で活動すれば、誤って人を斬る事も無い。

 村での事件は、こんな所にも影響していた。

 小鬼ゴブリン退治、猛獣退治と言えど、命懸けの仕事なので払いは良い。

 宿屋暮らしでも、贅沢をしなければ、やっていけた。

 そんな彼女に声をかける者がいた。

 パーティーに入らないかと、誘われたのだ。

 男ばかりの三組だった。

 大鬼(オーガ)を狩りに行くのだと言う。

 大鬼(オーガ)というのは、身長二メートルを超える鬼の事だ。

 その巨体に相応しく、怪力でタフネスも高い難敵だ。

 十数匹も集まれば、小さな国ぐらいなら亡ぼす事も出来ると言う。

 だが、集団で行動する事は滅多に無いので、パーティーを組んだ冒険者の敵では無い。

 冒険者から見れば、割の良い討伐対象だ。

 男ばかりの中に、女の自分が入る事に少し抵抗が有った。

 しかし、自分のような、美しくも無い、不愛想な女を襲うような事はしないだろうと思った。

 彼女は、過小評価していた。

 彼女の月光を集めた様な銀色の髪は、同性からも羨望の眼差しで見られるほどだ。

 薄氷青(アイスブルー)の瞳も美しく、白い肌に、薄い桜色の唇。

 程よく突き出した胸に、細い腰、動きやすさ重視で選んだホットパンツに包まれた尻も、そこから伸びる太股も、健康的かつ肉感的だ。

 彼女は、過小評価していた。

 自分自身の魅力も、男達の獣欲の醜さも。

 それ故に、三人組と同行することに決めた。

 次の日の朝早くに出発し。

 その夜に犯された。

 大鬼(オーガ)が目撃された森へ向かう途中の、野営地で。

 助けを呼んでも誰の耳にも届かない。

 その声は、男達の行為のスパイスとなっただけ。

 三人、全員に穢された。

 それで、終わったと思ったが、違った。

 初めの男が、もう一度、おおいかぶさって来た。

 彼らは夜が明けるまで嬲るつもりだった。

 絶望の中で右手に触れる物が有った。

 それを握り振るう。

 それは鞘に収められたままの刀だった。

 男は両断された。

 赤い血が少女を濡らす。

 鞘に収めたままの刀で、何故、それが出来たのか。

 疑問に思う前に、残りの二人も切り殺す。

 剣の勇者の覚醒の瞬間だ。

 斬る事に特化した勇者。

 たとえ、ヒノキの棒であっても、その手に握り、振るえば、鋼鉄であっても、真っ二つに切り裂く。

 それが剣の勇者の力だった。

 「そうか…こうすれば、こわくなくなるんだ」

 この夜を境に、彼女は、人見知りをしなくなる。

 夜が明け、大鬼(オーガ)退治に向かう。

 引き受けた仕事はこなさなければ。

 彼女は、自分を過小評価していた。

 大鬼(オーガ)は、五匹いた。

 四人パーティーでも、勝ち目がない。

 男たちは大鬼(オーガ)が単独で行動していると思い込み、三人で相手すれば楽勝。

 そのついでに、良い思いをしようと画策して、結果、死んだ。

 もし、彼女に斬り殺されていなくても、ここで死んだだろう。

 彼女は、五回、刀を振った。

 大鬼(オーガ)の死体が、五つ、出来た。

 大鬼(オーガ)退治位なら、始めから一人で良かったのだ。

 「やっぱり、こわくない」

 彼女は、ギルドに大鬼(オーガ)討伐を報告した。

 三人の冒険者はどうしたか、と聞かれたので、襲ってきたから、斬った、と答えた。

 受付の女は、そうですか、と言っただけだった。

 元々、冒険者はアウトローである。

 ギルドの掟さえ守っていれば、冒険者同士のいざこざには、口をださない。

 犯されようが、殺されようが、冒険者同士の事であれば、自己責任。

 帰ろうとした彼女の前に立ち塞がった『モノ』がいた。

 それは、何かを言っているようだった。

 くさいし、うるさいし、じゃまだな。

 彼女が、そう思った刹那。

 チィィィン

 と、涼やかな音が響いた。

 邪魔なそれは、赤い水を噴き出して、静かになった。

 邪魔なのには変わらなかったので、避けて行こうとした。

 ギルドにいた、沢山の『モノ』が、彼女に殺到する。

 その数だけ、音が鳴った。

 音の正体は、刀を鞘に納める音だった。

 普通はそんなに響かないのだが、刀か、鞘か、あるいはその両方にか、音を響かせる仕掛けがあるようだ。

 彼女は、誰にも見えない速さで抜刀し、斬り、納刀していた。

 静かになった建物から出る。

 しずかになるのはいいけどよごれるのはいやだな。

 お湯を使うために、宿に向かう。

 この日から、この街の滅びが始まる。

 彼女は、自身に向けられる、敵意と恐怖に敏感に反応した。

 どちらも斬った。

 彼女を取り押さえようとした衛士も。

 彼女から逃げようとした一般人も。

 多くの者が斬られた。

 多くの者が街から逃げ出した。

 彼女は、一人になった。

 何日かが経過して。

 それは来た。

 大きな力を持つ、それは彼女を恐れなかった。

 彼女に、敵意を向けなかった。

 「迎えに来たわ、剣の勇者。私はスカーレット、術の勇者よ」

 そう言って微笑んだ。

 これが、剣の勇者、シアンの始まりの物語。


