エイトブリッジの三人
「キヤル!海だよ!」
シアンがはしゃいでいる。
「ばーか。あれは河だ」
「嘘だ!向こう岸が見えないんだよ!」
「海、見たことねぇのか?波も無いし、潮の匂いも無いだろうが」
「嘘だよね?私が山育ちだからって、からかってるんでしょ?」
「違います。ロックさんは本当の事を仰ってますよ」
「ええっ!本当に、これが河なの!」
「驚くのは、まだ早いですよ。ほら、あれを見て下さい」
言われた方を見ると、何か凄い物があるのは分かったが、少女には、それが何で、どう凄いのか理解出来ない。
「何?あれ?」
「何って、橋だろ?」
「橋?橋って川を渡るのに架けてあるやつ?」
「それ以外にどんな橋があるんですか?」
「いやいやいや、待って、向こう岸が見えない川なんだよ?歩いて渡るの?それにこんな幅の橋どうやって架けたの?」
「歩いて渡りますよ。それに橋の途中に街が有るんです」
「そこが、かの有名なエイトブリッジって訳だ?」
「はい。そこがとりあえずの目的地になります」
「エイトブリッジって割に橋は一本しかねぇんだな」
「昔は八本の橋が架かっていたらしいですよ。その橋同士を更に橋で繋いで今の形になったらしいです」
「知ってたし」
嘘ではない。
忘れていただけ。
「誰がそんな事したの?」
「魔王襲来以前の魔法使いの方々らしいですよ」
ただ魔王襲来と言った場合、初代魔王がこの世に現れた時のことを指す。
それ以前と、以降で、特に人間側で文化文明の断絶が起きている。
魔法技術などは、襲来以前の方が発展していた。
「じゃあ、魔法で作ったんだ」
「そうだ!思い出した。この橋は向こう岸まで続いてる訳じゃないんだ!」
「それじゃあ、向こうに渡れないの?」
「いや、そうじゃねぇ。実は途中に島が有るんだ。いや、この場合中洲か?とにかく、陸地が有って、そこまでは、この橋で、そこから向こう岸に別の橋が架かってるんだ」
「よくご存知でしたね」
「ガキの頃、勉強に付き合わされてな」
勉強は嫌いではなかった。
「私、勉強なんかした事ない」
シアンは読み書きと簡単な計算しか出来ない。
「それで普通です」
「ちょっと待って、この橋、幅も凄くない?」
東西に流れる河に、南北に架かる橋の、東西の幅の事を言っている。
「ああ。こっちの端から向こう端が見えねぇな。なんだってんな大きな橋を架けたんだ?」
「向こうに渡るためでしょ?」
「馬鹿、それだけならこんな幅いらねえだろ?」
「魔法的な効果を得る為らしいですよ」
「魔法?」
「はい。流れる水から、街を護る魔法です」
「なに?この川氾濫とかするの?」
「いいえ。これだけ大きな河ですから、多少の雨では影響はありません」
「中洲が削られない様にか?」
「そうです。河の真ん中にある街、その土台である島が、流れに削られて、無くなったりしない様護る必要があるんです」
「その魔法をかけるのに、こんな大きな橋がいるの?」
「かけるだけじゃ無くて、維持するのにも必要なんだと思います」
「ふーん、よくわからないけど、魔法って凄いんだねー」
「って、オマエ、本当になにも分かってないだろ?」
「だって、魔法なんて分かるわけないじゃない」
「いや、そこじゃなくて、河の流れが、中洲を削るってとこから分かってねぇだろ?」
「分かってるわよ、それくらい」
「本当か?じゃあ説明してみろ」
「…えーと?」
「ほら、やっぱり、分かってねぇ!」
「うう…」
悔しそうに唸る。
「ばーか、ばーか!」
「馬鹿じゃないもん!」
水面を泳ぐ水鳥の親子を見ながら、
「平和ですねぇ」
と、呟くキヤルであった。
街の門をくぐる。
交易と観光で成り立っているこの街は、入るのも、出るのも自由だ。
「わぁ、魔族の人もたくさん、いるね」
街の中と外の、一番の違いがそれだった。
シアンたちがいた、河の北側、人間領と呼ばれる地域では魔族は珍しい。
たまに、奴隷として使われているのを見るくらい。
自由に歩く魔族を見るのは初めてと言っていい。
