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ロック立つ⁉︎

 「待ってください!ロックさん」

 「ん?誰だ、お前?会った事あるか?」

 追いかけながら、思わず名前を呼んでしまった。

 「いいえ、初めてお会いいたします。ですがロックさん程、御高名なら一目で分かるというものです」

 「がはは!そうか、そうか。俺様は有名か?」

 上手く誤魔化せた。

 それにしても人を抱えて走っているというのに何という速さか。

 付いて行くのがやっとだ。

 「で、何の用だ?サインでも欲しいのか」

 走りながら喋っても息が切れない。

 スタミナも大した物だ。

 「いえ、その女性を返してください。僕の連れなんです」

 「なんと!お前、その歳でこんなイイ女を独り占めする気か!俺様でもお前くらいの時はまだ童貞だったというのに!」

 「僕とシアンさんはそんな関係ではありません!」

 「がはは!ならばよし!俺様がお尻ちゃんとイイ事しても文句はなかろう」

 シアンは彼女なりにこの状況から脱しようとジタバタしているが、ロックは意にも介してない。

 「ご本人が嫌がっている様なので」

 「がはは!やっぱりガキだな!この世には嫌よ嫌よも好きの内って言葉があるのだ!」

 「いや、本気で嫌がっていると思うのですが」

 「構わん、嫌がるのを無理やりというのも、乙なものだ!」

 「シアンさん、この人を説得するのは無理そうです」

 「諦めないで!何とかして!」

 「では、こうしましょう」

 並走する男に足払い。

 「おっと」

 軽く飛んで避ける。

 「何をするか」

 取り敢えず足を止める事には成功した。

 「言葉で言っても分かって頂けないようなので、実力行使です」

 「がはは!面白い!かかってこい!捻り潰してやる!」

 「その前にシアンさんを降ろして頂けませんか?」

 「ふん、降ろしたら逃げるだろうが」

 「でも、そのままでは戦いにくいのではありませんか?」

 「構わん。ハンデだ」

 と、笑う。

 「しょうがないですね。では、参ります!」

 踏み込んで、両拳で連打。

 ロックは体を左右に揺らし、後退する事で全て躱す。

 「うおっと!」

 小石に躓いて、バランスを崩す。

 「もらいました!」

 その隙を見逃す少年ではない。

 男の腹を目掛けて伸びる拳。

 避けられるタイミングでは無い。

 「お尻ちゃんバリアー!」

 なんと!

 抱えていたシアンを体の前面に掲げた。

 何とか拳を止めるキヤルだが、今度は彼が体勢を崩す事になる。

 「アーンド、ロック・キーック!」

 腹に向かって放たれた蹴り。

 少年は避けずに腹で受け、両手でその足を掴む。

 「なんて事をするんですか!」

 怒っている。

 「殴りかかっといて、蹴られて怒るな。変な奴だな」

 「違います。女性を盾にするなんて、何を考えてるんですか!」

 「使える物は何でも使う。それがこの世界を生き抜く秘訣だぞ」

 「分かりました。では、もう遠慮はしません『ヒール』」

 「ん?回復術だと?」

 「これで僕の勝ちです」

 「何を…うおっ」

 ロックが尻餅を付く。

 体中の力が抜けて、恐ろしいまでの倦怠感を覚える。

 「なにをしたの?」

 男の拘束から逃れたシアンが尋ねる。

 「彼の回復力を強化して強制的に働かせました。怪我を治す時には体力を消耗しますよね。彼は存在しない怪我を治すために体力を使って疲れ果てているんです」

 「相変わらず無茶苦茶ね」

 説明されてもよく分からない。

 存在しない怪我を治すってどういう事?

