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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

実録! 炎上アルバイターの真実~現役高校生アルバイターRが語る裏の陰謀~

作者: 幸 真中

 はい、よろしくお願いします。

 え、名前と学籍? R、高校2年生です。 高校名とかって……あ、大丈夫ですか。 あの……本名って……あ、イニシャルとかなら全然。 ありがとうございます。 改めてよろしくお願いします。


 普段ですか……つまらない日常、何も変わらない平和って感じでしたね。

 お互いそんな事を言っていました。 夏休みは無限地獄だなんて言ったりもしてたなぁ。


 *


 僕は、いつもと変わらずに某有名寿司チェーン店のアルバイトに勤しんでいました。 世の中の同世代は、俗に言う「夏休み」を大いに楽しんでおり、ケータイから入手するsnsのネットワークは、やれディズニーランドや、ユニバーサルスタジオへの利益貢献の投稿でひっきりなしでうんざりしていたのを覚えています。


 それらの夏休みの影響か、店にも特に人の入りが多い日の事でしたかね……あれは。 やっと取れた休憩時間を、有意義に使おうとsnsで、キラキラした投稿に目を凝らしながら、休憩室で流れてた夕刊のニュースをラジオのように聞き流していたあの事件──確か……先輩の夕勤のアルバイターさんと一緒に鑑賞して、「馬鹿だなぁ〜」とか、「炎上したら、賞金でも出るのかな?」なんて茶化していたのが印象的でしたよ。


 まるで運命かのように、ある一つのニュースが目に止まったんです。 どこかの高校生アルバイターが店内の商品を不正に使用し、阿呆のような動画をsnsに投稿して、炎上しているニュース──これで何度目か……短期間に何度も発生しているってイメージの。 このsns時代だから、起きる事件なんじゃないんかなって思っていました。

 なんて言うか、あれですよね。 ネットに顔を晒すのが、軽んじられる世代っていうか、なんというか。

 その時は、既に遠いどこかで絶対に会う筈のない人達のやっている若気の至りだとしか、大して気にもしていませんでしたよ。


 あの、不満は多くも楽しい職場に、終わりはないと思っていました。

 そんな平和は、割と簡単に壊れましたけどね。


 *


 Yとは、親友でした。 幼稚園の時からの腐り縁で、塾からバイト先まで一緒で、毎日うんざりするほどの時間を過ごしていたんです。

 多分、親より彼と過ごした時間が多いと思います。

 Yは本当に昔から正義感の強い奴でしたよ〜。 学級委員にも何回も当選していたし、いじめられっ子を不良から助ける為に体を張った事なんかも。

 素直で、曲がった事が嫌いで、正義感の強い……漫画のヒーローみたいな奴。


 だから尚更、どうしても信じられなかったんです。

 あのYが、まさかあんな事件を起こすなんて。


 *


 その日は確か、Yと家で勉強会をする約束をしていました。

 お互いシフトの休みが合い、どこか行こうかと言う話も出たんですけど、結局面倒になっちゃって……。

 あはは。 でも──その日だったんですよ。

 僕は、Yの異変に気付きました。 別段、何かおかしな事を言ったりする訳でもなく、恐らく他の人ならば気付かなかったけど、他でもない……僕でしたから。

 目に隈が出来て、顔色が少し蒼かったんです。

 Yは、小さい頃から三度の飯より睡眠が大好きでいかなる理由があっても、絶対に9時には眠っているんです。 それ故か、風邪も生まれてこのかた一度も引いたところを見た事がありません。


 僕は彼に、どうしたの?って聞くと、何やら訳の分からないパソコンのサイトにのめり込んでいて、夜更かしをしてしまったと話していました。 サイト名は……なんだっけかな。 すいませんね、ちょっとど忘れしてしまって。 でも、なんか……変に魅入ってしまう5分くらいの動画だったって言ってましたよ。

 僕は興味無かったんで、見る気もしなかったですけどね。

「へぇ〜、あんまりのめり込んで体調崩すなよ」なんて言って、その話は一旦終わったんです。 それからのお互いはとても普通に、映画なんか見ながら勉強会を進めていました。