額に角のある者、猫耳、兎耳、下半身が馬の者。
「うはぁ!あの兎のおねぇちゃん、エロいカッコだなぁ!」
種族の衣装なのか、人間領では滅多に見られないような、露出の多い服を着ている。
二人とも物珍しそうに辺りを歩く人々を見る。
「ところでさ」
シアンが前から気になっていたのだけど、と切り出す。
「魔族と魔物ってなにが違うの?」
その言葉を聞くやいなや。
ロックは素早く右手で、シアンの口を塞ぎ、辺りの様子を伺う。
キヤルも、緊張して、周りを見ていた。
「誰も聞いていなかったようです」
小声で報告。
「よし。シアン、お前の疑問は後で説明するから、黙れ。喋るんじゃねぇぞ。分かったな?」
二人の真剣な様子に気圧され承諾する。
「では、ギルドに急ぎましょう」
大きな街では、入り口近くにギルドの支部かあるのが普通だ。
この街でも、門をくぐってすぐの所にあつた。
ギルドの建物に入ると、受付は混んでいたので、順番待ちの札をもらって、隅のテーブルに座る。
ロックが周囲を睨み付けると、冒険者達は、テーブルから距離を取った。
「ふん、ここも腰抜けばっかりだな」
「もう、一体なんなの?」
二人が、何を警戒しているか分からず、不満気だ。
「いいですか?まず、天下の往来で、魔族と魔物のどこが違うかなんて、聞いてはいけません」
「問答無用で死ぬほど殴られたいってんなら構わないけどな」
「なんでよ?」
「失礼だからです。魔族と魔物は全然、別のものですから」
「そうなの?」
「これだから、田舎者は…」
ロックが呆れ顔をしている。
キヤルも似たような表情だ。
「まず、魔物には親がいません」
「嘘だよ。それじゃあ、どうやって増えるの?それに、あいつらに襲われて子供を産んだ人の話は?」
「この世界にはですね、魔素という物があるんです。森の奥や洞窟の中に発生して、それが凝り固まって小鬼や大鬼になるんです」
「あいつら、オスしかいないのは知ってるか?」
首を振って、否定する。
興味なかった。
ロックが、それを知っているのは、人型はしているのだから、メスがいたら襲おうと確かめたからだろうか。
などという失礼な想像をする。
「オスしかいないから、自分達だけでは増える事が出来ません。だから、人や動物を襲って子供を作るんです。だから、余計に魔族と魔物を一緒にするというのは、失礼なことなんです」
訳の分からない怪物と同列に扱う事が、すでに無礼なのに、お前は母と化け物の間に産まれたのだと、言っているとも取れる言動は、怒りを買って当然であろう。
「因みに、魔族という呼称は、魔法的に人間より優れている人たちに対する総称です。元々は人間側から見ての呼び方だったんですが、いつの間にか、彼ら自身も自分たちを魔族と呼ぶようになりました」
「大昔、人間と戦争をした時に、いろんな種族がまとまって戦ったんだ。そのあたりからじゃないか?」
複数の種族が纏まったときの呼称がそれしか無かった為にそれを使用し、定着したという説が有力で、ロックもそう教わった。
「まあ、失礼な事を言ってだってのは分かったけど、なんで、あんなに慌てたの?襲われても返り討ちにすれば良いじゃない?」
もちろん、謝っても許してもらえず、相手が暴力を振るったとしてだ。
「マジか…おい、キヤル?」
信じられない言葉を聞いたとばかりに、キヤルを見る。
「申し訳ありません。手続きなど全部僕がやっていたものですから。それにしてもこんな事なら、立ち会うくらいはしてもらうべきでした」
「いや、お前のせいじゃないだろ?この田舎者がものを知らんのが悪い。てか、初めて登録した時に説明受けたろ?」
「うん。でも、説明してくれた人の話しが長くてよく聞いてなかったんだよね」
「いいですか?冒険者登録と武装の許可はそれぞれの街のギルド毎に行わないといけません。登録が済む前に武器を使用するような騒ぎを起こすと大変な事になります」
「良くて奴隷か、悪くすれば死罪もあるぜ?」
「ふーん?」
