外伝 神はなにをした?
外伝です。
本編とはあまり関係ないけど、読んでもらうと本編がより面白くなるのではないかと思います。
漆黒の混沌は光に満ちている。
無数の世界の輝きによって。
年若い神、クリアムは混沌の片隅に、まだどの神も手を付けていない、産まれたばかりの世界を見つけた。
それを自分の世界としようとして、出来なかった。
他に二人、それの所有権を主張する者があったから。
曰く、
「私が先に見つけた」
神はサイコロを振らない。
あみだも引かない。
じゃんけんはする。
ただし、このじゃんけんというのは、己の才覚の全てを賭けて、相争うことを言う。
世界を賭けて、世界を舞台に殴り合う、斬り合う、撃ち合う。
長い永い闘争。
地を割り、空を焼く、戦争。
ある時、一人の神が、あることに気付いた。
このままでは、良い時を逃してしまう。
神々が、世界を手に入れようとするのは、それを自分の好きな『形』にする為。
しかし、ある程度時間が経ち、『形』が定まった世界は神ですら介入し辛くなってしまう。
そこで提案をもちかける。
この世界には、大地が三つある。
それぞれが一つずつ自分の物とするのはどうか?
その大地に生きる者の文明が、ある程度進む迄互いに干渉出来ないよう細工する事は可能なのだから、それで良いではないか。
クリアムは闘争に飽いていたので、それを受け入れた。
残る一人も。
では、誰がどの大地を手に入れるか。
北の大地は一番大きいが、闘争の影響で大きな窪みが出来ている。
その原因になった神が、責任を取る形になった。
東の大地は、次に大きいが、真ん中辺りに、東西に走る大きな傷がある。
これはクリアムが付けた物だった。
出来れば、無傷な方が、とも思うが、先に責任を取った神がいる手前、我儘は言えず、それがクリアムの物となる。
残る、他に比べて小さいが、充分な大きさのある大地を、残る神が己の物とした。
その大地は目立った傷が無かったので、クリアムは羨んだ。
しかし、そうと決まれば、決まったで受け入れる。
いつまでも羨んでばかりでは、競争に負けてしまう。
そう、競争だ。
異なる大地に、異なる神の世界。
そこに産まれた者が互いに出会う時。
何が起こるか。
まず間違いなく争いが起きる。
そこで滅ぼされてしまえば、元も子もない。
いかに早く、優秀な者を創り出さねば。
クリアムは、まず、植物の種、鳥の種、動物の種、魚の種を、それぞれ蒔いた。
それらは、世界に広まり、世界に合わせた生き物に育つ。
ここから手を入れて独自の生き物を創る事も出来るが、今回は、時間が惜しい。
知恵ある者の雛型として、人間を創る。
人間というのは、先輩神が創り出したもので、力は弱く、特殊な力も無いが、バランスが良く、よく増え、発展しやすい。
ただ、この貧弱なものでは勝てない。
そこで、人間を基本にして様々な種を創る事にする。
例えば、全体的に犬の特徴を備えたもの。
例えば、一部、猫の特徴を備えたもの。
例えば、ただ、大きくしただけのもの。
例えば、目を一つ増やしたもの。
沢山、たくさん、創った。
クリアムは、自らの創造力(想像力)に満足する。
後に、それら全てが、既に他の神に創られていることを知り、落ち込む事になるのだか。
さて、しかし、である。
ここで、人間の増え易いという特徴が問題になる。
限られた大地で無限に増える事は出来ない。
他の種の生存圏を脅かす。
そうなれば数は力である。
他の種を滅ぼしてしまう可能性がある。
であれば、人間か多種族の出生率を操作すればと思うのだが、それが上手くいかない。
実は出生率は、姿形と特性によって決まる。
姿形をそのままに、それをいじったところで大差は無い。
そこで、人間が何故そんなに増え易いかに注目する。
人間には繁殖期が無い。
いつでも繁殖期であるとも言える。
繁殖期のある、他の種に比べ、いつでも子を生す事が出来るから、幾らでも増える。
そこで、種毎に、繁殖期を操作出来る食べ物を用意する事にした。
例えば、猫耳種にはマトゥータの実だ。
この実を生で食べるか、酒に漬けて飲めば、強制的に繁殖期状態になる。
また、同じ実を、火を通してから食べると、繁殖期状態を抑える事も出来る。
繁殖期の状態は、所謂、発情した状態なので、そこを外敵から襲われても対応できるようにと考えだ。
これで、それぞれが、自分たちで出生率を操作出来る。
問題は創り過ぎた、それぞれの種に対応する食べ物を設定するのが大変なことだけ。
それは頑張って解決。
次にクリアムは、この世界に戦いが無くならない工夫をした。
万一、それぞれが友好的に纏まり、争いを忘れてしまえば、他の大地の者と争いになった時、容易く滅ぼされてしまうだろう。
そこで考えたのが魔素だ。
これは、大地世界に自然発生し、人体に吸収される。
吸収された魔素は、魔力に変換され、魔法や、種族ごとの特殊な力を使用する為の原動力になる。
また、吸収されなかった魔素は、凝り固まって魔物になる。
この魔物という物は、人の近寄らない森や、洞窟の奥で生まれ、他者を襲う為に、それらの生存圏を目指す。
戦う為の力と、戦う相手を、この魔素という物で用意した。
これで大丈夫と、満足したクリアムは、自分の管理する他の世界の様子を見る為に、この世界を離れた。
暫くして戻ったクリアムは愕然とした。
人間が他の種族を圧倒し、滅亡寸前の種が多くあったからだ。
人間は、他種族と魔物を、魔族と呼び、同じ物として扱い、自分たちに害をなす者に対抗する為と団結し、他者を滅ぼさんとしていた。
これを機に、クリアムも人間以外の種を魔族と呼ぶ事にした。
魔族は、それぞれの種の中でさえ団結しきらず、集落ごとで対抗した為、被害が大きくなっていた。
これはマズイ。
人間が滅びるのはいいが、その他の種が滅びるのはよくない。
それでは色々と創った意味が無くなる。
手を打たなければ。
どうやって?
天変地異を起こして、人間の数を減らすか?
しかし、それでは、他の種も巻き込んでしまう。
本末転倒だ。
では…。
暫し考え込み一つの案を思い付く。
クリアムは、紅く輝く石を創り出した。
魔血魂と名付けられた、その石は、力の増幅器。
取り込んだ者の力を大きく強化する。
取り込んだ者が、平和的な性格では意味が無いので、石そのものに、人間を滅ぼす事を目的とする、疑似人格を備えさせて、それが精神を乗っ取るようにした。
しかし、個を幾ら強化しようとも、集団で行動する人間には勝てない。
そこで強制的に団結させることにした。
魔族の体内に石が取り込まれると、その者から見えない力が伸び、それに触れた魔族の肉体を奪う。
無数の体を、一つの意思の元、統一する。
そうすれば、力が強く、特殊な能力の有る魔族が人間に負けることはないだろう。
それに、力を合わせて勝利した記憶があれば、事が済んだ後も協力して生きていくだろう。
魔血魂の運用を天使に任せ、暫く様子を見る。
天使とは、神を手伝う擬似神格で、簡単な判断は自分で出来る。
上手くいきそうだ。
クリアムは満足した。
うんちく
神・クリアム
世界を管理する管理神の一人。
知恵あるものの前には、幼い子供か、大きな白鯨の姿で現れる。
幼い姿であるのは、先輩神から、そう見られている影響。
性急で飽きっぽく、後先を考えないところがある。
本文中にクリアムの姿を描写していないことに、後で気付いて、うんちくを入れました。