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ロックと愉快な仲間たち

 未だ日が昇り初める前。

 キヤルはベッドで寝ていた。

 就寝が遅くなった事もあり、抜け出す前に眠りに落ちたから。

 外や床で寝るのが普通になっていた少年にとって久しぶりのベッドは、とても心地良かった。

 すぐ隣に良い香りのする存在も居て、とても安心して熟睡していた。

 「コラー!キヤルー!」

 怒鳴り声で起こされる。

 「何ですか?ロックさん?」

 寝ぼけ眼で闖入者に尋ねる。

 睡眠を邪魔されて、声に不機嫌の色が滲んでいる。

 「何だも何も無い!どういう事だ!」

 「何がです?」

 「たった六回しただけなのに、また立たなくなったぞ!」

 「一晩で、そんなにしたんですか?」

 「普通だろうが?」

 「僕は経験が無いので分かりません」

 「そんな訳無いだろう?シアンちゃんみたいな可愛い子ちゃんと一緒に寝てて未経験なんて信じられるか?」

 「いや、僕、子供ですし」

 「ふん、子供でも立つもんは立つ。ヤるかヤらんかは甲斐性だ」

 「そんな話をしに来たの?なら、帰ってくれない?まだ眠いんだけど」

 シアンが不満を口にする。

 「おう、キヤルが治してくれたらすぐ、帰るわ。朝までなら、もうニ、三回出来るしな」

 「まだヤる気ですか?お相手の方はもう疲れてお眠りになってるんじゃないですか?」

 言いながらも回復術を掛けてやる。

 「それならそれで、睡眠姦も乙なもんだ。まぁ、俺様のハイパーマグナムを入れられて眠っていられる女もおらんだろうがな!」

 「やめてください。可哀想です」

 「何がだ?気持ちイイのだから良いだろうが?」

 この言葉が、この男の全てを物語っていると言っても過言では無い。

 善悪を始め全ての基準に快楽がある。

 気持ち良ければ正義。

 そして、他人もそう思っていると考えている。

 だから、無理矢理始めても、最終的に気持ち良くなったのなら文句を言われる筋合いは無い。

 俺様に抱かれて気持ち良くならない女などいる筈が無い。

 言葉でなんと言おうが気持ち良い筈だ。

 だから、何時、誰とやっても、誰にも文句は言わせない。

 「その考え方はお辞めになった方がよろしいですよ」

 「なんでだ?」

 言葉で説得するのは難しいと思う。

 キヤルが何を言っても、子供だから本当の気持ち良さを知らない。

 だから、そんな事を言うのだと一蹴されるだろう。

 ロックより性剛な女性がいて、嫌と言う程搾り取ってくれたら、考えも変わるだろうか。

 そう思うが、この男が参る程の相手がいるとも思えない。

 「もういいです」

 言葉での説得は諦める。

 初めから言葉でどうにか出来る相手では無い事も分かっている。

 「でも、今日はもうお休みください。でないと回復術でも治せなくなるかもしれませんよ」

 性欲に重きを置くというのなら、それを盾に取ってコントロールする。

 「それは困る」

 「では、僕の言う事を聞いてください」

 「むう、仕方ない」

 言ってベッドに上がり、大の字になる。

 「ちょっと!何してるのよ」

 「寝る」

 「自分の宿に帰りなさいよ!」

 「ヤダ。メンドい」

 ベッドを占領された二人は、夜が明けきるまで床で寝る事になった。

  