 「まぁ良いわ。助けてくれて有難う。キヤルが怒ったのって初めて見たかも」

 「僕もまだまだ未熟ということですね」

 十歳の子供の言う事では無い。

 「うがー!」

 叫びながら立ち上がるロック。

 「おや、立てるとは驚きです」

 「ふ、ふんこの程度何ともねぇぜ」

 と言いながら膝が笑っている。

 「そうですか。流石です。まだ続けますか?」

 シアンを助け出したキヤルの方に続ける理由は無い。

 「いや、引分けにしといてやる」

 立つのがやっとの様で何を言うのか。

 「はい。有難う御座います」

 受け入れた上に、礼まで述べる。

 「ふん、それで一つ頼みがある」

 「なんですか。シアンさんは渡しませんよ」

 「分かってるよ。そうじゃなくて、あれだ、俺様を何処かその辺の食いもん屋にでも運んでくれ。何とか立てたが歩ける気がしねぇ」

 ロックの手を引いて近くの宿屋兼食堂、所謂冒険者の宿に入る。

 ちょうど昼時だったので、三人で食事をする事になった。

 「えっ、こんな人と一緒にご飯なんて嫌なんだけど」

 「なんだ、やっぱり胸の小っちゃい女は心も小っちゃいな」

 「心は広い狭いですよ」

 「突っ込むとこ、そこ?」

 「小さいのは事実ですよね」

 「ぐっ…」

 「がはは!大きさは気にする事じゃないぞ!大事なのは揉み心地だ!」

 「そうなんですか?」

 「大きくてもふにゃふにゃなのは楽しくない。いい感じに弾力があるのがいい」

 「そういうものですか。僕は比べられる程、経験が無いのでよく分かりません」

 「分からなくていいの!」

 「がはは!お尻ちゃんのは絶対揉み心地が良いぞ!俺様が保証してやる!」

 「そんな保証しなくていい!それにお尻ちゃんって呼ぶの止めて!」

 「なぜだ?可愛いではないか。」

 「可愛くない!次に変な呼び方をしたら斬るわよ」

 「うーん、しかし、おっぱいちゃんという感じでもないしなぁ」

 無言で抜刀し斬り付けるシアン。

 「うおおお!何をするか!」

 白刃取りしつつ抗議する。

 「変な呼び方したら斬るって言ったわよね」

 「まだ、呼んでなかったろうが」

 「丁度いいですね。自己紹介をしておきましょうか。僕はキヤルと申します。回復術師です」

 「私はシアンよ。ご覧の通り、戦士よ」

 「おう。この状況で自己紹介とは、お前等もなかなか変わったヤツだな。シアンはそろそろ刀を引かんか?」

 普段なら力尽くでどうにか出来るだろうが、先程、キヤルにかけらた術の影響が残っている。

 「嫌、まだ斬ってないもの」

 言いながら力を込める。

 「おい、キヤル。こいつをどうにかしてくれ」

 「斬られてください。大丈夫です。死なない限りは治して差し上げます」

 「痛いのは嫌なんだが」

 「大丈夫です。嫌よ嫌よも好きの内でしょう?」

 「いや、それ違う」

 「違わないわよ。痛いのは最初だけだから、大人しくしなさい」

 「いーやーだー」

 結局、ロックが根負けして肩を斬られた。

 「いやー大したもんだなぁ。もう痛みもねぇ」

 ひと騒動した後、運ばれて来た料理に舌鼓を打ちながら感心する。

 「回復術なんだから当たり前でしょ」

 「いや、でも、あんなに血が出たのに一瞬でだぜ?」

 大量の出血で店を汚した三人は店主に怒られていた。

 「だから、それが回復術でしょ」

 「いや、だって、回復術ってあれだろ?回復薬の凄いやつ。切り落とされた手足もくっつける代わりに、使うのに痛かったり、苦しかったりで、それしか能の無いヤツでもなかなか使いたがらないってヤツ」