今一つ、事の大きさが実感出来ていない。
「この際だ、キヤル、ギルドと冒険者について教えてやれ。知らずに変な騒動を起こされても敵わん。いや、いっそ奴隷に落として、俺が買うか?そうしたら俺様に絶対服従のシアンにあんなことやこんなことを…ぐふふ」
奴隷がどうのというのは、乗り気ではないシアンに対する脅しで本気ではない…筈だ。
「そうですね。時間はありそうですし」
受付の方を見れば、なにか揉めているらしく、自分達の順番まで、まだまだ、時間がかかりそうだった。
「では、まず冒険者が普通の人に、どんな目で見られているとお思いですか?」
「危険な仕事をしてくれる便利な人?」
「少し違います。命がけの仕事しかできない、社会不適合者です」
「不適合者って…」
「普通の仕事が出来ないから、危険な仕事をするしかない人ということです。シアンさんもそうですよね」
「うん」
村に居ずらくなって、街に出てきたはいいが、人見知りが徒になって、一般職に就くことが出来ず、冒険者になったのだ。
本当は、パン屋や花屋の店員になりたかった。
「そんな人たちを、何とか纏めて、社会の役に立ってもらおうというのが、冒険者ギルドです。社会不適合者という事は、普通の法が守れない人という事なので、ギルドは冒険者の為の法を作りました」
「え?法律って、王様や国の偉い人が決めるんじゃないの?」
当然の疑問だ。
「普通はそうです。でも、普通じゃない人の為の決まりですから」
ギルドが、そこまでの力を持つに至るまで、紆余曲折あったのだが、今、彼女に説明しても無意味だと判断する。
それに、実際には、国の法に、冒険者の特権を認めさせているのだが、ギルドが法を作ったと表現した方が、彼女には理解しやすいだろう。
「例えば、武器の扱いについてです。普通の人は街を歩くとき武器なんて持ち歩かないですよね?それは、常識がそうだという事もありますが、法律で禁じられているからです。旅をする人は護身の為に武装しますが、宿が決まれば、そこに預けるのが普通です。でも、冒険者は常に武装していても咎められることはなく、条件がそろえば、それを使用できます」
「条件?」
それを、教えてもらわないと。
「まず、冒険者同士の諍いであれば構いません。相手を殺しても大丈夫です。指名手配犯や現行犯を捉える為に使うのも許可されてます。この場合は殺さない方が無難です。勘違いという事もありますし。一般の人に対しても、自衛の為なら大丈夫です。この時は殺してはいけません。無力化するのに必要な手段として許されているだけです」
「?なら、さっきの話だけど、襲われて反撃した、は大丈夫じゃないの?なんで奴隷に落とされたりするの?」
「ギルドが街単位であるからです。この街のギルドに登録するまで、僕たちは何処にも所属していない無法者として扱われます」
「その辺りの盗賊どもと同じって事だな」
「なんで、そんな事になるの?前の街のギルドにはちゃんと登録しているし、街道にいる間はどうなるの?」
「街道上では一応、前のギルドの所属で冒険者として認められます。街に入った時に冒険者としての資格が凍結されるんです」
「凍結?」
「はい。資格が無くなった訳ではありません。この街で登録しなくても街から出れば、冒険者として扱われます」
「だから、この街で仕事をする気がないなら、登録しなくても良いんだぜ?」
ロックが薄ら笑いを浮かべながら言う。
「駄目ですよ。嘘を教えては。冒険者は国に税を納めていませんから、その資格がない時に、騒動に巻き込まれた場合、とても不利になります」
「不利?」
「はい。まず、こちらの言い分は聞いてもらえません。こちらに非が無くても、相手の言い分が優先されます。それで何か罰を受けることになった時、より重い罰を課せられます」
「相手が殴りかかってきたからって、殴り返したら、こっちが悪者になって、衛兵に捕まって、碌に取り調べも受けられずに奴隷行って訳だ」
「街ごとに登録が必要な理由は、登録を拒否する権利がギルドにあるからです」
