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新しき王の姿  作者: 右海 優華
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モードレットとランスロット

読みにくい点等ありましたらご指摘いただけると嬉しいです。

2日に一度のペースで基本更新をしたいと思っています。あとは気分次第で更新するかもです。

アーサー王伝説を下敷きにしています。実際の物語とは大きく異なる展開をするため、参考にしている程度の話ですが。どうぞ楽しんでいってください。


 一番古い記憶はその剣を手にした時のものだ。台座に深く突き刺さった聖剣を握ったその日の記憶。魔術師が横で何かをつぶやくのも気にかけず、力を込めて引き抜いた。予想していたよりも軽く、想像していたよりも呆気なく抜けたことをよく覚えている。《エクスカリバー》の放った光が世界を割るように見えた。

 

「モードレッド卿。聞いていますか」

飄々とした声に俺は向き直った。

「宮廷魔術師として心配なのですよ。あなたはいつも呆けているように見えますから。どうかもう少し騎士としての自覚を持ってください」

傍らに子供を連れながら言われては威厳もへったくれもないな、と思う。

「マーリン、お前に心配されるほど呆けてはいない。それに自覚だなんて言われても、仕える王の姿も知らない俺のような騎士には縁遠い言葉だよ」

実際、王に謁見したことはない。円卓の中で唯一、俺だけが。そのことを悪く思ったことはない。不義の子たる俺はしょせんそういう扱いだ。望まれぬ子、モードレット。円卓においてそれは周知の事実だ。

「モードレット。あなたはアーサーの良き剣でなければならないのです。彼が王としての責務を全うするために。それはガウェインでもランスロットでもなく、あなたでなければならないのですよ。アーサーはほかの誰よりもあなたを信じている」

それは…事実とは思えなかった。父上が俺を信じているなど万に一つの可能性もない。マーリンももう少しましな嘘をついてほしいものだ。そんな言葉では自覚も何も起きようもない。

「私はおろか、王さえも呼び捨てるとは、私的な会話とはいえ不敬が過ぎませんか、マーリン」

冷たいようでいて、慈愛を含んだ声がマーリンを叱責した。

藍色の髪と瞳、鈍色の剣を帯びた騎士、ランスロット卿は俺に向き直り告げた。

「モードレット卿、東の海に外敵を発見しました。王の剣として私と来ていただけますね」

ランスロット卿は立場こそ俺と同じ騎士ではあるが、俺にとっては直属の上司のような存在だ。父上の最も親しい友でもある。そしてマーリン以外で俺と私的な会話をすることを拒まない変わり者。嫌味が過ぎるときもあるが。


東の海へは陸路で約半日。向かうのはランスロット卿と配下の騎士数名と俺。ランスロット卿は配下からの信頼の厚い騎士だが自分に同伴させるのを嫌がる節がある。今回も、出発の直前まで俺と二人で行こうとして配下から叱責を食らっていた。

「モードレット卿、先のマーリンとの会話、よもや本気で言ってはいませんね。騎士の自覚が縁遠いなどと、ほかの騎士に聞かれたらどうするおつもりですか」

「本気で言ったわけじゃないですよ。マーリンの小言がうるさかったので言ってみただけです。もっとも、あのように子連れで言われたのでは、反抗する気も削げるというものですが」

「あれはまた西の前線からの拾い子でしょう。七人ほど保護したといっていましたが、あれはあれで困ったものです。広大とはいえ王城も有限であるというのに。このままではいつ円卓の間に子供が入ってくるか…。王もなぜ黙ってみているのでしょうね。マーリンには少し寛容が過ぎる気がします」

マーリンを批判するようにぼやくランスロット卿だがその声も顔も不思議と晴れやかだった。彼も子供が嫌いなわけではないのだ。単純に王城の在り方としてマーリンの行動を憂いているだけで。

マーリンは外敵との戦いによって災害をうけた前線の街から孤児となった子供を拾ってくる。その結果王城の中は学舎と見違えるほどの数の子供が行き来するようになっていた。

「マーリンと父上との関係は少し変わっていますからね。間違っても友ではなく、かといって王と宮廷魔術師というだけでもない。お互いに理解しあってはいるのだと思いますが」

「どうなんでしょうね、マーリンも王とのことは話したがりませんし、王は話すこともままなりませんしね。とはいえこのまま増え続けるようなら、城の外に相応の規模の学舎を作らなければならないでしょう」

