第54話
魔法陣で転送された先はどこかの城らしい1室。
「ここは…… サイで構築された城なの?」
エリーが城の壁を見て、つぶやいた。
ここの壁をよく見ると、いくつかの色が反発しあって、ぐるぐると渦巻いている。遠目からは灰色なのだがその独特な色合いから、サイで作られた物だと判断できる。
「これ、どう考えても1人で作った物じゃないよな」
サイを使うには集中力を要する。とてつもなく大きな物――例えば城のような建築物――をたった1人で作ることはよほどの才能がない限り、無理難題である。そして、使われている色。全部の色が壁に使われている。
大抵のサイ使いは1色しか持っておらず、持っていても2、3色である――虹のサイを除いて。複数色の持ち主はメインカラーとサブカラーに別れているが、虹のサイは9色全ての色を平等に扱える。ただ、存命している虹のサイ使いはいないとされている。
「すごい……。すごいけど、感動してる場合じゃない。黒夜叉と白阿修羅を探さないと」
「はい」「ええ、そうね」「おう」「そうだな」
「ぐっ……」
「玄っ……!」
玄が例の左目を押さえて、うずくまった。肩で息をしており、辛そうの一言で言い表せる。
「大丈夫……。急に左目がうずいただ……け……ん!?」
「どうした?」
驚いた表情の玄はその手を下ろした。獣のように細長い瞳孔は、大きく見開かれている。
「今、多分銀介がその扉を開ける映像が見えた……」
玄は「ありえない」と言いたげな表情をしている。その瞳に写った銀介は、玄が記憶している昔の――髪の短い頃の銀介だったからだ。