 「まぁ、そうですね」

 「じぁおかしいだろ?坊主は痛がったり、苦しがったりしてねぇじゃん。なんか別の技なんじゃねぇの?」

 「それ!私も不思議に思ってた。なんで普通に使えるの?」

 「回復術を使うのにはコツがあるんですよ」

 「コツって?」

 「簡単な事です。自分にも回復術を使うんです」

 「えっ?そんな事?だったら他の人もそうすればいいんじゃないの?」

 「回復術は怪我をした他人に使う物っていう先入観が邪魔してるんでしょうね」

 「間抜けな話だな。それに気付けば無能扱いなんかされねぇのに。いや、無能だから気付けんのか」

 「そう言ってしまうのは可哀そうだと思いますよ。普通に使うと本当に苦しいんですから。怪我もしていない自分に試しに使ってみようなんて考える方がおかしいんです」

 「ふーん、じゃあ、お前はおかしなヤツって事だな」

 ニヤリと笑って指摘する。

 「そういう事になるでしょうね。勇者なんておかしくて当たり前でしょうし」

 キヤルも笑って認める。

 「は?」

 「え?」

 静まり返る食卓。

 「今、なんて?勇者?」

 「はい、僕は治癒の勇者です。紋章も有りますよ」

 そう言ってシャツのボタンを二つ外して胸元を晒す。

 そこには紅い紋章が痣の様に浮かんでいた。

 「おお、本当に勇者の紋章だ」

 覗き込んだロックが驚いた声で保証する。

 「これが?そうなの?」

 村で育ったシアンは書物などに触れたことは無く、勇者についても噂程度でしか知らず、紋章がどんな形をしてるのかなどは知らなかった。

 「ガキの頃、世話になった家で教えてもらったんだ。間違いねぇ」

 「そんなに珍しい物でもないですよ。お二人の体にも有りますから」

 「馬鹿言え。そんなもん何処にもねぇよ」

 「私の体にもそんな痣ないけど」

 「有りますよ。ロックさんは背中に、シアンさんはお尻に有ります」

 自分では確認し辛い場所だ。

 本人が気付かなくても不思議ではない。

 「おい、どうだ有るか?」

 上着を脱いで背中を向ける。

 肩甲骨の間にキヤルと同じ形の紋章が有った。

 「ある。じゃあロックさんも勇者って事?」

 「おお!そうか俺様は勇者か!がはは!グッドだ!」

 勇者は人間の限界を超えて強くなると言われている。

 強さに重きを置く彼には嬉しい事だろう。

 「じゃあ、次はシアンちゃんだな。ほら、脱げ」

 そう言う笑顔はいやらしい。

 「な!馬鹿じゃないの?なんで私が脱がないといけないのよ!」

 「自分じゃ尻は見れんだろう?俺様が見てやるから早く脱げ」

 「こんな所で脱げる訳ないじゃない!何考えてるの!」

 「何を言うか、俺様もキヤルも見せてやっただろうが」

 「勝手に見せたんでしょ!」

 「見た事には違いないだろうが!」

 「有るのは分かってるのですから、無理に見せてもらわなくても大丈夫ですよ」

 「あっ、お前は見た事有るんだな!狡いぞ!俺も見る!」

 「いつ見たの!」

 「いえ、見てませんよ。有るという事を知ってるだけです」

 「何で知ってる?」

 ロックからしてみれば、初対面のキヤルが自身も知らない紋章の事を知ってるのも不思議な話だ。

 「それは秘密です」

 時間遡行する前に知った、などと言った所で信じてもらえないだろう。

 「俺様とここで会ったのも偶然じゃないんだろ?何者だ、お前?」

 「ただの治癒の勇者ですよ」

 「本当に治癒か?俺様が勝てる気がせん程強いのに?」

 先ほどの勝敗は、子供相手に油断したからだ、などという言い訳はしない。

 普段なら、そうしただろうが、今知りたい事を知る為には、邪魔な強がりだ。

 ロックの冷静な勘は、キヤルと戦う為には死を覚悟しなければならないと告げている。

 捨て身で挑んでも傷一つ付けられないかもしれないと。

 「そうですよ。どんなに強くても僕は治癒の勇者で回復術師です」

 魔王の軍勢に、一人で挑んでも勝てる自信がある。

 だが、それでは時間遡行した甲斐が無い。

 勇者を真人間にして鍛える。

 そうして、魔王と渡り合える実力を付けてもらう。

 「だから、魔王と戦う為に銃の勇者ロックさん、剣の勇者シアンさん、御両名のお力が必要なんです」

 「だから、一緒に戦いましょうってか?」

 「はい、その通りです」

 「御免だね。魔王退治なんざ興味ねぇし」

 「僕と一緒に行けばもっと強くなれますよ」

 「シアンとヤらせてくれるんなら考えてもいい」

 強くなれるというのは魅力的だが、自分が勇者であるというのなら、遅かれ早かれ人類最強になれる筈だ。

 得体の知れない餓鬼に付いて行くというなら、何らかのメリットが欲しい。

 「嫌よ!」

 シアンが間髪入れず拒否する。

 「なら、俺は行かせてもらうぜ。ごっそさん」

 自分の分の代金を置いて、立ち去る男の背中に。

 「もし体に不調を感じられたらお越しください。相談に乗りますよ」

 キヤルは声をかけて見送った。

 「いいの?あの人を誘いにこの街まで来たんでしょ?」

 「大丈夫です。早ければ今夜、遅くてもニ、三日中に僕に会いに来てくれますよ」

 自身満々の少年の態度を、シアンは不思議に思ったが、その理由は聞かなかった。

 

