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葬式戦線ハンニャ・サガ   作者: centcent
1.弔問客・地上決戦編
6/22

第4話 『ふたりはマスキュラ』

【1】


 まず、夜の「コンビニ」で待つ。

 待ち時間中、「スマホ」起動。現地メディアから話題収集。

 商品を探すふりをしてうろうろしつつ、入口には常に気を配る。


 “喪主”が入店してくる。調査通りなら、必ず。いつかは。

 ちょっと迷うふりをして、声をかける。偶然の再会を装い、驚く。

 そして、速やかに挨拶。

 「こんばんは」

 ここで、“彼女”が事情を聞いてくる(予定)。


(せっかく『日本語を覚えた』のだから)

(しばらく日本で『社会勉強』してこいと、『父』に言われまして)


 『それっぽいでっちあげ(カバーストーリー)』で答える。そう、すらすらと。今回も。

 そして、そのまましばらく世間話(話題は収集済み)。

 場が温まってきたら、そこですかさず、自然に、切り出す。


 (観光に行きたいのですが、いい場所があったら、教えてください)


 あとは流れで押し切る。どこかに連れていってあげよう、といった話に持ち込めれば万々歳だ。

 最後には、絶対に再会の約束を取り付ける。

 それが済んだら別れの挨拶。

 そして、自然に退()()

 全ては、完璧な「計画」に導かれる――――はずだった。




【2】


 夜のコンビニ、店内。

 入口近くの雑貨コーナー付近。靴下やらマスクやらが棚に並んでいる。

 金髪の乙女は、ガラス越しに店外を注意深く観察している。片手にはスマホを持つ。


 彼女は、塩垣一華との再接触を狙っている。

 服装は相変わらず黒いスーツだが、内側に着込んでいるのは白のカットソーである。今回は葬式ではない。喪服は不要だ。

 手のひらは汗ばみ、スマホのフレームを掴む細い指はこわばっている。

 画面に映るのは、『週刊ホース・ウォッチドッグ』の無料公開記事。これは、競馬情報誌である。期待の競走馬『スズカニルヴァーナ』の輝かしい戦歴と、その分析が特集内容だ。

 しかし、そんなこと今はどうでもいい。


 ガラス越しに見える、店外の軒先(のきさき)

 店の前に立つ、“奇妙な髪形の男”をガラス越しに見る。反射が邪魔して、見づらい。

 男の頭部からは無数の髪の束が泉の如く湧きだして、襟足まで流れ落ちている。

 見慣れない髪型だ。ずっと見ていると、蠱惑的にすら思えてくる。この髪型が表現しているのはオオカミのような敵意か、あるいは友愛か。

 男は、先ほど「コンビニ」で購入した商品のパッケージを袋から取り出す。

袋を懐にしまうと、乱暴にパッケージを開封し始めた。

 

 彼は、ずっとあの商品を探し回っていた。

 店員に場所を聞いて、やっとのことで商品を見つけると、すぐさま会計し、そそくさと退店した。

 

 そして今、店外にいる。


(一体、何をしているの?)

 一部始終を見ていた金髪の乙女。怪しまれぬよう、適度に商品棚やスマホの画面に目を落とす。

 情報収集も続行しなければならない――――これは、柔らかそうな毛並みの競争馬だ。競馬情報誌の写真をしげしげと観察する。

 そして、また店外を見やる。


 格闘すること十数秒。奇妙な髪形の男は、やっと商品の中身――――「小箱とおぼしき物体」と、「ケーブルらしきもの」を取り出したようだ。

 男は、空のパッケージを持ったまま、懐に手を突っ込む。手繰たぐる。そして、何かを探り当て、腕を引き抜く。


 (まさか――暗器!?)


 店内から覗き見ている金髪の乙女は、息を呑む。

 「スマホ」の画面――馬はもういい! 

