第51話
虚ろな目をした銀介が、その手に持った斧で切りかかる。
仕方なく、ギアも爪で応戦する。それに対し、銀介は通常より長めに作られた斧の柄で受け止める。
虚ろな表情のまま、何かをつぶやき続ける様はまさしく操り人形であった。
「……ぉす」
《?》
銀介の口から少し大きな声がこぼれた。大きなといっても、あくまでつぶやきの範疇だが。
「……倒す……」
つぶやきに合わせるように、斧がふるわれる。
とっさに身をひるがえし、ギアは避ける。金色の毛が宙で散る。
《かすったか……》
宙から地へと毛は移動する。ギアは視界の隅でそれと切られた部分を確認すると、銀介を鋭く見る。
《オレの毛並みを乱すなんて…… 許せねぇ……!》
低いうなり声。それは獣特有のグルルというのどの音。――ギアの静かな怒りを表したような、そんな音。
ゆらりゆらりと近づく銀介。それに対し、ギアもゆらりと動き始める。
ジリジリと双方の距離が縮まる。
しばらくの沈黙――静止とも言うべきか――の後、先に動いたのはギアだった。
獣の叫び声。その反響が森に響き続いている短い間。その間に、銀介の背後へと回り込み、強烈な一撃を加える。
“仲間”であるため斬撃ではなく、打撃であった。鋭い爪ではないが、力任せに速度にのせて放つ拳はそれ相応の威力がある。
銀介はゆっくりと地に伏せた。
《さぁ……》
ギアは樹の方にに向き直る。
《次はお前の番だ?》
枝の上のルークはニヤリと笑みを浮かべた。