第67話
唸り声と雫の落ちる音。その音だけが場を支配している。
「さぁて、キミはどう攻めればいいのかナ?」
さすがに大量のサイを使うのに、莫大な集中力を要しているのか、ポーンは汗をしたたらせている。それでもまだ、道化る力を残しているようだ。
《Grrrrr!》
対するギアは、サイで巨大化させた爪で多くのサイ人形を切り刻んでいく。多くの切り裂かれた人形が粒子化し、消えていく。
切り裂かれていく度に、人形は消える一方で補充されない。しかし、ギアは有利にならない。人形は数が減ると、その分残りの動きが研ぎ澄まされていく。
そして今。攻撃パターンが読めるようになり始めたのか、ギアはダメージを負う一方だった。
《Grr……》
1桁まで人形の数は減ったが、ダメージがひどい。それでもなお、勝つことに執着するように、爪を振るおうと動く。
「……ギアッ!」
黙って見てられないエリーとノームは動こうとするが、その度に人形がそれを阻止するために現れる。
「邪魔しないでってバ」
最初のうちは何体か壊せていたが、もう歯がたたず、ダメージを受けた顔が赤く腫れていた。切れた唇には血がにじんでいた。
《G……!》
攻撃を受けたギアが、エリーとノームの近くへと吹き飛ばされた。ギアは立ち上がろうと力を入れるが、震える足ではバランスを保てず、崩れ落ちる。
「ギアッ!!」
《Grrrrr……》
それでも、勝つことだけを望んでいる。その姿を見たエリーは、何かを探すかのように目を泳がせた。
(……シルフ。聞こえてるでしょ?)
何も起こらない。傷の深いギアはまだ立てずにいる。
(少しぐらい遅くなっていい! 力を貸しなさいよ!!)
そよ風が吹いた。