 タッチ・スクリーンを何度か()でると、他の雑誌の記事が〈第6世代回線〉を通じ、運ばれてくる。

 ロードしたところで、再び視線を店外へ。


 男が懐から引き抜いたその手には――――――――スマホが握られている。

 画面に明かりは灯っていない。暗いままだ。 

 男は、店内から漏れる明かりを頼りに、付属していた「ケーブルらしきもの」の一端をスマホに突っ込む。もう一端は、「小箱とおぼしき物体」へ。


(……接続した?)


 おののく、金髪の乙女。彼は一体何をしている? あれは、()()か?

 それとも―――――

 

  金髪乙女が握るスマホの画面には、『月刊カルト・マリアージュ』の評論ページが映し出されている。

 5月号の特集作品は……オリジナル・アニメシリーズ、『ふたりはマスキュラ』。

 毎週日曜・朝8時30分放送。

 監督は山岸(やまぎし)(まさる)。シリーズ構成及び脚本は斐川(ひかわ)ジョージ。2人のヒロインを演じるメインキャストは、烏間(からすま)八咫子(やたこ)鳥飼(とりがい)あかね


 このアニメは、人気だ。

 それは疑いようがない。

 メイン・ターゲットである女児・男児の圧倒的支持は言うに及ばず。「ギリシャ美学・哲学、そしてジェンダー」を裏のテーマに据えながらも、大衆的かつ牧歌的な作風を堅持。その重厚で温かい救済の物語は、幅広い視聴者層の情緒に訴えかけ、やがては国民的長寿人気番組に――――


  いや、そんなの今は知ったこっちゃない!

 『アニメ評論誌』の大げさな()()から目を離し、金髪乙女は店外を見張る。気を取られすぎた。


 店の軒先に立ち、スマホと小箱を接続した、相変わらず奇妙な髪形の男。

 何か、騒ぎを起こす様子はない


(じゃあ、やっぱり……ただ、「スマホ」の充()をしているだけ?)


 それでもまだ、警戒は解けない。問題はこの男の髪型や買い物ではない。

 ()()だ。


 上半身は、“黒いローブ状の現地装束"。

 肩にかかったベルトで、“腹部を覆う黄土色の布”を吊っている。

 足元はよく見えない。恐らくは、“白い幅広のズボン”。

 

(これは、報告にあった……警戒対象)


 金髪乙女は監視する。

 穴が開くほど監視する。

 未だ監視に気付かぬ男は、スマホの画面を灯火する。

 男は画面を見つめ――――


 そして、突如駆け出した。




【3】


 『()()のことを言うと、鬼が笑う』


 昔からあることわざだ。

 未来のことなど、誰にも分からない。

 あれこれと未来を思い描き、いたずらに口にしても、何も始まらない。

 ただただ、無意味で、滑稽なだけだ。

 それこそ、地獄の鬼もせせら笑うほどに…………


 ああ、しかし、この時代。()()の話をせずにいられようか?

 ()()の話と言っても、語るのは自身や隣人の将来ばかりではない。


〈量子回線〉が大陸間を繋ぎ、

〈無人探査船〉は外宇宙に生命の痕跡を発見し、

〈機械の体〉で全身麻痺の富豪が歩き出し、

〈改良昆虫〉が食料危機を解決に向かわせ、

〈完全自律の歌姫〉に、人々は熱狂する。

 スマートフォンは、毎日、毎日、人類の進歩と調和をせっせと報告する。


 ()()は、一体どんなニュースで魅せてくれるのか?

 ()()は、一体どこまで科学が進歩を遂げるのか?

 ()()は、一体どの問題を解決してくれるのか?

 ()()は、一体、何が起きるのか?

