魔法の暴走と誘拐未遂
「「おはようございまーす・・・あ・・・」」
教室の後ろの扉と前の扉で同時に投降してきた影が二つ。
幸いからかうクラスメイトもおらずその二人だけだった。
だが、お互いにお互いが誰か分るともの凄く嫌そうな顔をした。
「やっぱり俺のことがばれてるのか?」
「当たり前でしょう。あんな奴をこっちによこしといてバレないと思うほうがおかしいわね」
「じゃ、自分の方も気がつかれてるのは分ってるんだ」
「それも当たり前。敵のことが分ってなくてお嬢を守れるもんですか」
ロイと愛美はお互いに別々に用意しながら会話する。
「よく言うな。お前昨日姫を危ない目にあわせてたじゃねぇか」
「は?わっけわかんない。いつお嬢を危険な目に合わせたって言うのよ」
「昨日の矢はお前のとこの差し金だろう」
「んなわけないでしょ!勝手な言いがかりつけないでくれる!?昨日の矢はそっちでしょ!?」
「はぁ!?お前こそ変な言いがかりつけんなよな!俺が姫を危ない目になんかあわすかよ!」
「はぁ!?お嬢をいつかは殺す奴がよく言うわね!」
「いつか姫を全く別の世界に連れて行く奴がよくいうな!」
にらみ合う。
何も知らない奴から見れば見つめあっているようにしか見えない。お互いにしか分らない嫌悪の視線でにらみ合っているのだが。暫くの間そうしていたためか、先ほどの言い合いを聞いていない何も知らないクラスメイトがきてしまったのだ。
「え・・・・。愛美とロイ君って・・・・。相思相愛?」
「「絶対ちがう!!てかイヤだ!!」」
「否定する所がアヤシイというかなんでそんなに息ぴったりなの?ますますアヤシ・・・ギブギブ!!やめて!愛美!」
愛美はクラスメイトの首に手を回し、締めていた。軽く。
「何を言い出すのかと思えば・・・。よりにもよってこんなやつに!」
「そうだ!なんで俺がこんなやつに!!!」
クラスメイトが続々と登校してきたため中断。
だが、愛美とロイが付き合っているという噂は流れた。
流れているのを(噂はさらに悪化していた)知った愛美とロイは叫ぶ。
「「だから!違う!あんな奴と付き合うなんて断固拒否する!!」」
と。
まぁ、それはまだ先の話。
「おっはよー!」
「おはよう美咲」
笑顔で愛美が迎えてくれる。うんいつもの光景。
チラリと愛美の奥窓際に視線を向ける。
あれ、明らかに愛美の話してるよね。
「ねぇ、愛美あれ・・・」
「え?別に気にすること無いでしょ」
そうかなぁ?何故か愛美が後でものすごく痛い目というか酷い目に合わされているのが目に見えるようなんだけど・・・。
「一時間目なんだっけ?」
机の中をあさりながら愛美がきいてきた。
「家庭科じゃなかったっけ?」
「家庭科!?やっばい、教科書持って来てない」
「教科書はいらないよ」
まふゆちゃんも参戦。
「マジ?よかったぁ~」
「家庭科セットいるけどね」
まふゆちゃんは笑顔。それとは対照的に愛美の顔からは血の気が引いた。
どうやら持ってきてないみたい。
「美咲・・・。どうしよう」
「知らない」
まふゆちゃんの満面の笑みを見ているとこちらも笑顔になるというものだ。
愛美に笑顔で言ってあげた。というか本当にどうしようもない。私が貸してあげるわけにもいかないし、他のクラスは家庭科を昨日のうちに終わらせてしまっている。
しかも愛美にとっては絶望的なことに先生達は使わないものを持って帰らせることを徹底しているのだ。持って帰るのを忘れた人なんて居るはずも無い。
「ガチでどうしよう!家庭科の先生にだけは叱られたくない~!」
そう。家庭科の先生は私たちの担任よりも怖い。(という噂。私は体験した事は無い)いくら怒られなれているという愛美でも、あの先生にだけは叱られたくないみたい。
そんな捨てられた子犬みたいな目で・・・。
「おーい、愛美!委員会のことで話があるんだが!」
向こうで拓馬が叫ぶ。
「はーい!なにー?」
拓馬のほうへ歩いていった。
「本当にどうするつもりなんだろうね」
「さぁ?」
愛美視点
「なに?拓馬」
委員会の話として学校内でも話せるように委員会は同じにしてある。だから本当に委員会の話という事もあるんだけど、たまに魔法界の話の時があるからいつも体育館裏。
「これ。わすれてただろ」
拓馬からそれを受け取ってみると。
「家庭科セット!」
「は、どうでもいいから」
家庭科セットを掲げようとした私の腕を押さえる。何よ。私にとっては死活問題だったんだから!
