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召喚士

 ずっと更新が途絶えていたのですが、ネット小説大賞(旧:エリュシオンノベルコンテスト(なろうコン))様から感想を頂いたことを受け、また少しずつ更新を続けて行こうと考えていますm(_ _)m。


 次の土曜日、俺と瞳は、ラインを通じて、マンガ喫茶の「シエラの樹」で会うことにしていた。


 時刻は正午。

 この喫茶店、洋食にもかなり力を入れており、オムライスだけでも八種類ほど注文することができる(主にソースの違いだが)。


 俺はやや早めに来て、奥の方、二人掛けの席を取っていた。

 すると、ちょうど待ち合わせの時間に、彼女はやってきた。


 この店、少年マンガが多いということで客層は男性が少し多い。

 大学生や二十代ぐらいの人が半数を占めている印象だ。


 そんな中、かなり……いや、相当可愛い女子高生である瞳が一人で入って来て、キョロキョロと店内を眺めていたので、彼等の視線を集めていた。

 しかし、彼女は奥にいる俺の姿を姿を見つけると、満面の笑顔で駆け寄ってきて、俺の向かいに座った。

 明らかに落胆の表情を浮かべる男性客。ちょっと優越感。


「和也君、私の新しい投稿、見てくれた?」


「ああ、もちろん。凄く興味を惹かれる出だしだったよ」


「本当? 良かった。それで……ひょっとして、ポイント入れてくれたの、和也君?」


「ああ、そうだよ。純粋に興味持ったし」


 俺がそう言うと、彼女はなぜか、はあぁ、とため息をついた。


「……どうした?」


「……ちょっと!」


 なんか、瞳、怒ってる? 身を乗り出してきた。


 と、タイミングが良いのか悪いのか、そこに店員さんが注文を取りに来たので、瞳は赤面しながらオムライスのトマトソースを、俺はエビピラフを注文した。


 店員さんがいなくなったのを見計らって、瞳はまた身を乗り出してきた。

 ただ、別に怒っているという訳じゃなかった。


「……和也君、すごいじゃない! 七千ポイント超えてるなんてっ!」


「……ああ、そのことか。ごめん、黙っていて申し訳ないけど、俺も『なろう』で小説、書いてたんだ」


「そう、それも『お江戸っ娘 俺が全員守りますっ!』って……私もずっと読んでたのよ!」


「……えっ? マジでっ?」


 驚愕。まさか身近に、俺の作品を読んでいてくれる人がいたなんて……。


「うん、本当。一度、日刊ランキングに載ってたことあったでしょう? それで面白そうだと思って、ずっと読んでたの。そんな人が、私のを見て評価しててくれてたから、何でだろうと考えてて……ふっと、和也君とつながったの!」


 瞳、ちょっと興奮気味だ。


「……だったら、俺も嬉しいよ。でも、七千って、結構微妙なポイントなんだ。今って、書籍化するには三万はいるって言われてるらしいし……」


「……そうなんだ……私にとっては、七千ポイントなんて雲の上の存在だけどな……」


 うん、俺もそう思っていた時期がありました。


「でも、それって運もあるし……君のこの作品なら、もっと上にいける可能性があるよ」


「そ、そうかな……でも、ちょっとこの後の展開に行き詰まってて……」


「始まったばかりなのに、もう行き詰まったの?」


「うん……ストーリー展開は大体考えてるんだけど、キャラが……『タク』のキャラが少し弱いかなって思って」


 割と冷静な判断だ。


「そうかな……うん、まあ、確かに異常状態絶対耐性能力者(アンチバッドステイタスプレイヤー)っていうチートな能力ではあるけど、攻撃に関しては普通だもんな……」


「そう。それでヒロインを強く……猛毒を使えるっていう設定で、パーティーになるんだけど、主役はタクの方にしたいの。『なろう』じゃ、その方がウケがいいかなって思って」


