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おまけ 執事と領主

今回はおまけです。

外伝より、本編に関係しない感じの話になります。

…と、思っていたのですが、書き上げた後、外伝でもよかったかと思っています。

今回登場の執事は、この後も少し出番があります。


 グレイ・アズアリスはエイトブリッジ領主邸の玄関で、主人を迎えた。

 彼は中年の人間で、この屋敷の執事。

 実質は、エイトブリッジ領主補佐。

 領主としてのほとんどの仕事を彼が行っていた。

 「お帰りなさいませ」

 「宴じゃ!宴の準備をするのじゃ!」

 帰宅の挨拶もせずに捲し立てる老人。

 「は、宴ですか?それはどのような?」

 どんな名目で、どれくらいの規模のものなのか。

 「勇者様の凱旋とお披露目に決まっておる!」

 決まってはいない。

 魔王軍を追い返したとの報告は受けているが、勇者の話は初耳だ。

 予想はしていたとしても。

 「そうですか。では、いつ頃に致しますか?」

 「うむ。出来れば今夜と言いたいところじゃが、さすがに用意できまい。明日でどうじゃ?」

 失礼ながら馬鹿でございますか?

 という本音は隠す。

 「明日は無理です。こちらの準備も間に合いませんし、招待客の皆様も来られないでしょう」

 戦勝の祝いだけなら、内輪で行ってもいいので、明日でも何とか出来る。

 しかし、お披露目となると、それなりの客を呼ぶ必要がある。

 「それに、勇者のお披露目でしたら、オグラシアンの姫君はどうなさるのです?」

 普通はオグラシアン王国から、勇者率いる軍が発し、それがこの街に立ち寄った時にお披露目の宴を開く事になっている。

 「ふん。小娘など、どうでもよいわ。キヤル様だけ居られればよい」

 キヤル様?

 確か、三人組の子供の名。

 ということは、その少年が勇者ということか。

 剣は持っていなかったし、銃も。

 それに、様と呼んだ。

 ハクロが、そう呼ぶのは、グレイの知る限り、初代治癒の勇者ガイ様だけ。

 キヤルという少年は、治癒の勇者で、ガイ様と同じように、敵味方関係なく癒し、それを見たハクロが心酔した。

 そう推察する。

 しかし、そんな事があり得るのか。

 初代様は兎も角、治癒の勇者といえど、回復術の反動は有ると聞く。

 あんな子供に耐えられるのか。

 いや、耐えて見せたからこその、ハクロの反応か。

 「そうもいかないでしょう?勇者のお披露目とは、そのお題目通りのものではない事はご存知のはずです」

 術の勇者はオグラシアン王家の嫡子と決まっている。

 勇者のお披露目は、その次期国王と、他国、他種族の有力者が、中立のエイトブリッジで顔を合わせる事に意味がある。

 そこで何が話されるかは推して知るべし。

 術の勇者のいないお披露目に金をかける意味がない。

 「知らぬ!腹黒共の為の宴ではない!キヤル様を褒め称える宴を開くと言うておる!」

 そう真っ直ぐに言われると言葉に詰まる。

 彼は腐っても領主。

 それも、エイトブリッジの領主だ。

 エイトブリッジは何処の国にも所属していない独立都市。

 そこの領主ということは、小さな国の王と同義。

 そんな彼が、宴を開くというのなら、誰がどう言おうと開く。

 「わかりました。宴の用意は致します。誰もいない、寂しい宴で良いと仰るのなら、明日でもかまいませんが」

 「いや、折角のお披露目、折角の戦勝じゃ、派手にしたい」

 「でしたら、一月はいただきます」

 「招待客の選別と招待状を書くのは、ワシが今晩中にやる。三日でどうか」

 「皆さん、着の身着のままで来られるわけではないのです。二十日では?」

 「そんなに時間をかけては、戦勝の祝いでなくなる!うーむ、十日でどうじゃ?」

 普通、戦勝の祝いは、戦地から勝利の知らせが届き、そこから軍が帰還する迄の間に準備をするので、凱旋と同時にでも行えるのだが、今回は違う。

 「では、そう致します」

 ギリギリの日程であるように思うが、なんとかなるだろう。

 「そうそう、魔王軍の兵の一部を街の南の平原に住まわす事となった。手配を頼む」

 何故、それを先に言わない?