 「で、お前等、これからどうするんだ?」

 朝食の席でロックが聞いてきた。

 「暫くはこの街で活動します」

 「なら、街を離れる時は声を掛けろ。一緒に行く」

 不能が何時再発するか分からない以上、キヤルから離れる訳にはいかないが、何時も一緒でいる必要は無い。

 「ロックさんも一緒に行動しましょう」

 「え?なんで?私、嫌なんだけど」

 シアンがすかさず拒否の意を示す。

 「なんでお前が嫌がる」

 こっちの台詞だと言いた気だ。

 「まぁまぁ、同じ勇者同士、仲良くしましょう」

 「なんでヤラせてもくれん女や、餓鬼なんかと仲良くせにゃならんのだ」

 「ロックさんの病気を治す為ですよ」

 「治るのか?」

 「分かりません。ですが一緒に行動して原因が分かれば治す方法も見つかるかもしれません」

 治るかどうか分からないと、正直に言うだけましか。

 ロックは、そう思ったが、そもそも病気であるという事が嘘なのだ。

 「可能性はあるのか…」

 ならば少しの間、我慢して完治したら自由にする方が良いかもしれない。

 キヤル一人なら、それでも御免だが、シアンがいる。

 一緒に居ればヤる事も出来るかもしれない。

 「よし、ならパーティー結成だ。もちろん俺様がリーダーな」

 「はい、それで良いですよ」

 「え。嫌なんだけど」

 「何が不満だ!」

 「全部よ!」

 「何でだ?ハンサムでナイスガイでクールな俺様の何処が駄目だと言うんだ?」

 「不細工でスケベで下品で馬鹿の間違いでしょ!」

 「何おぅ!」

 「何よ!」

 「コラ!刀を抜こうとするな!危ないヤツだな!」

 「大丈夫よ。死なない程度に斬るだけだから」

 「おい、キヤル。コイツおかしいぞ。ちょっと口喧嘩しただけで、人を斬ろうとしやがる」

 キヤルが簡単に治すものだから、人を斬る事に抵抗が無くなり過ぎている。

 それは問題ではあるが大した事では無い。

 キヤルの側に居る限りにおいては。

 「シアンさん、お行儀が悪いですよ。流血沙汰は食べ終わってからにしてください」

 食事中に血を見るのは気持ち良いものでは無い。

 「いや、食った後でもダメだろう」

 もっともな意見だ。

 「大丈夫ですよ。すぐに治して差し上げます」

 「いや、そういう話じゃねぇし。常識が無いって話だろ」

 「あなたに常識が無いとか言われたくないんだけど」

 「はぁ?俺様は常識人だぞ」

 「何処がよ!ごーかんま!」

 「なんだと?犯すぞ、コラ」

 「ほら、やっぱりごーかんまだ!」

 シアンは口論を始めると言動が幼くなるようだ。

 「二人とも、騒いでないで食事を終わらせてください。今日から仕事ですよ」

 この場で一番大人なのはキヤルかもしれない。

 