 宿を出たロックは上機嫌で歩いた。

 自分が勇者だと分かった事は嬉しかった。

 だが、それよりも彼の心が浮き立つ理由が有った。

 他人と一緒に食卓を囲んだのはいつ以来だろうか。

 師匠が死んで以来、もう長い事無かった事だ。

 彼は女性を口説く時に食事に誘うなどという事はしない。

 直接、ベッドに誘う。

 だから、ナンパの成功率は低い。

 それでも構わない。

 女を抱くのなら、金で買ってもいいし、無理やり襲ってもいい。

 男女の機微を楽しみたいのではなく、肉体的快楽だけが目的だったから。

 男と食卓を囲むなど発想すら無かった。

 本人は自覚していない。

 自分が寂しがりだという事を。

 会話の内容はともかく、キヤル達と一緒に食事をした。

 それは最強に至れる可能性よりも、確実に彼に喜びをもたらしていた。

 「さーて、今日はどんなお姉ちゃんと遊ぼうかな」

 ロックは鼻歌まじりに道を行く。

 その後、自分にどんな悲劇が降り注ぐか思いもしないで。


 食事を済ませた二人は、その店の二階に宿を取る事にした。

 シアンは部屋に湯を運んで貰い汗を流すことにした。

 大きなタライに湯を張って、それを使って体を拭く。

 人心地付いた所で手鏡を取り出す。

 それを使って、自分に有るという紋章を確認するつもりだ。

 それは尻の割れ目に半分隠れていて、鏡を使っても見づらい所に有った。

 「えぇー、こんな所?」

 折角の勇者の紋章も、こんな所に有るのでは嬉しくない。

 手の甲などに有るのなら、見せびらかして自慢する事も出来るだろうに、これでは人に見せる訳にはいかない。

 自分が勇者だというのは、あまり嬉しくない。

 人間の限界を超えて強くなれるというが、そんな事には興味が無かった。

 冒険者として食べていけるだけの強さが有れば十分だし、その実力は既に有った。

 それに魔王と戦わなければならないというのは困る。

 怖い。

 キヤルが一人では敵わない相手。

 そんな相手に自分が加勢してどうなるというのだろう。

 自分がキヤルと同じ位強いというのなら分かる。

 しかし、シアンは弱い。

 少なくとも自分ではそう思っている。

 勿論、子鬼や大鬼に後れを取る事は無い。

 キヤルやロックと比べた時の話だ。

 比べる相手が悪いとも思うが、魔王と戦う事を想定するなら、強さの基準はキヤル達だ。

 足手纏いになって何も出来ずに殺される未来しか見えない。

 乾いたタオルで体を拭き、服を着ながら、そんな事を考える。

 だからといって、子供のキヤルが魔王に挑むのを放って置く訳にもいかない。

 「…強くならないと」

 そうは思うものの憂鬱なのには変わらなかった。

 

 「何故、部屋を一つしか取らないのですか?」

 「一緒に寝れば良いじゃない」

 という恒例になったやり取りの後、二人は床に就いた。

 寝付く前に。

 バァン!