 ()()は……

 ()()は……


 人々が口にするのは、()()の話。




【4】


「来年は……」


 今、塩垣一華も、来年の話をしている。


「来年は…………生活費がもつか、ちょっと心配です」

「ははは。そうかそうか。五月(さつき)の今から、明くる年の食い扶持(ぶち)の心配か!」


 隣に腰掛けた鬼は、来年の話に笑う。

 鬼がケタケタと笑うのに合わせ、額から生えた角も揺れる。これは、()()()()()()()()()()ではない。


「用心深くて、結構なことじゃあないか」

「遺産の整理をしてるんですよ。祖父は口座をいくつか持ってたみたいなんですけど、電子通帳を確認してたら、残高が思ってたより残り少なくて……」


 ベンチに座る鬼は、身を乗り出す。

 長い髪が、一華の右手に垂れる。あまりに()()()()()()感触。薄紅色の、繊維。

 鬼との談笑は続く。


「『よく見たら、このままじゃ一日5円しか使えん……!』 とか?」

「いやー、まだ分からないんですよ。全部調べたわけじゃないので……」

「それは、油断できんなぁ」

「ただ、せめて大学を出られるぐらいには、貯金が残ってると思います」

「ほう?」

「ですね。祖父は、用心深くて、多少いい加減でも無計画な人ではなかったので……きちんと貯えてると、信じてますよ」

「なるほどなるほど、一華の()()()はじいさん譲り、というわけか……」

「は、はい、まあ、きっと」


 こうは言ったが、万一に備えてバイト増やさないとマズいかなあ……と、一華はスケジュールを考え直す。

 考えがてら、隣の鬼の顔色を窺う。

 ()()は、何やら神妙な顔つきで、芝生の方を見つめている。一体どうしたのか。さっきまで、へらへらとお金の話をしていたというのに。

 今回ばかりは、相手の機嫌を損ねると、本当にヤバい……。

 雑談の中で失言が無かったか、不安に駆られた。

 鬼はしばらく沈黙していたが、やがて口を開いた。


「なあ、一華よ」

「は、はい」

「お前の“じいさん”は、どういう人だった?」

「は……」

「孫の目で見た、素朴な印象が聞きたい」


 先ほどまでの一寸古風で砕けた口調は、そのまま。

 しかし、表情は固い。照明に照らされた、蒼白の顔。


 一華は、またも混乱した。

 最初の混乱は、先刻、雑木林の中から話しかけられた時。そして、林の中にこの()が見えた時。

 もう正気を失う寸前だった。「ドレッドロックスの男」が去り、公園内に誰もいないことを確認して、すっかり油断していた時の、()()()だったのだから。

 おののいている間にも、おぼろなシルエットの鬼は木々の間をゆらゆらとぬうように、近寄ってきた。

 逃げ出そうとベンチから腰を浮かしたが、失敗。


『怖がらず、一寸(ちょっと)話そう。人の子よ……なあ?』


 八重歯を見せつけ、笑う鬼。

 背後の雑木林から出てきたこの……()()()は、いつの間にか一華の隣に移動していた。気付けば肩に手を回され、力任せにベンチにへと押し戻される。体格は同じぐらいだろうに、なんだこの筋力は。


『本当に、一寸ちょっと一寸ちょっとでいいから! な?』


 引き留める鬼。逃げられないと悟って震える一華。これは、()()()()()()()

 不安をよそに、鬼は語りだす――――


『うー、その。今日の昼間は、五月晴れだったなあ?』 

『…………』


 一華は、身じろぎ一つしなかった。


『これは見事な見事な日本晴れ……外出てた?』

『…………』


 一華は、無言で首を横に振った。


『家で、何してたの?』


 鬼の目で覗き込まれた。深い深い、奈落のような瞳。

 口で返事をしないと、殺される気がした。


『あの、その、香典の整理を…………』

『あっ、そっか…………』

『い、いえ……』

『……』

『……』


 沈黙。


『………………えーと、そうだ。汝、名は何という?』

『え、えーと。塩垣、一華です』

『そうか、一華、か。さっきは悪いこと聞いてしまったな。すまぬ』

『っ……あ、い、いいんです、いいんです。ほんと、大丈夫なんで』

『いやいや、少々無礼が過ぎた』

『そんなそんな……』


 ――――もしやこの鬼、意外と優しいのでは?