 三人は一週間、冒険者として活動した。

 なにかというとすぐに刀を抜く女剣士。

 女に見境ない銃士。

 そんな二人の手綱を握っているように見える子供。

 三人は短い間に街で知らぬ者が居ない程有名になっていた。

 勇者であるという事は三人の秘密にしている。

 勇者である事が知られれば、王国から迎えが来て保護される。

 対魔王の切り札である勇者は行動に制限を受ける事になるだろう。

 シアンはそれでも構わなかったが、二人は嫌がった。

 ロックは単純に自由に動けなくなることを嫌った。

 キヤルは目的を果たす為に行動に制限を受ける訳にはいかない。

 それに城には彼女がいる。

 今、彼女に会う訳にはいかない。

 彼女の元に勇者が揃ってしまえば、本格的に魔族との戦いが始まる。

 それではもう一人が救えない。

 そんな訳で有名になり過ぎるのは考えものだった。

 ただ腕の立つ冒険者が居るという話ならどんなに広まっても良いのだが、ロックの特殊な力、「空の一撃」が知られるのがまずい。

 「空の一撃」は銃に弾丸が装填されていなくても引き鉄を引けば弾が射出されるという、銃の勇者特有の能力である。

 「空の一撃」を使う者が居ると知れ渡るという事は、銃の勇者が居ると知れ渡るというのと同義だ。

 それでは秘密の意味が無い。

 だから、とりあえず今受けている仕事を済ませた後、次の目的地へ向かう事にしていた。

 今、受けているのは、盗賊退治だ。

 他の街との人の流れに異変が起き始めていた。

 来る筈の人が来ない。

 届く筈の荷が届かない。

 そんな事が何度も起きた後、妻子を連れて視察に出た貴族が一人で戻って来た。

 不審に思った冒険者ギルドのマスターが件の貴族に話を聞いた。

 貴族はなんでもないと、マスターを追い返した。

 その態度に不審感を深めたマスターはギルド直属の雑務係を動員して街道沿いの森を探索させた。

 彼らは冒険者としては歳を取り過ぎ、半引退の立場の者で、毎月、ある程度の賃金を受け取り、ギルドの雑用をしている。

 街のちょっとした困り事を解決したり、危険の少ない偵察任務を行うのだ。

 そして、もたらされた盗賊の存在。

 改めて貴族に話を聞くと、観念し、妻子と、たまたま一緒になった姉妹二人が盗賊に拐われた事を告白した。

 人質の有無は重要だ。

 盗賊が人質を盾にしてきた時にどうするか。

 それが決まっていないと遅れを取る事もある。

 人質の安全も考慮した結果、キヤル達のパーティーに、名指しの依頼が来た。

 三人は今、盗賊が塒にしているという洞窟を目指して森の中を進んでいる。

 「そういえば、前から疑問だったんだが」

 先頭を歩くロックが口を開く。

 彼が先頭なのは安全の為である。

 彼は恐ろしいまでの勘の良さで、罠や敵を察知する。

 シアンも勘は良い方だが、話をしていたりすると、見落としも多い。

 実はキヤルが先頭を行くのが一番安全なのだが、子供が一番危険な位置になる事にシアンが反対した。

 「勇者の紋章の事だけどよ。餓鬼の頃には無かった筈なんだが?」

 ロックは貴族に育てられた。

 彼に紋章が有れば彼らが気付いていた筈だ。

 「紋章は時期が来るまで浮かんで来ないんです」

 「て事は、最近出て来たって事か?」

 「はい」

 「その時期ってどういう事?」

 シアンも興味を持って聞いてくる。

 「魔王の代替わりの時期という事です」

 「生まれ変わりとかじゃないの?」

 歴代勇者は歴代魔王を退治している筈だから。

 「魔王を退治すると言っても、力を削いで封印するだけですから」

 「なんだ、ブッ殺すんじゃないのか」

 「今までの勇者は魔王を殺す事は出来ていません。こちらから攻撃しない代わりに相手もこちらを攻撃出来無くなるという効果の封印を施すだけです」

 「なんでそんな面倒な事?」

 「魔王を倒しきる方法を知らないからですよ」

 「なんだ、そりゃ?」

 「魔王は戦うほど強くなります。普通に戦えば、初めの一撃で倒せないと耐性を付けられて終わりです。ダメージを負わす事が出来てもすぐ回復されてしまうのです」

 「倒せなくても封印は出来るって事ね」

 「こっちからも攻撃出来ないってのは?」

 「ただ封印しようとしても抵抗されるからです。複数人で儀式をして封印するならともかく、戦場でそんな事は出来ません。術の勇者一人で封印する事になるんですが、それでは力不足なんです」

 「術の勇者ってのは役立たずだな」

 「銃の勇者だって魔王を殺せないんだから一緒でしょ」

 「剣の勇者もな」

 「人を守るという意味では、ちゃんと役に立ってますよ」

 「ふん、詭弁だな」

 「とにかく、力不足で封印も難しい。しかし、封印というのは条件を付ける事で強くする事が出来ます」

 「その条件がこっちから攻撃しないか?」

 「いいえ、攻撃されると解けるです」

 「なんだそりゃ?それじゃあ魔族の誰かが攻撃しても解けるんじゃねぇの?」

 「その通りです。でも、それで良いのです」

 「そんなすぐ解けそうな条件で?」

 「はい。だからこそ掛ける事が出来るのです」

 誰にでも簡単に解く事が出来る。

 その条件でこそ、やっと施術出来る。

 「しかし、誰にも解く事が出来ないのです」

 「なんで?」

 「まず魔王を倒せない人間には封印を解く意味が有りません」

 「魔族側は?封印が解けるなら攻撃してみるくらい、やるだろ?」

 「いいえ。魔王と魔族の関係は絶対なのです。如何なる理由があろうとも魔族が魔王に攻撃する事は出来ません。例え魔王に逆らい、それを弑する覚悟を決めた魔族がいたとしても、魔王に近づくと魔王の支配下に置かれてしまいます。これには両者の意思は関係有りません。魔王にその気が無くとも自動的にそうなるのです」

