第25話
「まあ、やってみるといいよ」
黒夜叉は、ボールをポンと投げてきた。ボールに溝が入っている。
「そこの溝にサイを使って、跳ねさせたら空中で切り替えるんだ」
「空中で…… ですか?」
サイを使って、溝を埋める。あまり跳ねそうに無いボールを、ちょうどいい高さに跳ねるように投げる。
意識を集中する。目を閉じているのに、ボールだけははっきりと見える。スロー再生のような感じで落ちていくのが分かる。「留まれ」と意識を集中する。
パキンと音がした。目を開けると、ボールが重力に逆らっていた。ちょうど目の前に浮いている。
「すごっ!? 1回目でできるって……」
「もしかして、記憶なくす前にできてたとか……?」
白阿修羅と黒夜叉は驚いた。すぐに黒夜叉が理由を解明しようと考え始める。
「確かに、出来ていたことをするっていう感覚に近いものがありました」
サイを使ってみる。今までの記憶と感覚が違う。今の練習で、何かが開放されたような感覚。そして、知っているわけではないが頭の中をよぎった言葉。
『天空界。第零番隊。――虹のサイ』
「虹のサイ……」
思わずつぶやいてしまった。なぜかその言葉だけが、頭から離れない。なぜだろうと思いつつも考える暇はなく、サイを消しボールを回収した。黒夜叉の「行くぞ」という声に呼ばれ、その場を立ち去った。 ――ボールのサイの色が藍色だったことにも気づかずに。
ところ変わって、とある建物内。
「お帰り、ポーン」
「ただいま戻りました……」
「もしかして、逃げられたの?」
いきなり、核心を衝かれたポーンは返事に困った。聞いてきたのはある意味、メンバー内で一番温厚なビショップで良かったと、ポーンは思った。
「あたし的には、しょうがないと思うよ。だって相手は、王のライバルでしょう? 『天空界の守護神』って、言われてたんだっけ?」
ポーンは、こくんとうなづいた。
「しょうがないもんね。ボスにはあたしから言っておいてあげるよ」
そういって、ビショップは“ボス”のところへ歩いていった。