 そして、何の取っ付きもなく、その日の勉強会は終了しました。

 彼は無邪気に笑っていましたよ。

 そんな笑顔を見るのは、その日が最後でしたが。


 *


 あの日は本当にびっくりしました。

 もう、面白いとかやばいとか、そう言う感情は一切なくって。

 その日は特にシフトも入ってなくて、家で課題なんかをやっていたんですよ。 うちの学校、課題も多くてね〜、Yと会った日も課題の愚痴ばっか言ってて「バイトでストレス発散してくるわ〜」なんて、ふざけた事も口にしてましたね。


 思えば、あれが伏線だったのかなぁ〜。 いやぁ、まさかあんな形でストレス発散するなんて、想像もつかないですけどね。

 あれは……ちょっとケータイ見てもいいですか? 確かLINEの履歴が残っているんで。

 あ、あった。 ほらほら、ここですよ。 夜の8時半ですね。

 Yから急に、「インスタのストーリー見て」ってLINEが来て、それからそのストーリーを見たんですよ。


 あ、ストーリー? 簡単に言うと、24時間で消える動画みたいな感じです。 動画日記みたいな……そうそう、そんな感じの。

 なんか、みんな間接的に鑑賞されるものだからって感覚が鈍くなっていってると思うんですよね。

 snsの盲点だと思います。


 えぇっと、どこまで話ししましたっけ。 あぁ、ストーリーの内容? とても残酷なものでしたよ。

 Yが店の厨房で、お客さんに出す食材に唾を付けたり、ゴミ箱に入れたり、男性器を出してみたり。

 ニュースで流れてた悪ふざけ動画そのまんまのものでした。

 きゃっきゃっと2、3人の男女の笑い声が聞こえていたが、特に誰が撮影してたかはその時は分かりませんでした。

 ただ、Y一人が、動画の中心でじたばた悪ふざけをしていたんです。

 Yは笑っていませんでした。 動画の中のYは、まるで人形のようでした。

 すぐに、彼に返信をしました。 あのストーリーを消せ、と。 しかし、彼は既読をつけるも、その返信は返ってきませんでした。

 そして、ストーリーも一向に削除されることもなく、24時間が経過していました。


 なんでしょうね、あの感覚は。 ジェットコースターみたいに流れてた時間が急にゆっくりに感じてしまうような感覚。 止まったかのように感じていた時間に囚われて、その夜は終わる気がしませんでした。

 そしてそれから、YからLINEが来ることも2度とありませんでした。

 instagramのアカウントも朝には凍結していました。 何故だかは分かりませんが、風の噂で大量のスパム報告を受けて、運営から削除報告を受けたと聞きました。

 こうして、僕の平和なアルバイト場所は最も信用していた人間によって、粉々に破壊されてしまったのです。


 *


 次の日。 僕は朝からシフトが入っており、起きたらすぐにバイト先に出向いていました。

 しかし、バイト先に着いた途端、店長から「今日は臨時休業するから帰ってくれ」と言われたんでびっくりしましたよ~。

 いつも新人の教育を押し付けて、パチンコに勤しんでいた典型的なクズ店長。 そんな店長がパリッパリの背広を着ていたのが印象的でしたよ、すごく。


 昨晩のYの不祥事が、一気に頭の中によぎり、堪らなくなって店長に問いただしました。 胸ぐらを掴んだりもしたかも。 そこは全く無意識だったんです。

 店長は、すぐに事の詳細を話してくれましたよ。 まぁ、隠すようなことでもないし、すぐにばれることありましたしね。

 やはり、原因は例のYのinstagramのストーリーでした。 あの動画がネット住民の間で炎上し、Yの住所等の個人情報、更にはこの店のアルバイターであることまでもが発覚し、様々な界隈で苦情が殺到していたそうです。 その日の夕方には、スクープ雑誌やニュース等にそれらの悪行が報道されてしまうことも既に決定されているとも言っていました。

 考えていた最悪のシナリオが、絵に描いたファンタジーのように実現となってしまったのです。


 バイト先を追い出されると、僕はYの家まで全速力で走りました。

 それこそ、太宰のメロスのように。 少しずつ沈んでいく太陽の、10倍の速度で。

 何かに対して悔しくて、ふと涙が流れていました。 バイト先からのYの家はさほどの距離だったけど、いつまでも……いつまでも続いている気がしていました。


 Yの家に着いて、何の迷いもなく、壊れるほど強くインターホンを押しました。 しかし、1回目のインターホンでは誰も対応してもらえず、2度3度、それらの行為を繰り返して、やっと彼のお母さんが出てきました。