 また、魔族側にも魔王を倒す手立てがある訳では無いので、例え反逆者が自我を保ったまま接近出来たとしても、人間と同じ理由で封印を解かない。

 「なら、魔王が魔族に命令すれば良いんじゃねぇの?」

 「それも無理なんです。魔王の支配下にある魔族は、魔王の一部とみなさられるようです。流石に、自分で自分を、攻撃して解ける封印というのは無いでしょう」

 「魔王に支配された魔族は、魔王自身だから、魔王が封印されている限り魔族が人間を攻撃出来無い。人間も魔族に攻撃出来無いって事か?」

 「でも、今でも人間と魔族で殺し合ったりしてるよ?」

 「それは単に魔王の支配下に無い魔族を相手にした話でしょう。魔王の支配力は距離に制限が有ります。封印を受けた魔王は魔族領の奥に運ばれるので、人間と生活圏が重なる魔族は魔王の支配を受けていないのです」

 「コッソリ魔王が人間領に近づいて、支配した魔族を人間に攻撃させるとかはしねぇのか?」

 「流石にそれは無いですよ。人間も監視位はしてます」

 「それもそうか。で、それと紋章にどんな関係が有るんだ?」

 「新しい勇者が生まれた時には魔王は無害なので、人間を守る勇者に紋章は現れません」

 「ん?それじゃあ、勇者は魔王を倒す為にいるんじゃ無くて、なんらかの脅威から人間を守る為にいるって事か?」

 「そうです。勇者が戦うべき相手は魔王に限りません。ただ、現実に人間を滅ぼす程の脅威は魔王位しか居ないのです」

 「俺様が生まれた時には脅威が無いから、紋章も無いって事か」

 「じゃあ、今、私達に紋章が有るのは…」

 「はい。脅威が生まれようとしているのです」

 「それが新しい魔王だな?」

 「はい。魔王は寿命が近づくと、次の魔王となる者を指名します。その時点で新しい脅威の誕生とみなされ、戦いの準備を促す為に紋章が浮かび上がると言われています」

 「準備を促す?誰が?」

 「さぁ。神様じゃないですか?」

 「神ねぇ」

 ロックは神に懐疑的なようだ。

 「でも、それじゃあこんな所で盗賊退治なんてやってる暇無いんじゃないの?」

 魔王に対する備えを始めないと。

 「大丈夫ですよ。現魔王の寿命はすぐに尽きる訳ではありません」

 「なんでそれが分かるんだ?」

 「僕が治癒の勇者だからです」

 キヤルの説明に嘘は無いが二人は意味を履き違える。

 治癒の勇者の固有の能力に魔王の寿命を知る事の出来る物が有るのだと。

 それも無理は無い。

 キヤルが治癒の勇者の力で時間遡行している事も、遡行前の記憶を元に話をしているという事も知らないのだから。

 「ふん。まぁ今魔王と戦えと言われても倒せる気はせんからな。時間が有るのは有り難い」

 「今、倒せないから封印するって話したばかりじゃない」

 「ふん。倒すつもりの無い戦いなんか出来るか」

 「そうですね。お二人には魔王を倒せる位には、強くなってもらう予定ですよ」

 「おう。望む所だ!がはは!」

 「え?嫌なんだけど…」

 魔王を倒す程、強くなるのにどれだけの修練が必要になるのか。

 考えたくもなかった。

 「駄目ですよ、シアンさん。勇者として生を受けたからには役目を果たさないと」

 「うーん、魔王と戦うのはいいんだけど、封印で良いじゃない?今までの勇者もそうだったんでしょ?」

 「でも、今回は倒せる戦力が揃うんです。倒せる時に倒しておいた方が良いじゃないですか」

 「それなんだがな、キヤル」

 ロックがいつに無く真面目な声を出す。

 「考えたんだが、お前がいれば封印でいい筈だよな?」

 「え?どういう事?」

 「キヤルの回復術は攻撃じゃない。つまり、封印に関係無く魔王に効果を発揮する。そうだろ?」

 二人に求められる強さは、魔王を封印出来る程度で良いという事になる。

 「そうですね」

 「なのに、お前はそれ以上の強さを俺様達に求めている。なんでだ?」

 「何?何を言っているの?」

