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相部屋

 気がつくと、俺は病院の救急外来処置室で目を覚ました。


 人工呼吸器を取り付けられ、腕には点滴の管が刺さっている。

 すぐ側では、俺が気づいたことを知った母親が、涙を浮かべて喜んでいた。


 ……どうやら、俺はあの後気を失っていたらしい。

 後で聞いた話では、同窓会から帰ってきた母が、寝室で痙攣している俺を見つけ、その手に殺虫剤入りの点鼻薬が握られているのを見て全てを悟り、救急車を呼んでくれたということだ。


 ということは……病院の先生とかに、間違って殺虫剤を鼻に噴射したこと、ばれてしまったのか……。


 もう時刻は昼の十二時を過ぎていた。と言うことは、単純計算でも十二時間以上昏倒していたことになる。


 その後、容態が落ち着いてきたところを見計らって、担当の若い先生(男)から今回の症状について説明を受けた。


 なんでも、俺の場合『アナフィラキシーショック』になってしまったようで、医者から

「もう一度同じ事をしてしまうと、今度こそ助からないかもしれない」

 って脅されてしまった。

 まあ、もう二度と殺虫剤を鼻に噴射することはないと思うが……。


 この救急外来処置室、かなり広い部屋で、カーテンで仕切られただけでいくつもベッドが存在し、通常はそれぞれ緊急治療が行われているのだが、この時はちょっと空いていた。


 俺は一番端の区画で、この後一般の病室に移ってもらうと説明を聞いていたのだが、その時、部屋の奥の方から女性の看護師さん達の


「ねえ、聞いた? 殺虫剤、鼻から吸って死にかけた男子高校生がいるんですって」

「えー、ウソでしょ? 本当に? 何考えているのかしら、最近の男の子は……」


 って、笑いながら話している声が奥から聞こえてきて……相当ショックを受けてしまった。


 そして俺は一時、意識不明の重体に陥っていたので、大事を取ってしばらく入院することとなった。


 ところが……この病院、今現在入院患者が満杯に近く、相部屋になってしまうという。

 それだけなら別段珍しくもないのだが、なんと女の子と一緒の部屋になるというではないか。


 正直、えっと思ったのだが……あの殺虫剤でもがき苦しんでいたときの妄想?が本当になりそうで……なぜかちょっと喜んでしまう。


 妄想の中では、自分が救急搬送された原因をバカ正直に話して呆れられてしまったが、別にそんなこと言わなければいいだけだ。


 うーん、どんな女の子と相部屋になるのかな……。

 向こうは、男である俺が相部屋になる事を了承してくれたらしいが……そんな奇跡ってあるんだな。


 ちょっとワクワク、ちょっとドキドキしながらその部屋に、母親と共に

「失礼します……」

 と言って入っていったのだが……。


 いた! 目鼻立ちのぱっちりした、可愛らしい女の子がっ!

 ……ただし、五歳ぐらいの。


 俺を見て、ちょっと照れたような笑みを浮かべて

「こんにちはーっ」

 と元気よく挨拶してくれた。


 まあ、確かに女の子には違いないけど……やっぱり、妄想みたいにうまくいかないモノだなって、苦笑してしまった。


 この子は『ひな』っていう名前で、あめ玉を喉に詰まらせて救急搬送されたという。

 うーん、入院に至った理由まで可愛らしい。


 どうも、この部屋は小児用、つまり『子供のための入院部屋』ということで……十六歳の俺も、まだ『子供』っていう扱いらしい。


 ひなの母親も付き添いで一緒に居たのだが、俺の母親と

「しばらく、よろしくお願いします」

 みたいな挨拶をしていた。


 ひな、ほんの五分で俺に懐いてくれて……俺のことを『おにーちゃん』と呼んでくれるようになった。


 うん、かわいい。もう十年もすれば、きっと綺麗な少女に育っているだろう。

 その時は、俺は二十六歳。まだちょっと犯罪だな……そんなよからぬ妄想を抱いているときに、入り口の扉がガラガラと開き、その方向を見て、思わず固まってしまった。


 ピンクの検査着を来た、俺と同い年ぐらいの、小柄で華奢な美少女。

 肩までの長さの、綺麗な黒髪。

 瞳は大きく、二重瞼、ちょっとハーフっぽく見える端正な顔の作り。

 小顔で、細身。


 まるでアイドルのように可愛らしく、俺の目には映った。

 そして彼女は、俺の方を見て、きょとんとした表情になっている。


「ひとみおねーちゃん、このおにーちゃんがさっき先生が言ってた男の子だよーっ!」

 ひなちゃんが、なぜか自慢げに俺の事を紹介してくれた。


「えっ、あ、あの……男の子って、あなた……ですか?」

「え、あ、はいっ……って、まさか君もこの部屋?」

「は、はい、そうです……」

 なんかお互い、ものすごく焦っている。


 ……どうやら彼女、ここが子供用の部屋だから、もっと幼い男の子が来ると想像していたようだ。


 俺も、女の子が二人居るとは聞いていなかったし……なんかこの病院、そういう方面に対する気配りは皆無のようだ。


 まあ、ベッドにはそれぞれカーテンが付いていて、簡易的に個室にはなるようだが……それにしても、この状況は……。


 俺が戸惑っていると、彼女はにっこりと笑顔になって、

「2,3日だと思いますけど、よろしくお願いしますね」

 って挨拶してくれた。


 そのとびきり可愛い笑顔に、俺もつられて

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

 って、笑顔でお辞儀して返した。


 そして彼女は一番奥のベッドに、ちょっとフラフラしながら歩いて行ったのだが、その時、


「……なんか、ラノベみたい」


 と一言つぶやいたのを、俺は聞き逃さなかった。


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