 そう気を許したのが切っ掛け。


『ところで、()()よ。生業は、あるよな? 日頃は何を?』

『大が……えっと……大学生です』

『大学? ……ああ、そうか、門弟(もんてい)か! この近くで?』

『あ……はい! バスで――――』


 大学の話に始まり、近所の人の話を経て、葬儀の話……

 一華の語るまばらな内容に、鬼は時に相槌を打ち、時に質問を返し、時に驚き、時に(なぐさ)める。

 不思議なもので、話題が尽きない。

 聞き上手な鬼に、あれやこれやと打ち明けてしまう一華。静まり帰った公園に、二人分の声が響きだした。

 いずれ「変な男」が戻ってくることも忘れ、思わず話し込んでしまった。


 祖父を喪い、葬儀で気苦労し、少なからず沈んでいた一華。

 大学は欠席していたので、学友と話す機会もない。

 心に溜まったストレスの(よど)みは、はけ口が見当たらない。

 そんな時、通りかかった夜の公園。日常に潜んでいた、恐怖体験。

 突然の誘い。夢とも現実ともつかぬ、しばしの談笑。


 一華のナーバスな精神は、わずかだが、確実に救われた。

 時間にして、10分そこそこの、この会話に。 

 来年の心配を笑い飛ばす、この鬼に。

 

 なんか、違和感のある鬼だけど――――おとぎ話のイメージと比較しても、かなり――――これは、なんだろう?

 身にまとう装束や、肌。

 これはどこか……


 ともかく、今の今まで、和やかな談笑を楽しんでいた一華。

 そんな彼女は今、突然のシリアス・ムードに、混乱していた。


 「その、“祖父”の事は……一言で言うと、どういう人だった?」




【5】

 

 いざ聞かれる答えるのが難しい、鬼の問い。

 一華はよく考えて、しかし率直に答えた。


「まともな、人」

()()()?」


 聞き返す鬼。

「その、祖父は、()()()()()、という印象です……」

 一華は素直に、祖父の印象を語る。


 「()()()()()」――――

 6歳の頃から一人の寝食を共にし、多くのことを教わり、育てられた。

 塩垣桃太の、孫娘。彼女の目から見た祖父は、どのような人物か?


「優しい人」、は違う。

 しかし、「厳しい人」、も違う。

「悪い人」、は絶対違う。

 しかし、「正しい人」、も何か違う。

 

 誰にでもにこやかに挨拶し、それでいて、危険な人やものからはそれとなく家族を遠ざける。

一華が嘘をついて学校をサボろうとすれば怒り、しかし、正直に行きたくないと言えば、逆にズル休みに付き合ってくれた日もあった。

 衣食住で身の丈に余る贅沢は許さなかったが、時々おもちゃをねだると、なんだかんだ言いつつ買ってくれた覚えがある。

 優しすぎず、厳しすぎず。

 正しすぎず、悪すぎず。

 どこにでもいそうな、しかし理想的な――()()()()、人間。

 孫娘の目から見た印象は、それ以上でも以下でもない。


「そうか」

 何かに納得した様子の鬼。

 隣に座る一華も、それ以上何も言わない。雑多に並べたてたエピソードの羅列に、相手は満足してくれたのだろうか。

 しばしの沈黙。どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

 先に言葉を発したのは、鬼。


「じいさんに可愛がられていたと見える」

「そ、そうですか……」


 一華は照れる。


「なら、()()もこれを言うのは気が引けるな……」

「え?」


 鬼はしばらく口をつぐんでから、小さな声で、もごもごと話し始める。


「あの、じいさんが、じ……」


 先ほどまでとは打って変わった、歯切れの悪い言葉。


「はい?」


 聞き返す一華。

 鬼は、言葉を絞り出す。


「一華よ、じいさんが()()()()()()()()だと聞いたら、どうする?」

「え――――」


 口を開けたまま固まる一華。(うつむく)く女の鬼。


 公園は再び静まり返り、夜風が雑木を揺らす音が聞こえてくる。

 いつのまにかベンチの下に潜り込んでいた猫は、あくびをしている。

 公園前の歩道は、人の姿がまれになってきた。 



 ぼーん……


 どこからか聞こえた、鐘の音

 折り重なった、屋根の影。

 その向こうに――――突如、青白い閃光が湧きあがった。

 

「なっ……」

「騒ぎか?」

 

 ぼーん……

 ぼーん……

 ぼーん……


 鐘を鳴らすような音が、続く。

 これは、近くの鎖間院(くさりまいん)の鐘か? 違う。

 鐘の音が呼び水となり、近隣住民の喧騒や悲鳴まで聞こえてくる。

 

 そういえば、「ドレッドロックスの男」は? コンビニに行って、まだ戻ってこないのか? 一体どこで何をしているのだろう。まさか髪型のセットか?