胸元の小さな札を指さす。
鎖で首にかけられた、小さな長方形の金属片。
同じ物をシアンとロックも持っている。
「この認識証には魔法で色んな情報が書き込まれています。どこのギルドに何時登録したか、どんな仕事をこなしたか、どんな問題を起こしたことがあるのか全部です」
「まあ、全部っても、ギルドが把握している分だけだけどな」
ギルドにばれていない悪事までは、書き込まれない。
ギルドが書き込むのだから当然の事だが。
「それで、あまりにも素行が悪すぎると判断された時には、登録を拒否されることがあります。滅多に無い事ですけど」
「社会不適合者を纏めるのが、ギルドの役目って言っても限度があって、その許容範囲が街ごとに違うって事だな」
「そうなれば、一刻も早く街を出るのが得策です。冒険者を辞めるという手もあるにはありますが、ギルドにも見放された者にまともな職なんてありませんから」
「なんかまともな仕事に付ければ税を納める気があるって判断されて、国に所属したって事になる。そうすりゃあ、なんかしでかして衛兵に取っ捕まっても、普通に調べてもらえるし、喧嘩ぐらいで奴隷って事もなくなるんだがな」
「なんだか、初めから冒険者にならない方がいいような気が…」
「その通りですよ。自分から進んでなるようなものではありません」
「そうか?規則を守ってる限りには特権もあるし、良いと思うぜ?」
「特権なんてあるの?」
「ほんとにお前はなんも知らないで冒険者やってんのな」
「特権と言えるかどうか分かりませんが、冒険者の権利についてもお教えしておきましょう。まず、先ほども少し申しましたが、国に税を納める必要がありません」
その代わり、国がやるべき、魔物退治や盗賊退治をやっているとも言えるのだが。
「国を出るのも入るのも自由です」
戦争中でもない限り、通行手形など必要ないという事だ。
認識証がその代わりになる。
「街中での武装と、その使用も権利です」
これは、冒険者と一般人を見分けやすくするという意味もある。
冒険者に不用意に近づいて危険な目に会わないように、市民に注意喚起しているという事だ。
「あと、多少、揉め事や騒動を起こしても、衛兵にしょっ引かれる事はないってとこだな」
シアンがロックに切りかかっても、ロックが下半身丸出しで走り回っても、冒険者だからと、問題にならないのは、そういう事だ。
と、そこまで話したところでキヤル達の順番になった。
「では、今回はお二人とも手続きに立ち会ってもらいましょうか」
いつもはキヤルが二人の認識証を預かって一人で手続きしている。
「おいおい、俺様もかよ?」
「たまにはいいでしょう?」
折角、キヤルが誘ったのだが、担当から受けた説明は、今しがた少年がしたものとほぼ変わらず、二人は退屈であくびを噛み締める事となった。
「キヤルさん達には、本部への出頭依頼が出ています。今日中とは言いませんが近いうちに町の中心部にあるギルド本部に顔を出して下さい」
手続きを無事に終えて去ろうとしたところに、そう付け加えられる。
「何の御用でしょう?」
「ギルドマスターがお会いしたいとのことです。詳細は伺っておりません」
「分かりました。有難うございます」
礼を言ってギルドを出る。
「そろそろお昼だよ。何か食べようよ」
「あそこの屋台とかいいんじゃねぇか?いい匂いさせてるぜ」
「じゃあ、幾つか屋台を巡りましょうか」
この街の大通りには観光客を相手にした露店で賑わっていた。
その中の一軒で肉の串焼きを買って食べ歩く。
「なんか、味、薄くない?」
「そうか?」
「どちらかというと、魔族の方向けの味付けかもしれません」
「そうなの?」
「はい。人間は塩や香辛料を好んで使いますが、魔族の方は素材そのものの味を愉しむ傾向にあります」
人間は、食材を保存するために塩に付けたり、長期間の保存のために出た臭みを消すために、香辛料をふんだんに使う。