 話の流れについて行けないシアンが困惑している。

 「魔王を倒す、その先を目指しています」

 「魔王を倒した先だと?」

 「はい。でも、それが何かはまだ秘密です。魔王を倒せないと意味の無い事ですから」

 「成程。今の俺様に話しても意味が無いってか?」

 「そういう意味では無いのですが、気分を害してしまったのなら謝ります」

 「いや、構わねぇよ。で?どれだけ強くなれば良いんだ?」

 「魔王と御一人で対峙して勝てる位です」

 「がはは!それは良い!今までの勇者が束になっても倒せ無い相手にタイマン張れってか?」

 「はい」

 「俺様は、そこまで強くなれるか?」

 「分かりません。ロックさん次第です」

 「分からない?俺様次第?がはは!それは良い!俺様次第で、そこまで強くなるって事だな?」

 「はい。それ以上も目指してください」

 「おう。それは面白い!」

 「魔王とタイマン?それ以上を目指す?何?何を言ってるの?」

 シアンには想像も出来無い事を、さも当然の如く話す二人が理解出来無い。

 「大丈夫ですよ。シアンさんもちゃんと強くなれますから」

 「いや、私には無理…」

 「がはは!謙遜は胸だけにしとけ!」

 「謙遜違う!」

 抜刀。

 斬りかかる。

 「うお!危ねぇ!」

 ロックがセクハラ発言をし、シアンが斬りかかる。

 三人の日常の風景だ。

 「御二人とも、遊びはそこまでです。盗賊の塒が見えてきましたよ」

 木々の合間から盗賊が寝床に使う洞窟が見える。

 「なんで盗賊って洞窟なんかに籠るんだろ?」

 渋々、刀を納めたシアンが疑問を口にする。

 「住んでみれば、結構快適だぞ?雨露は凌げるし、何より金もかからん」

 「住んだ事あるみたいな言い方ね」

 「おう。昔ちょっとな」

 見張りは居ないようなのでそのまま侵入する。

 中は暗かったが明かりは用意していない。

 暗闇は三人の行動を阻害しない。

 気配を読めば目が見えずとも問題は無いから。

 気配は人だけの物では無い。

 壁にも床にも気配はある。

 「洞窟の中なんだからアレ使ってよね」

 「ああ、『沈黙の銃撃』だろ?疲れるから嫌なんだがな…」

 『沈黙の銃撃』というのは音を一切立てず銃を撃つという技だ。

 魔力を使って音を消すので、人並みにしか魔力を持たないロックには負担が大きい。

 因みに、勇者特有の技という訳ではなく、銃士ならば訓練次第で使えるようになる技である。

 「ロックさん、そこ右です」

 二股に別れた所で進むべき方向を指示する。

 「お前、こういう所、迷わないよな?なんで進む方が分かるんだ?」

 「罠とかもある所、知ってるみたいに見つけてるよねなんで?」

 「僕が治癒術師だからですよ」

 洞窟に治癒術を掛けて、その記憶を読んでいるのだ。

 治癒術に記憶を読む力が有る事は二人には話していないので。

 「いや、関係ないだろ」

 と、一蹴される。

 前方に明かりが見える。

 その途端シアンが駆け出す。

 「あ!こら抜け駆けすんな!」

 ロックが続き。

 「殺しては駄目ですよ」

 キヤルが殿になる。

 「六!」

 シアンが敵の数を報告する。

 ロックが銃を抜き引き鉄を引く。

 銃弾が無音で飛翔し、一番奥に居た髭面の男の腹に命中する。

 髭面は何が起こったのかも分からぬまま倒れる。

 「もう!私に当たったらどうするのよ!」

 盗賊達がたむろしている場所はそれなりに広かったが、ロックが引き鉄を引いたのはまだ狭い通路だ。

 「俺様がそんなヘマする訳無かろう!」

 言いつつニ射目を撃つ。

 その間に広間に踊り出たシアンは、一人袈裟懸けに斬って伏せる。

 盗賊が侵入者に気付く前に、その半数が行動不能になる。

 「場所が悪い!」

 シアンが苛立った声を出す。

 足場が悪いとか、刀を振るのに狭いとかいう意味では無い。

 盗賊がバラけて居たので、一振りで一人しか斬れない。