 しかし、Yとの面会はすぐさま拒否されました。 曰く、Yが会いたくないと言っていたそうです。

 そんなのきっと、真っ赤な嘘でしょうけどね。 Yのお母さんには悪いですが、僕らは親よりも長い間お互いを見てきたんですから。

 なんで会いたくなかったかは、全く想像できませんでした。


 Yのお母さんの顔もあり、その日は大人しく帰りました。

 そのまま家に直帰する途中、僕はYにLINEしたんです。 バイト先とかいろいろ不安もありましたし、単純にYのことも心配でしたしね。

 しかし、やっぱりYから連絡は、届きませんでした。


 夕方、やはり全国ネットニュースでY達の動画が、想像以上に大きく報道されていました。

 その動画は、昨晩instagramでリアルタイムで見た動画より、遠い場所で起こっていたような感覚に麻痺されていて、別物のように思いました。

 ニュースでも、ネットでも、僕の親すらも、みんなY達アルバイターを……そして責任者の店長やら、僕では会ったこともないような上の人たちが、休む暇なく罵倒していたのが不快でしたね。

 そんなことを言っても僕も、今思えば多分、心の底では自業自得だなって気持ちがあったんだと思います。

 今では、そんなやつを見てしまったら殺してしまうかもしれませんね。


 *


 Yが死にました。

 今朝、部屋から全く出で来ず、返事もないYを心配して部屋をこじ開けたところ、首を吊って自殺していたそうです。

 特に何の遺書もありませんでしたが、まぁ、昨日の今日でしたし。 動機は明白でしたよ。


 確か……その事実は、母から聞き、それからの記憶は曖昧であんまり覚えていません。 世界が真っ白になるってあんな感覚なんですね。 その日は、そんな調子でアルバイトもすっぽかして、部屋に篭って寝ていました。 こういう時って、彼とのいろんな思い出を思い出したりするのかと思ったら、全然そんな事もなくて、何故か涙も出ませんでした。

 ただただ頭が真っ白で、魂が抜けた感覚がしてました。

 人って不思議な生き物ですよね、本当に。


 彼のお通夜や葬式には、様々な方面のたくさんの関係者が訪れたらしいけど、僕はどうも行く気になれませんでした。 なぜか足が重かったんです。

 最低ですよね、親友の最後の別れに自分の都合で出向かないなんて。 でも、僕には彼を送り出す資格がない気がしてならなかったんです。 彼のピンチに、何もできなかったわけですし。


 まるで、罪の意識のようにそれは重くのしかかっていました。 この罪を一生背負い、今は亡き彼の為にその全てを償っていこうと覚悟していました。

 不幸中の幸いだったのが、それらの罪がすぐに返せる事実を数日後に知れたことですかね。


 *


 どうしてもと泣き憑かれるものですから、あまり足が進まなかったけれど、Yの家へと向かいました。 一度でいいから、Yに線香を焚いてくれとの事で、Yの家に着いたらYのお母さんとろくに話もしないで、彼の壇へと向かいました。 線香を焚き終わり、特に長居もしないで帰るつもりが、僕に見てほしい物があるというものなんでYの家で、お茶一杯分の話を聞くことにしたんです。


 衝撃でした。

 まるで現実味のない事でしたからね。

 でも、これで正義感のYの不可解な行動の謎が……Yに対しての罪の償いになるのなら。

 なんでも出来る気がしました。


 それは、Yのケータイのメモ機能に残されたものでした。


 *


 8月W日


 彼女に振られた。 意地を張っていたから、Rには相談しなかったが精神的には相当つらい。

 ネットで、ストレス発散の方法なんかを調べていたら、ケータイに何やら妙なURLが送られてきた。

 普段なら、そんな怪しいメール見向きもしないが、気の浮き沈みもあったからか、吸い込まれるように開いてしまった。 すると、変なページに飛び、自動で訳の分からないぐちゃぐちゃの動画が流れた。 怖くなって二秒もしないうちに動画は閉じたが、途中でとじた動画が、気になって仕方なかった。