 馬鹿か?馬鹿なのか?

 いや、彼は敬愛すべき、我らが領主。

 馬鹿である筈はない。

 「何故、そんな事に?」

 「キヤル様が治した怪我人が、野盗にでもなって悪さをしたとなったら、キヤルとが悲しまれるじゃろ?」

 言いたい事はわからないでもない。

 しかし、その為の費用は何処から出るのか?

 「その敗残兵の数は、如何程になりましょうか?」

 「ふむ、詳しくは分からん。しかし、その敗残兵というのはいただけんな」

 「は?」

 敗残兵でなければなんだというのか。

 「その呼び方では街の者との軋轢が生まれるかもしれん。そうじゃな、離反兵でどうじゃ?これなら、負けて仕方なく軍を離れたのではないと思われて、本人たちも気が楽じゃろ?」

 そんな事を、何故こちらが気にかけてやらねばならない。

 「その幾ら居るかわからない離反兵とやらを養うのに幾らかかとお思いですか?」

 「幾らでもかまわん。街の金は困っておる者の為に使う」

 それは困っている街の者の為の間違いだろう。

 「それでも足らぬとあれば、ワシの金を使えば良い」

 領主として、彼はかなりの資産を持っている。

 極端な事を言えば、この街の道の端の小石から住民まで、全て彼の物とも言える。

 しかし、そんな事を言わずとも、普段から質素な生活を一千年もすれば、それなりの蓄えが出来るのだ。

 「それは…」

 そこまで言われて否とは言えない。

 「とりあえず、守備隊の天幕を提供して雨露をしのがせて、仮設の住処が出来る迄の繋ぎに。建築は、東の棟梁の所が暇そうにしておるから、そこに任せれば良い。離反兵にも手伝わせて、使えそうな者は引き続き雇って貰う約束で相場の三割増し迄なら払って良い。あそこは年寄りが多くなってきておるから断らんだろう」

 回復術で癒されているのだ。

 健康体そのものの働き手を得る機会とも言える。

 「では、炊き出しなども、手伝わせましょう」

 「うむ。そうやって一緒に働けば、連帯感が生まれる。ただし、無理に働かされていると思わせてはいかんぞ?自分たちの生活の為じゃから、大丈夫だとは思うが、不満が溜まれば厄介な事になるかもしれんからな」

 つい今し方迄、まがりなりにも軍に所属していた者たちだ。

 暴動など起こされては、目も当てられない。

 「かしこまりました」

 恭しく一礼し、承諾の意を示す。

 「さぁて、キヤル様は、何がお好きかのう?」

 話しは終わり、ハクロは厨房へ向かおうとする。

 「どちらへ行かれるおつもりですか?」

 「ん?厨じゃ。料理長と宴の料理の相談をな」

 「それは、私の方でやっておきます。ハクロ様は招待状の方をお願い致します。明日の朝迄には、ご用意いただけるのですよね?」

 「なんじゃと!十日もあるのじゃから、そんなに急がんでも良かろう!」

 「いいえ。急ぎに急いで、十日でギリギリです」

 「ええい、分かった!茶を持てい!」

 言い捨てて、今度は執務室へ向かう。

 その背中を見送り、執事は厨房へ。

 厨房で茶の用意をしながら、使用人たちに指示を出す。

 棟梁や守備隊長を呼び、打ち合わせをしなければ。

 それに、今日中に現地の様子を見ておかねば。

 離反兵とやらの数の把握も急務だ。

 幾らかは、エイトブリッジに住み着くとしても、多くは自分の生まれ育った土地へ帰るだろう。

 幾らかの食糧を渡せばそれだけで居なくなるかもしれない。

 それにしても。

 あの主人の様子はどうした事か。

 と、執事兼領主補佐の男は疑問に思う。

 人間、歳を重ねると子供に返ると言うが。

 またも、思ってはいけない事が頭によぎり、頭を振ってそれを追い出した。

 

 

 


 

 



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