「……読めた」


 一華の疑問をよそに、鬼はすっくとベンチから立ち上がった。


(そういえば、名乗ったのは私だけだったな)


 さっきまでずっと一華と話していた、この『鬼』――――

 肌にぴったりと張り付いたような衣服は、プラスチックじみた(つや)がある。

 鬼の横顔や露出した手足の皮膚には、ところどころに回路基板を思わせるラインが透けて見える。

 一本角は、生えているのではない。額のソケットに()()()()()()()。金属質な刃物のようだ。 


「一華、行くぞ。これは説明が省けそうだ」

 鬼にせっつかれ、事情が呑み込めないままに、立ち上がる一華。


 (……なんというか、何度見ても……)


 ――――何度見ても、()()()()みたいな見た目の鬼だ。




【6】


 それは、一華と鬼が閃光を目撃し公園を出る、少し前のことだった。


 金髪の乙女は追跡した。

 奇妙な髪形の男は、逃走した。

 やがて追走される男は乙女の気配に気づき、得物(じゅず)を抜いた。

 乙女もそれに応ずるように、得物(スコップ)を抜いた。


 コンビニを飛び出し、いつの間にそうなってしまったのか。

 二人は閑散とした夜道に足を止め、追跡劇は一旦の終着点にたどり着いていた。

 

「ただちに投降しなさい!」


 何度目かの警告。乙女は、右手に構えた〈スコップ〉の柄を固く握る。

 エッチングに飾られた刃は灼熱化し、揺らぐプラズマ光に縁取られている。その光は夜闇の中で見る見るうちに噴き上がって、まるで輝く長剣のよう。


「……懲りずに再度(・・)襲撃してくるとは。“ダキニの使い”め!」


奇妙な髪形の男は、数珠を片手に罵倒する。

罵倒しながら消えていく。

ひらひらなびく装束の裾まですっぽりと、男は、空中に開いた裂け目(・・・)の中に消えていく……


「……『再度』?」


 吐き捨てられた金髪の乙女は、見上げたまま、怪訝な顔で呟いた。


 ぼーん……

 ぼーん……

 ぼーん……


 男が消えた夜闇の虚空からは、もう男の声など届かない。

 その代わりと言わんばかりに、臓腑を揺するような、不可解な鐘の音が響いてくる。


 それを聞き届けた金髪の乙女は、揺るがぬ手つきで〈スコップ〉の柄を握り直すと、表面にあるタッチパネルのようなものを手早く操作する。

 すると、男が消えていったのと同様の裂け目が、金髪の乙女の背後にも現れた。

 

「警告に従わぬのなら……」


金髪の乙女、その背後に開いた、輝く裂け目。

中には、隠されていた空間が現出する。


「わたしも愛馬を()びましょう」


 まるでハッチを開くように、裂け目は中空に広がる。

 裂け目、すなわち何かの空間の入り口が虚空に広がるにつれ、より鮮明にシート(・・・)を、レバー(・・・)を、照らしだす。その周辺には併せてモニター(・・・)が現出する。


 何もないかのように見えた夜闇には確かに、コックピット(・・・・・・)が覗いていた。

 金髪の乙女は、小柄な体をそこに滑り込ませ、変な頭の男と同様に消えていく。


「霊場を荒らすこと、どうかお許しを……」


 夜の間車市街に、二つの異形が浮かび上がる。


「すべては――“人民民主社会主義じんみんみんしゅしゃかいしゅぎノルン党"のために!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 女の鬼がまさか、ロボットだたっとは…! 激アツでした…。 そしていよいよ、金髪乙女とドレッドロックスの男、ロボットの鬼、そして一華の出会うシーンがやってきそうな感じですかね…? ワクワクし…
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