 *


 8月X日


 アルバイト中にも関わらず、どうしてもあの動画が気になって仕方なかったので、誘惑に負けて家に帰ってすぐにフルで見てしまった。

 やはり、意味の分からないぐちゃぐちゃの白黒の動画だった。 ぴかぴかとした単発の閃光が印象的なくらいで、ぐちゃぐちゃ具合は気分が悪くなる……二度と見たくない動画だし、二度と見ることのない動画だと思っていた。 しかし、何故かその動画を見た後は、すごく気分が良かった。

 何もしていないのに、ものすごくテンションが上がった。

 元カノに振られた心の傷もその高揚のお陰で忘れられる気がした。 その動画のせいか、目が完全に冴えて眠れなかった。

 俺は何度も何度も、その動画を見た。 それを見終わるたびに、何か特別な存在になれる気がしていて更に気分が高揚した。 だんだん、動画が頭から離れなくなっていた。

 結局、その日は寝れなかった。


 *


 8月Y日


 Rが家に来た。 前から約束していたらしいがすっかりと忘れていた。

 しかし、なんだか全然眠くもなかったから、そのまま彼をもてなした。

 自分では、気づけなかったがどうやら相当血色が悪かったらしく、Rから突っ込まれてしまった。 あの動画をおすすめしようとも思ったが、あれがヤバいものだとなんとなく察しているのでやめた。

 Rと遊んでいるときも、あの動画が頭に残って消えてくれなかった。 時折、トイレに行くふりをして、部屋を離れてあの動画を見に行った。 すると今まで感じていた高揚が性的快楽に近いものだと気づき、いつの間にかトイレで、自慰をしていた。

 自分は、どうなってしまうのだろうと背が凍えるほど怖かった。

 その恐怖心を消そうと思いもう一度動画を見た。

 結局その日も寝れはしなかった。


 *


 8月Z日


 今日も今日とて、夕方ころまで繰り返し動画を眺めていた。 既に動画の閃光と音によって、目と耳が使い物にならない。 もう、動画のことしか考えられなかった。

 そのままバイトに行った。 もう、その時には自分が何をしているか理解できなかった。

 そして、気分が高揚し……もう……ダメだった。 誰かに自分が見てほしかった。 見て、哀れさに気づいて助けてほしかった。

 Rならと思ったが、動画から目を離せず縋れなかった。

 もう本当に訳が分からなかった。

 親にも手が出した。 学校もバイトもクビになった。 住所も特定されて、賠償請求もそのうち来るだろう。 もう動画も効かなくなるほど、精神が麻痺していた。

 もう、終わりだ。 終わりにしよう。

 さようなら。


 *


『ワイオミング・インシデント』という動画をご存知ですか? 記者さん。

 なんの代わり映えもしない動画が急に意味不明で不快な音楽と映像が流れ、それらの効力で洗脳すると言った都市伝説。 僕は、まだ生まれていなかったのでよく知りませんがオウム真理教だかが、民報でそれを流して、大問題になったそうですよね。


 Yが見たのはそれだったんじゃないかなぁって思ったんですよ。 誰が何の意図で……どんな目的があって何故Yだったのかは見当も付きませんでしたけどね。 結局、普通の高校生の僕の調査力では、本かネットに頼るしかありませんからね。 だから、僕はある人物に会いに行くことにしたんです。

 その人物の名前はS──どうやら、記憶が新しいみたいですね。

 そうです。 彼は、最も初めに炎上悪ふざけ動画の首謀者として、全国ニュースに取り上げられた人物です。


 *


 僕は、少しだけ嬉しかったんです。

 メモ機能に残された彼の日記は、いつも通りの彼の匂いがして。

 そして、僕は誓いました。 どれだけの代償を払おうとも、Yの濡れ衣を晴らしてやると。 Yの母とも約束をしました。

 そして、僕はとうとう踏み込んでしまったのです。

 この社会の深い闇に。


 彼は四国の高校生だったので、彼に会うだけでも既に数万円単位のお金がかかってしまいました。 Sさんの顔や名前、住所はネット等に散々晒されており、それを頼りに彼の元まで出向きました。