 勢い良く扉が開く。

 「お前か⁉︎お前の仕業なのか⁉︎」

 ロックが怒鳴り込んできた。

 「何?どうしたの?」

 「どうしたも、こうしたもねぇ!」

 男は下着ごとズボンを脱いで下半身を露出させた。

 そこには立派な逸物が力なく項垂れていた。

 「やっ、なんてもの見せるのよ!」

 「俺様の…俺様の…俺様のハイパーマグナムが…ピクリともしねぇんだよ!」

 「マグナムというのは銃の名称の一つだったと思いますが…?」

 「おう。俺様の立派な物に相応しい呼び名だろう」

 「まあ、それをなんとお呼びになっても構いませんが、女性の前ですよ、仕舞ってください」

 「このままで仕舞えるか!治せ、今治せ!すぐ治せ!」

 「何を言ってるの?」

 顔をそらしながらシアンが尋ねる。

 「女を買って、いざ、これからって時にハイパーマグナムがなんも反応しねぇんだ!お前がなんかしたんだろ!そうとしか考えられん!」

 「つまり、勃起しないと」

 「そうだ!初めからそう言ってる!」

 「それで、それは僕の仕業だと」

 「そうだ!」

 「言い掛かりですよ」

 しれッと嘘を吐く。

 昼間にロックに回復術を掛けた時に細工していたのだ。

 「嘘だ!じゃあ何で俺様のハイパーマグナムがピクリともせんのだ!」

 「使い過ぎじゃないんですか?」

 「そんな訳あるか!ジジイならともかく、俺様はまだ若い!毎日何十発やっても涸れたりはせん!」

 流石に毎日何十発となれば病気になるだろう。

 「じゃあ、病気ですね。治して差し上げましょうか?」

 「治るのか⁉︎」

 「ええ、但し回復術で病気を治しても、原因を取り除かないとすぐに再発しますよ」

 「なにぃー完治しないのか⁉︎」

 「はい、風邪とかなら簡単に治りますが、原因不明の病気であれば完治するとは言い切れません。やってみないと何とも」

 「一時的には治るんだな?」

 「はい、何時まで持つか分かりませんが」

 「よし!じゃあ治せ!」

 「あなたねぇ、それが人にものを頼む態度なの?」

 「構いませんよ」

 ロックの態度に憤るシアンを宥めながら術をかける。

 「はい、これで治りました」

 「ホントか?術ってのは、なんか、こうピカーって光ったりしないのか」

 「お昼にかけた時もそんな事は無かったでしょう」

 「ふむ、それもそうか」

 と、納得した男は。

 「うりゃ」

 と、右手をシアンに向かって伸ばした。

 むにゅん。

 「がはは!やっぱり見立て通り、良―い揉み心地だ!」

もにゅもにゅと少女の乳を堪能する。

 「きゃー!何するのよ!」

 何が起きたか、一瞬理解できず、一泊置いてから悲鳴と共に飛び退く。

 「乳を揉んだのだ」

 「な、な、な、な」

 言葉になっていない。

 「何でって、そりゃあ治ったかどうか確かめんとだろ?」

 シアンが何を言いたいのか察したロックが説明する。

 「見ろ!お陰で大復活だ!」

 腰を突き出し、天を突く剛直を見せつける。

 「そんな物、見せないで!」

 乙女な彼女には刺激が強すぎる様だ。

 「がはは!遠慮はいらんぞ。もっとよく見ろ」

 少女の嫌がる様が面白いのか、腰を振り振り、詰め寄る。

 「ロックさん、その辺りで止めてください。でないと再発しても治して差し上げませんよ」

 見かねたキヤルが止めに入る。

 シアンは部屋の隅に追いやられ、涙目になっている。

 「ふん、まぁ良い。治ったのは分かったからな」

 楽しみを途中で止められて不満気だ。

 「では、俺様は宿に戻る。じゃあな」

 折角買った女がいるのだ。

 楽しまなければ。

 「ロックさん!ズボンを忘れていますよ!」

 「どうせすぐ脱ぐのだからいらん。あずかっとけ!」

 「あの人には恥じらいというものが無いの?」

 ロックが去ってい行った開けっ放しの扉を見ながら悪態を吐く。

 「有ると思いますよ」

 「何処に?」

 「来られた時には、ちゃんとズボンを履いておられました」

 「それ、普通の事じゃない?」

 「女性には分からないかもしれませんが」

 前置きをしておく。

 「魅力的な女性を前にして、自慢の物が役に立たなかった。とても驚かれたと思いますし、一刻も早くどうにかしたいと思われた事でしょう。それこそ、ズボンを履くのも、もどかしいと思われたに違いありません」

