願いが叶う山
あることをすれば、願いが必ず叶うという山のお話。
ひとりっ子の翔太は、いつもお父さんから勉強しろ、勉強しろと言われてきた。学校から帰ると毎日のように学習塾に行かされた。翔太に友達と遊ぶひまはほとんどなかった。私立中学の受験勉強で毎日忙しかったのだ。本当は学校の友だちと同じ公立中学へ行きたかったのだけれど、お父さんが許してくれなかった。
そんな翔太の楽しみは、おじさんが家に遊びに来ることだった。おじさんは、歳がはなれたお父さんのお兄さんだ。子供がいないので、いつも翔太を自分の子供のようにかわいがってくれた。
海や山、そして映画につれて行ってくれたし、お父さんが絶対許してくれない漫画やおもちゃをこっそり買ってくれたりもした。
「兄さん、翔太をあまり甘やかしては困りますよ」
そうお父さんが文句を言うと、おじさんは、いつもこう答えた。
「おまえこそ、翔太を勉強ばかりさせて、もやしっ子にしてしまう気かい?いいじゃないか、ぼくが来た時ぐらい。そうだよな、翔太」
翔太がにっこり笑ってうなずくと、おじさんはウインクしてくれた。すると、お父さんはいっそう苦い顔になるのだった。
そんなある日。お父さんが突然亡くなった。会社で倒れて、そのまま病院に運ばれて息を引き取ってしまったのだ。勉強しろとうるさかったけど、大好きなお父さんだった。翔太はお母さんとたくさん泣いた。
お父さんのお葬式が終わってしばらくして、おじさんが家にやってきた。お母さんがいない時、おじさんはそっと翔太を呼んで言った。
「翔太、おまえを願いが叶う山に連れて行ってやろう」
おじさんの話によると、石に願いごとを書いて山の頂上にある小さい神社に供えると、必ずその願いが叶うというのだ。
願いが叶うといっても、もちろん、お父さんが生き返るとか、空を飛ぶなんていうのは無理だ。でも、現実にできることなら何でも叶うそうだ。
翔太はすぐに信じられなかったが、おじさんはまじめだった。翔太はおじさんに言われた通り、自分のこぶしより大きな石にマジックで願いごとを書いて、リュックにたくさん詰めた。山の上で石を拾っちゃ駄目?とおじさんに聞いたが、駄目だった。麓からかついで行くから願いが叶うのだと。
山に登る日。翔太が石の詰まったリュックをかついで出かけようとすると、おじさんがもうひとつのリュックを翔太に差し出して言った。
「翔太、これはおまえのお父さんの願いが詰まったリュックだ。これも持って行きなさい」
見ると、翔太のリュックと同じように石がぎっしり入っている。お父さんも昔、山に登ろうとしたけど、途中であきらめたそうだ。そして、願いが叶う山には、親が持ち帰った願いの石を子供が持って登る決まりがあった。
翔太の荷物は二倍の重さになったが、何とか持てない量ではなかった。よし、がんばって登ってやろうと翔太は決意した。
そして、翔太はおじさんと願いが叶う山へ出発した。お母さんには本当のことを言わず、ただおじさんと山登りしてきますとだけ言った。このことを秘密にしておくのはおじさんと翔太のかたい約束だった。
電車とバスを乗り継いで山へ着くと、わりと近くに願いが叶う山の頂上が見えた。翔太は、なんだ楽勝だと思って鼻歌を歌いながら登り始めた。
だけど、いくら登っても、頂上へたどりつかない。だんだん翔太は疲れてきて、先を行くおじさんにちょっと待ってと言った。
おじさんは振り向くと、翔太に言った。
「荷物が重いなら石を捨てなさい。まず、お父さんの石からちょっとずつ捨てるんだ」
翔太はお父さんのリュックの中身を見て、捨てる石を選んだ。
『一流の大学に一番の成績で入学できますように』
入りたい学校なら、別に一流の学校じゃなくてもいい。それに、入る時の成績なんてどうでもいいじゃないか。
しばらく進むと、また石を捨てたくなった。
『大きな会社の社長になれますように』
翔太は思った。ぼくも将来どこかの会社に入るんだろうけど、はじめから社長になるとわかっていたら面白くない。いらないや。
さらに進んで、もうひとつ。
『とびっきり美人の奥さんをもらえますように』
何だよ、これは。お母さんに失礼だろう。 どんどんお父さんの石を捨てて行くと、ついにそっちのリュックは空になってしまった。翔太は思った。ごめん、お父さん。お父さんが残した願いは叶わなくなっちゃったよ。
おじさんが言った。
「今度は自分のリュックから石を捨てるんだ」
翔太は迷いながら石を選んだ。やはり自分の願いは捨てにくい。
『ものすごい大金持ちになって、ぜいたくできますように』
これはいらないな。ちゃんとご飯が食べられて、本当に必要な物が買えれば十分だ。今のうちと同じように。
翔太はしばらく考えて次の石を選んだ。
『プロ野球選手になれますように』
野球は大好きだけど、ぼくの実力じゃ無理だ。学校のチームでも補欠だもんな。それに中学へ行って野球部に入る気もないし。そんなぼくが、ずるしてプロ選手になるなんて卑怯だ。
その次の石は、絶対おじさんに見られたくなかった。
『クラスの女の子たち全員からモテますように』
好きになってくれるのは一人でいいや。どうせ、一人としか結婚できないんだから。
どんどん石を捨てて行くと、翔太のリュックもほとんど空になってしまった。
翔太ははっと気がついた。まずい。おじさんにきいてみる。
「おじさん、お父さんみたいにぼくの子供ね残す願いごとはなくてもいいの?」
おじさんは振り返って言った。
「なぜ子供に残さないといけないんだい?」
それもそうだと翔太は思った。そもそも、お父さんのリュックを持たされることが納得できなかった。決まりだと聞いて持ってきたけれど。お父さんの願いはぼくと関係ない。
いつかできるぼくの子供、自分の願いは自分で考えろ。
ようやく頂上に着いた時、翔太のリュックには石がひとつしか残っていなかった。それには、こう書いてあった。
『家族や友だちが、いつまでも笑顔で幸せに暮らせますように』
翔太はおじさんに言った。
「おじさん、本当に必要じゃない願いは、全部捨ててきちゃったよ」
おじさんはにっこりと笑って答えた。
「翔太、それでいいんだ」
翔太は最後の石をしっかりと握りしめ、頂上へと向かった。これだけは絶対に離すものかと思いながら。