 「もう!また負けた!」

 盗賊達は武器を手に取る間も無く、撃たれ、斬り倒された。

 銃に撃たれた者が四人。

 刀で斬られた者が二人。

 「ふふん。親玉っぽいのも俺様がやったみたいだし、今日も俺様の勝ちだな!」

 「こんな事で競争するなんて不謹慎ですよ」

 盗賊達に回復術を掛けながら嗜める。

 二人はどちらがより多く敵を倒せるか競争していたのだ。

 「だってぇ」

 「だってじゃありません」

 本当にこの人は歳上なのか。

 「拐われた女性がこの奥に居る筈です。行ってください。ロックさんはここで待機ですよ」

 「何故だ!俺様も行くぞ!」

 女を助けるのは自分の役目だ。

 お礼をしてもらえるかもしれないし。

 そうで無くとも囚われた女はあられもない姿で居る事が多い。

 目の保養になる事は間違い無い。

 「駄目です。言う事を聞いてくれないのでしたら…」

 「分かった。我慢する」

 ヤりたい時にヤれないのは嫌なのでキヤルに従う。

 三人目に『お仕置き』をしている途中で、シアンが奥から戻って来た。

 女性を四人連れている。

 誂えた、とまではいかないが、ちゃんと体格に合った服を着ている。

 「ん?なんだ、ヤられて無かったのか。珍しいな」

 コイツら全員ホモか。

 「違うの。服はキヤルが用意して私に持たせた物よ」

 「ん?ソイツはおかしくないか?」

 女性の内、三人は同じ位の体格なので用意した服の寸法が、たまたま合う事はあるだろう。

 しかし、残りの一人はキヤルと同じ歳位の少女だ。

 彼女に合う服を用意してある事がおかしい。

 「うん。拐われたのは、女の人が四人としか聞いてないよね」

 貴族の妻子と姉妹が二人。

 その妹が幼いとは聞いていない。

 「アイツは何時、ちっちゃいのがいるって知ったんだ?」

 『お仕置き』を終えたキヤルに聞いてみる。

 「偶然ですよ。姉妹だと聞きましたので、もしかしたら妹さんの方は幼いかもしれないと思っただけです」

 「なんだ、たまたまか」

 ロックはあっさり納得した。

 シアンも引っかかるモノを感じたが納得する。

 偶然以外の理由が思い付かないから。

 用意した服は四着。

 もし、姉妹の歳が近かった時はどうしたのだろう。

 それがシアンの感じた引っかかりの正体なのだが、本人はそうと気づいていない。

 四人の女性を街まで送り届けた次の日の朝早く、三人は次の目的地に向けて旅立った。

 その昼の事。

 冒険者ギルドに一人の女性が訪ねて来た。

 数人の護衛を連れた高貴な雰囲気の女性は。

 「このギルドに『空の一撃』、弾を撃ち尽くした後、弾込めをしないで銃を撃てる男がいると聞いて来たのだけれど」

 その男なら朝早くに旅に出た。

 何処に向かったかは聞いていない。

 「そう。この私に無駄足を踏ませてくれたって事ね」

 顔は笑っていたが、その声に籠る怒気が、護衛を含めた周囲の人間の肝を冷やした。

 

 「おい、何処へ向かうんだ?」

 のんびりと街道を歩きながらキヤルに聞く。

 「南、エイトブリッジに行きます」

 「エイトブリッジ?それって人間と魔族が共存してるって街だよね?」

 「はい。その通りです」

 「そうか!じゃあ次はネコミミお姉ちゃんとヤれるかもだな!」

 「もう!そんな事しか考えられないの!」

 「それが健全な男子というモノだ!」

 三人は賑やかに街道を行く。

 

 これは銃の勇者達のある冒険のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 


最後の一文と、サブタイトルは悩んだのですが、ロックのエピソードという事でご覧の通りになりました。

トリックスターが一人いると書くのが楽しいです

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