一方、魔族は収穫後、間を置かず食べ切ってしまうので、保存に塩を使ったりせず、肉の臭みも含めて味だと思っているので、それを消そうなどとは思わない。
「なら、店の場所がおかしくないか?こっちは人間が入って来る方だろ?」
「だからですよ。折角、珍しい街に来たのだから、普段食べている物とは違う物の方が喜ばれるでしょう?」
「ふーん?そんなもんか?」
「ロックって意外と薄味でも大丈夫だよね?」
「ああ、ガキの頃は、釣った魚をその場で捌いて、そのままとか、海水で洗って食うとかしてたからな」
「シアンさんは、肉の臭みとか残っているのは苦手ですよね」
「お肉自体、あまり好きじゃない」
「そうなんですか?」
「匂いは美味しそうに思うんだけど、食べてみるとなんか違うんだよね」
「なんだそりゃ?俺様も、おまえも体が資本なんだから好き嫌いすんなよ」
「してないじゃない!食べてるでしょ!ちゃんと!」
恒例となりつつある口喧嘩が始まる。
「あ!」
キヤルが滅多に出さない、驚いた声を上げる。
「なんだ!どうした!」
少年の、常にない冷静さを欠いた声に、辺りを警戒する二人。
「アイスクリームがあります!」
「あいす?」
「アイスクリームですよ!知らないんですか?」
「知らない。何?それ?」
「冷たくて、甘いお菓子です!」
「冷たい?」
二人は、それがどんな物か、想像もつかない様子だ。
「いいから!食べましょう!食べたら分かります!」
興奮気味に屋台に駆け寄る。
「てか、まだ、串焼き一本食っただけだぞ。デザートには、まだ、早いだろうがよ」
文句を言いながらも、放って置く訳にもいかず、少年の後を追う。
「ちょっと!待ちなさい!こんな高いお菓子って!」
値段を見たシアンがキヤルを止める。
一人前で、先程の串焼きが十本は買えてしまう。
「それだけの価値があるから、良いんです!」
「駄目です!無駄遣いはゆるしません!」
「冒険者なんて、いつ死ぬか分からないんですから、お金なんて使うべき時には、使わないと!」
ロックが言いそうなことを言う。
「まあ、これはキヤルの言い分が正しいよな」
「そうでしょう!」
味方を得た少年は、三人分を注文してしまう。
代金を支払い、受け取った氷菓子を美味しそうに食べ始める。
「もう…」
文句を言いつつも、もうお金を払ってしまっているので、シアンもロックも自分の分を受け取り、食べてみる。
「甘い!」
「冷たい!」
冷たい食べ物を食べた事のない二人は、その冷たさと、甘さに驚嘆する。
「でしょう!美味しいですよね!」
満面の笑み。
この笑顔を見られただけでも、高いお金を払った価値はあるか。
「甘い物に目がないなんて、やっぱりガキなんだな」
ロックがからかう。
「う…アイスクリームだけです。甘い物が好きだなんて、そんな子供っぽいこと…」
「嘘つけ。いつも甘い物を食う時は顔がにやけてるんだぞ?自覚なかったのか?」
「う、嘘です!嘘ですよね⁉︎」
少女は顔を逸らした。
取り乱している少年が珍しくて笑いを堪えている。
「うう…ちゃんと隠せてると思っていたのに…」
と、落ち込みながらも氷菓を口に運ぶと、顔が綻ぶ。
食べ歩きを再開する三人。
「でも、こんな珍しい物をよく知ってたな?」
そう感心しながらも、目は前から来る女性に釘付けだ。
その尻に衝撃。
後ろを歩く少年が蹴ったのだ。
いつものキヤルからは想像も付かない、その行動に驚き、平衡を崩して女性にぶつかってしまう。
諸共に倒れ込む二人。
「大丈夫ですか?連れが失礼を致しました。申し訳ございません」
女性に手を差し伸べながら、謝罪の言葉を口にする。
長く美しい黒髪と、大きくて黒い翼を持った女性は、その手を取る。
運命の出会い。
その瞬間。
クロエが飛んで超えられ無い河幅というのは、少し盛り過ぎだったと後悔しています。陸から水平線まで二キロ程しかないんですね。
と、いう事でクロエの母も河幅が広いとしか知らず、多分そうだろうと言っただけで、実際にはそこまで広く無い事にします。