「そうなるとマーリンが先生ですか。案外似合っているかもしれませんね。父上の剣の師はマーリンだときいています。あの軽い態度も子供たちには受けがいいようですし」

ランスロット卿は苦笑いしながら後続の配下に休憩を指示した。


道中の小さな町で休憩をとりながらランスロット卿は腰に帯びた聖剣を弄んでいた。見ていると手入れにしか見えないが、彼はそんなことをするような騎士ではなかった。

「モード、お前も座りなさい。ここを出ればまた強行軍ですから。休めるときにしっかり休むのも騎士の務めですよ。今日は良い天気ですし、こうして外で食事というのも気持ちのいいものでしょう」

モード、というのは俺の愛称、あだ名というやつだ。俺は彼のことを呼ぶときにそんなことできないが。精々敬称をとるくらいのことだ。俺をそう呼ぶとき、大体彼は機嫌がいい。鈍色に光る湖の聖剣、《アロンダイト》の刀身を指でなぞりながら心地よさそうに風に吹かれている。

「休んでるよ、ランスロットさん。それに俺としては屋内での食事のほうが楽でいい。野風に吹かれながらの食事はどうにも気疲れしてしまう。どうせ外での食事というならもっと食いやすい携帯食でも作ってもらわなくちゃな」

「反抗的ですね、モードは。こういうのもまた鍛錬でしょうに。私の配下のように昼寝を始めろとは言いませんが、あなたはもう少し休み方を覚えてもいいと思いますよ。気の抜き方、というべきか」

「気の抜き方、ねえ。そもそもそんなに構えていることもないから何とも言えないな」

「日々鍛錬を心掛けよと配下に指示したのは誰でしたかね」

配下にそう指示したのはほかでもなく俺だ。…自分が楽をするためだが。基本的に遊撃と警戒を任務とする俺の騎士隊は誰かが改めて指揮を執る必要がないからな。攻撃も撤退も自己判断に任せている。しかしそのありようは褒められたものではないから、指摘されると返す言葉もないわけで。

「…そろそろ出発しませんか。半時は休みましたよ。日の沈むまでに到着したいですし」

おとなしく公的な会話に切り替えることで糾弾するような彼の目を避けることにしたのだった。

「そうですね。では発つとしましょうか。モードレット卿はまた私と一緒に先頭を行きますよ」

居住まいを正しながらランスロット卿は聖剣を腰に差した。


東の海の沿岸にはすでに外敵が数機上陸し、俺の配下と現地部隊が交戦状態にあった。

上陸した外敵は生き物とは思えない見てくれをしている。鋼鉄の体に青白い稲妻をちらつかせている。その駆動は大きく、歩を進めるたびに地響きを起こしていた。動く小要塞のようでもある。ぎしぎしと鉄のこすれ軋む不快な音が空気を震わせ、騎士たちの体を吹き飛ばす。

「こんなの勝てるわけねぇ…死にたくねぇよぉぉ!!」

「おいてめぇ!ランスロット卿の騎士隊が勝手に逃げんじゃねえ!」

「誰か助けてくれよ…このままじゃ殺されちまうっ!」

ここまで奮戦していた騎士たちもあまりの戦力差に心が折れかけているようだ。士気が下がっているのが目に見える。押し切られるのも時間の問題だろう。その悲嘆の声が漂う戦場を砕き散らすように声が轟いた。

「飲まれるな!勇敢な騎士諸君!剣を構えろ!敵を見よ!己が背にこの国の明日があることを忘れるな!そこな外敵どもを切って伏せよ!円卓の騎士が一人、ランスロット!これより諸君らの指揮を執る!」

ランスロット卿の一声に、肩を落としていた騎士たちの誰もが立ち上がった。振り返り俺たちを仰ぎ見る。次の一言に期待するように…。あ、これ俺もなんか言わなきゃいけない雰囲気だわ。

「皆よく耐えた!この先はア-サー王が剣として俺が敵を断つ!動ける者は後に続け!皆、生きて帰り、夜通し飲み明かすぞ!」

「「「「「おおおおおぉぉぉぉっ!!」」」」」

言うが早いか先頭の一機にランスロット卿がとびかかった。

「断ち切れ!アロンダイト!!」

鈍色の聖剣はまばゆい光を放ち、鋼鉄の巨人を両断した。そして叫ぶ。

「この戦いでモードレット卿より武勲を上げたものは、ランスロットが名のもとにモードレット卿に一杯おごらせることを約束しよう!さあ奮えよ騎士諸君!」

「ランスロットぉぉぉぉぉっ!」

公的な場面で敬称を忘れたことを反省はするが、今回は見逃してほしいと思った。





ランスロット卿は理想の上司をイメージしていますw

物腰の柔らかい感じが好みですね(我が子ながら)

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