 俺は、彼女の台詞を聞いて、この子は「計算」が出来る作家なんだな、と直感した。

 書きたい小説を好きなように書くだけではなく、対象となる読者が何を求めているのか、どうやったら読んでくれるのか思い悩むタイプ。

 悩みすぎて個性がない作品になりがち、という欠点もあるけど、少なくとも独りよがりな作品にはなりにくい。


 俺も似たようなタイプだと思っているので、共感が持てた。

 ちなみに、書きたい小説を好きなように書いて大ブレイクするのは、真の天才だと思う。


「うーん……逆のパターン、つまり主人公の男の子がむちゃくちゃ攻撃力が強くて、可愛いヒロインがそれをサポートして、援護や回復をしてくれるっていうのは、逆に定番すぎて埋没しそうだけど」


「そうなのよね……だから、タクは異世界転生する前、野球でピッチャーをやってて、それで投擲(とうてき)技術が凄くて、『ユウ』の血がついた短剣を投げて戦うっていうパターンを考えてたんだけど……あまり広がりが考えられなくて……」


「……なるほど……」


 確かに、攻撃が『剣を投げる』だけじゃあ、キャラとして弱い気がする。

 かといって、主人公の『タク』まで毒を操れるようになるのは、それはそれで違うような気がする。


「……私もいろいろ考えたんだけどね……たとえば、タクは甲子園に出ることが期待されていたすごいピッチャーで、カーブとか、シュートとか変化球も投げられるとか……」


「……うーん……」


 それも、なんかいまいち。

 いっそ、自分であろうが他人であろうが、一瞬で異常状態を治せる性質を活かして、金儲けから入った方が良さそうな気がしてきた。

 俺がそのことを告げると、彼女はちょっと不服そうだ。


「……でも、やっぱり冒険させてあげたいから……」


 まあ、そりゃそうだろうな。

 と、ここまで議論したところで、ようやくオムライスとエビピラフが届いた。

 トマトソースのかかったオムライス、赤と黄色、それにオレンジ色のライスのコントラストが見事で、とても美味しそうに見えた。


 けれど、「一口ちょうだい」なんて言えるほどの仲ではない。

 それに、彼女は小説をどうするかで悩んでいて、こっちのそんな気持ちに気付くことはないだろう。


 彼女はスプーンで卵、トマトソース、ライスが全部混ざっている箇所をすくって食べたが、特に食レポはない。


「……なんとか、読んでくれる人に『タクの活躍が見たい』って思うようにできないかな……」


 うん、あんまり味わっていないようだ。


「十分、凄い能力だと思うけどな……特に、コカトリスとか、バジリスクとか、そんな強敵と戦うときには大活躍すると思うよ」


 何気なくそんな言葉を使ったのだが、知っているかな、とちょっと焦った。


「うん、それは分かるんだけど……それでも、回復専門になっちゃうでしょう?」


 コカトリスとかバジリスク、知ってるんだ……。


「でも、そんな危険な相手が、雑魚同然になるんだよ」


「まあ、そうね。逆に手なずけちゃうかも……」


 と、そこまで言ったところで、彼女は大きく目を見開いた。


「……そっか……手なずけちゃえば良いんだ……」


「……手なずける? コカトリスとかバジリスクを?」


「ううん、もうちょっとかわいい生き物にして……ただ、暴れん坊で、ちょっと怒らせただけで周りに毒を撒いたり、石化させたり、麻痺させたりする精霊。能力は優秀だけど、それが危険で、だれも召喚することができなかった……」


「……なるほど、でも、『タク』ならその能力を無効化できるから、マスターになれる」


「そう、そう。そうすれば、タクは世界で唯一の、『異常属性精霊専用』の召喚士として活躍できるわっ!」


「うん、面白そうだ。行く先々で新しい精霊を仲間にしたり、その精霊自体がレベルアップしたり。攻撃面でも大活躍しそうだ!」


「……ただ、そうなると今度はヒロインの影が薄くなるね。彼女にも何か成長の要素とか、考えてあげないと……」


 この時、俺は本当に瞳は小説化になれるかもしれないと思った。

 まるで泉のように、面白く、説得力のある発想が沸き上がってくる……。

 そして、瞳の小説の続きが、早くも気になりだしていた。


「……ところで、このオムライス、すっごく美味しいよ」


 彼女はようやく、笑顔で料理の感想を口にしたのだった。


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