 それから、何か月かが過ぎた。

 スカーレットは、魔族の砦を、一望できる丘の上に立っていた。

 「姫さんよぉ、本当に、良かったのか?」

 傍らに立つ男が、そう尋ねる。

 「あら、心配しているの?」

 シアンは、少数の兵士を引き連れて、眼前の砦を落としに向かっていた。

 「ああ、あいつが連れてった兵の中には、いい女が何人かいたんだ。死なせちゃあ、勿体ない」

 「それは残念だったわね。帰って来るのは一人だけよ」

 「だよなぁ、なんで一人で行かせなかったんだ?あの程度の砦、嬢ちゃん一人で十分過ぎるだろ?」

 砦にいる魔族は、万に満たない程か。

 普通の軍隊なら、その数倍の兵数を揃えなければ、勝負にならない。

 それを一人で十分だと言う。

 「兵士達の方がね、勇者様御一人で、死地に向かわせる訳にはいかないとかって、格好付けてね。しょうがないから、志願者だけ連れて行かせたのよ」

 「なんだよ、お嬢ちゃんの事、なんも知らないのか」

 「知ってて付いて行く訳無いでしょ」

 「だわな〜。ふん、あの程度なら半日かからないか。昼寝でもして待つか。一緒にどうだ姫さん?」

 「強姦魔の隣でお昼寝なんて、ムリ」

 にべもなく言い放つ。

 男は気にした風も無く、手をヒラヒラと振って挨拶とし、立ち去った。

 それを見送り、

 「私達は、お茶にしましょう」

 後ろに控えていた少年に声をかける。

 もう、砦には、なんの興味も無かった。

 

 その頃。

 剣の勇者、シアンは砦の門の前に立って居た。

 堀は無いが、巨大な金属製の門を、こちらから開ける術は無いように思えた。

 砦の中の魔族も、何もできない十人そこそこの、人間の存在を無視していた。

 「シアン様、退きましょう。この人数では何も出来ません」

 副官に任ぜられた兵が進言する。

 彼はつい昨日まで、ただの一兵卒だった。

 シアンに同行すると表明した兵の中から、

 「じゃあ、あなた、副官ね」

 と、今日のお菓子を選ぶ気軽さで、スカーレットに任命された。

 そんなだから、剣の勇者様には、何か策が有るに違い無いと、黙って付いて来たのだが、流石にこの状況で言葉をかけない訳にもいかなかった。

 こんな所に立って居れば、何時、魔族が気まぐれを起こして、矢や魔法を打ち込んで来るか、分からない。

 その時、やっとシアンが何か言っている事に気が付く。

 「きりたいきりたいきりたいきりたいきりたいきりたいきりたいきりたい…」

 耳を澄ませて、やっと聴き取れる程の小声で。

 副官は、この時、やっと彼女の異状さに気が付いた。

 チィィィィン

 シアンは斬った。

 巨大な門を。

 周囲に居た、味方であるはずの兵士を。

 そして。

 笑顔。

 なんと無垢なことか。

 万人が見ても、これこそ、天使の笑顔と評するだろう。

 周囲の酸鼻極まる状況を見る事が無ければ。

 この事は決まった出来事だった。

 だから、スカーレットも一度は付いて行かなくていいと、言った。

 それに従わなかったのは、彼らだ。

 こんな事になるなら、そう言ってくれればと、あの世で不平を漏らしているかもしれない。

 しかし、自分に従わない者のために、何故説明してやる必要が有るのか。

 そんな面倒な事を、スカーレットはしない。

 ゆっくりと、砦に入っていく勇者。

 魔族が、慌てた様子で現れる。

 視界に入った途端に斬り伏せるシアン。

 その度に涼やかな音が鳴る、

 シアンは、この音が大好きだ。

 この美しい音は、刀を鞘に収める時の音。

 一回一回違うその音をシアンは楽しんでいた。

 斬る相手、斬る速さ、斬る時の力の入れ方。

 そんな要素で、納刀の時に鳴る音が変わる。

 たのしい。

 そう思った彼女は、どうすれば、もっと長い時間楽しめるかを、考え始めた。

 何回か、音を楽しんだ後。

 ある事に気付いた。

 一度斬っただけで動かなくなるから、一度しか、音を鳴らせない。

 なら、彼女のする事は一つだけ。

 一度で動かなくなるような斬り方はしない。

 もう、彼女は恐怖を忘れていた。

 どう斬れば、沢山音を響かせる事が出来るか。

 それを実証するために刀を振る。

 そのため砦の制圧には、想定以上の時間がかかったが、彼女の楽しみのためには、大した問題では無かった。


 夕刻。

 スカーレットの待つ丘に、赤、青、緑と、色んな色の返り血に染まったシアンが帰って来た。

 「お帰りなさい。こんなに時間がかかるなんて、何かあったの?」

 首を振って否定する。

 「たのしかったよ」

 笑顔。

 「そう。それは良かったわね」

 もちろん、同行した兵がどうしたか、などと、分かりきった事を尋ねたりしない。

 「お湯を用意させるわ。行きましょう」

 頷いて大人しく付いて歩くシアン。

 千裂の異名を持つ少女のある日の出来事。

 







暗い。

ギャグだったはず…

コメディだったはず…

どうしてこうなった…

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