 目的は勿論、あの動画の正体……までは行かずも、Sさんも同じ動画の中毒者となり、あんな行為に及んだとなれば、Yに対しての客観も変わってくると思っていたからです。


 彼の家には、半日程を掛けて、ようやく辿り着きました。

 しかし、対応をしてくれたSさんの母親らしき人物はニュースやネット等を見て遊び半分で家に来た野次馬と勘違いをされ、追い出されそうになりました。 どうやら、彼女の雰囲気から察するに何かを知っている風だったんです。

 少し、卑怯かもしれませんが『ワイオミング・インシデント』の事をほのめかしました。 すると、彼女は人が変わったかのように、僕をもてなし、Sさんについていろいろと話をしてくれました。


 彼もやはり、『ワイオミング・インシデント』の中毒者だったんです。 ふとしたきっかけでそれの動画を開いてしまい、そのままYと同じように……事を起こしてしまったそうです。


 どうやら、あの動画の効果の特徴なのか──ある一定の高揚感を味わうと、強烈な鬱症状が発症するらしく、Yはそれに耐えきれずに自殺、Sさんは現在精神病棟に隔離されているそうです。

 更に、その動画には自己承認意欲も増進される効果もあるらしく、まさにsns時代を見越して()()()()()()()()電脳兵器だったと言えます。

 しかし、やはりどこの誰の仕業か特定することはできませんでした。


 *


 Sさんの主医師は、とても話が分かる人間で『ワイオミング・インシデント』から採取された脳内麻薬の異常数値の結果や、Sさんなどの診断書までもを発行してもらい、更には一緒に警察にも相談してくれたんです。

 しかし、警察にはまともに取り合ってもらえずに、逆に僕は家出少年の扱いを受け、地元まで強制送還されてしまいました。 その時です。 警察にはもう頼れないと思ったのです。


 それから、僕はtwitterのDM機能を利用して、数多くの著名人やyoutuberにYやSさん、『ワイオミング・インシデント』の真相を数多くの人たちに訴えてもらえるようにとのメッセージを送りました。 当然、有名人の知り合いなんていないわけですしね。


 もちろん、信じてもらえなかったり、スルーされたりするのがほとんどでした。 しかし、話の分かる人もいて、僕の想いの代弁をしてくれました。

 一人、そんな人が現れると次々と拡散してくれる人が増え、snsのタイムラインが、僕の想いで覆われたんです。

 一時はニュースに取り上げてもらえました。

 天国にいるYにもこの思いが届いていることを祈っています。


 *


 あれから、約一年の月日が流れました。 僕は、受験期に入り、寿司屋のアルバイトも辞めました。 受験勉強に追われ、snsも長らく見ていません。


 結果から言うと、僕はまた……何もできませんでした。

 なにも変わらなかったです。 確かにあの地獄絵図のように続いた高校生アルバイター炎上事件は収まりましたが、同様のsnsトラブルが起きているとニュースなどで目にします。

 僕の学校でも、周りの人々は簡単に顔写真を載せたり、誰かの悪口を書いてみたり、心ない言葉をかけたりが絶えません。


 確かにYは死にました。 だから、これ以上の事をやってもYは戻って来ないのです。 けど……やっぱり、これだけはどうしてもと思い、取材を受けさせてもらいました。


 snsは、言い換えるなら存在意義が数値化されて出てしまう、間接的なもう一つの世界です。

 数値化されてしまうが故に、なお一層、周囲に見栄を張ります。 様々な感情や欲求が、大きくなります。

 間接的な故に、相手の感情が遠く、想像しづらいものとなります。 だから、相手を傷つけてしまう言葉が簡単に言えるのです。

 そして、それらの感情や欲求と感情の麻痺が重なった時、人をも簡単に殺せてしまう力を持ってしまうのです。


 Yを殺したのが、あの『ワイオミング・インシデント』なのは確かです。 でも、このsns時代の現状がない限り、あの動画は効力を持たないのです。

 皆さん、分かってください。

 いいねより、リツイートより、ff比より大事なことがある筈です。

 僕は、Yの為にも、この訴えを一生やめません。

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