 そんなに一大事なのだろうか。

 生死にかかわる事では無いし、治癒術師であるキヤルの居場所は分かっているのだから明日の朝でいいではないか。

 シアンには、今一つピンと来なかった。

 「それでもズボンを履いて来られたのは、力なく垂れ下がる、役立たずな物を見られる事を恥と思われたのだと思います」

 「よく分からない」

 役に立とうが、立たなかろうが、ソレは隠すべき物なのではないか。

 「あの人が非常識なのはよく分かったけど」

 短気で下品で助平。

 そんなのとこの先一緒に行動する事になるかもしれない。

 そう思うと気が重い。

 「ねぇ、いつもの『お仕置き』はしないの?」

 それで性格がまともになれば良いのにと思って聞いてみる。

 「ロックさんは、何も悪い事はしていませんよ」

 シアンに対するセクハラは、悪い事ではないのか。

 「僕の目の前で、『お仕置き』に値する悪事を行って無いという意味です」

 「それでも、やった方が早くない?変な病気にさせて治す代わりに言う事を聞いてもらうなんて、遠回りな事しないで」

 それに、今のままでは、毎日が貞操の危機だ。

 「僕は病気になんてさせてませんよ」

 「嘘でしょ」

 「はい、昼間に掛けた術ですが、一部分だけ永続するように掛けました」

 つまり、ロックのモノは疲れ切って立たなかったという事だ。

 「先程掛けた術も、数回の射精に反応して発動するように仕掛けてあります。これからロックさんが夜の生活を堪能しようとなさるなら、僕から離れる事が出来なくなるという事です」

 だから、交換条件など出さず簡単に治したのだ。

 「それにロックさんには『お仕置き』は効果が有りません」

 「嘘!何で!」

 ロックは、アレに耐え得る程の強靭な精神の持ち主だというのか。

 信じられない。

 「自分が悪い事をしている自覚が無い人には効果が無いのです」

 「そうなの?」

 「何も悪い事をしていないのに反省は出来ないでしょう?」

 「セクハラは悪い事でしょ?」

 「だから、ロックさんは、そう思っておられない、ということです」

 「善悪の基準が人によって違うって言うの?」

 「そうですよ。例えば、シアンさんは奴隷を使っている人をどう思います?」

 「どうって、奴隷の人は可哀そうって思う事もあるけど…」

 「奴隷を使う事自体は悪いとは思わない、ですね」

 首肯。

 オグラシアン王国では、罪人や、その子孫が奴隷として扱われ、売買も認められている。

 良くも悪くも無く、普通の事なのだ。

 「でも、奴隷制度を悪として禁じている国もあるのですよ。そんな国に生まれた人は、奴隷を使う人を悪人だと思うのです」

 「それは生まれた国が違うからで…」

 「生まれた世界は同じですよ」

 「それでも、そう、人を殺すのは世界共通で悪い事だよね」

 なんとなく納得のいかないシアンは、絶対的に悪事だと思う事を探し出してぶつける。

 「そうですか?シアンさんは盗賊の人を殺していませんか?」

 「それは悪い事をした人だから」

 「それなら、シアンさんが胸を揉まれたのも、揉みたくなるような良い胸だったからですよ」

 「そんな!それなら、私の気持ちは?」

 「殺された盗賊の方のお気持ちはどうですか?」

 シアンは納得がいかず、反論の言葉を探す。

 「勘違いしないでください。シアンさんの胸を勝手に触る事はいけない事だと、僕は思っていますよ。ロックさんはそう思っていない、という事なんです」

 それでも、悪い事は悪い事だ、納得出来ない。

 「何を悪と思うかというのは、人それぞれというだけの話なんです」

 治癒術で記憶を読む事の出来るキヤルには当然の事だ。

 だからこそ『お仕置き』などという荒業も可能なのだ。

 その人間が悪い事をしている自覚が有る。

 それを回復術で確認する。

 拳で無理矢理、反省させる。

 これが『お仕置き』だ。

 悪事を働いている自覚が無い相手に行っても、何を反省して良いのか分からないので効果が無い。

 ちなみに、『お仕置き』の後、人格まで変わって見えるのは、苛烈な体験による物でキヤルの意図する所では無い。

 「さて、夜も更けて来ました。もう寝ましょう」

 考え込んでしまったシアンに声をかける。

 「そうだ!キヤル!あなた、またベッドを抜け出して床で寝ようとしてたでしょ!大人の言う事を聞かないのはいけない事よ!」

 そこから暫く、恒例のやり取りをして、二人がベッドに入ったのは月が中天を過ぎた頃になった。

 キヤルも大人になったら、あんなに大きくて、凶悪な物を股間にぶら下げるのだろうか。

 そんな事を考えてしまい、なかなか眠れないシアンであった。


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