「むこうが動いた。多分今日にでもなにか仕掛けてくるぞ」
「そう・・・。今日の何時かまで分る?」
「放課後。こちらにとって都合の悪いことをしてくるだろうな」
その後もう少し話をしてからお嬢たちのところへ戻る。
「よかったよぉー!お母さんが家庭科セット持ってきてくれた!」
「おぉー。良かったねー」
小さく拍手してくれるお嬢。まぁ、私と拓馬が一緒に住んでるなんていえないしね。嘘はついてな・・ついたか、今さっき。
「でも、持ってきてくれたの・・・」
「あ!そうだ!宿題出すの忘れてた!」
やや棒読みでわざとらしく逃げる。さすがお嬢。侮れない。
「あ、佐藤さん。出すの遅いよ。ちゃんと出してもらわないと困る」
「すみませんねー」
今日の宿題チェック係のロイは私に向かってしかめっ面を向ける。
コイツとは永遠に分かり合えないし、絶対に共同で何かするなんて無理!
「佐藤さん出した。っと」
宿題チェックの紙の私の欄に丸をつける。こいつ学校では派手に動けないからって地味な嫌がらせしてくるのよねー。うっとおしいたらありゃしない。
すると、ガララっとおとがして先生が教室に入ってくる。
「全員席につけー」
そして、いつもの授業が始まった。
「次家庭科室に移動だよ」
お嬢に声をかける。
「わかった。あ・・・。ちょっと先行ってて」
「?わかった」
私とまふゆで家庭科室へ。どうしたんだろう?
「あ、家庭科セット忘れた。先行ってて」
「なんで手ぶらで気づかないかな?先行ってるね」
まふゆと別れ教室へ向かう。家庭科セットを忘れたのはわざと。廊下の棚の上においてきた。
(何してるかな?)
窓から中をのぞく。
「これでよしっと」
小さい五角形のものを手に持ちそう言った。何あれ?
(お守り?)
だれかに渡すのかな?ロイにだけは渡さないで欲しいけど。
「喜んでくれるかなぁ?いや、大丈夫だよねきっと」
そううなずいてこちらに向かってきた。やば!
美咲視点
「ん?気のせい?いま愛美が目の前を通ったような・・・?目の錯覚?」
まぁ、どうでもいいか。周りにはクラスメイトはだれもいない。
「やっば!早くいかないと怒られちゃう!」
という心配をよそに家庭科室では男子が騒いでいた。なんで?周りを見渡す。
(あ、先生がまだいないのか)
そりゃあ、男子が騒ぐわ。五月蝿いけど。
五月蝿いと叫ぼうとしたその時。
「五月蝿いわよ。高学年にもなって家庭科室で騒ぐなんて、今騒いでいた者廊下にたってなさい」
クールな物言いは家庭科の先生村上先生だ。
相変わらずなようで、騒がしいのは好きじゃないらしい。四月の時は男子全員が廊下に立たされてたっけ。
「さて、今日はエプロンを作ります。先生の指示通りに作るように。何か分らないことがあれば先生に聞くように」
家庭科の授業が進んでいく。私の頭はエプロンとロイ君に渡すお守り(?)のことでいっぱいだった。
放課後。ロイ君と二人並んで通学路を歩いていた。
まぁ、最近これが普通だからね。女子ににらまれるのは仕方ないこととしてなぜ、男子にまでにらまれなければいけないのか。
「そういえばロイ君。これ」
作ったお守りを渡す。
「?なんですかこれ?」
「お守り(ウソ)だよ。持ってたらいいことあるかもね(ウソ)」
私が作ったお手製の(呪いの)お守りだ!いいこと(ロイ君にとっては途轍もなく良くないこと)が降り注ぐように作ったのだから!(正常に機能するかどうか分らないけれど)
「へぇー。ありがとうございます姫」
大事そうにかばんに入れた。よしっ!これで悪いことが起きるはずだ!
「じゃ、もう別れ道・・・」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「由香里!?」
由香里の悲鳴を聞いて一目散に走り出す。
今思いかえせば絶対に人間が走れるスピードじゃない。
「由香里!」
私を襲った黒ずくめが由香里を襲っていた。
「ちっ!」
強引に由香里を連れ去ろうとする。
させない!
ロイ視点
俺が追いついたときにはもう姫はキレていた。人ってこんなに簡単にキレるものなんだなぁと思った瞬間である。
『私の妹に手をだすな!』
姫の鋭い叱声とともに姿を現す黒い狼。途轍もなくでかい。あんなのに襲い掛かられたらひとたまりも無い。
姫の眼はすでに血のように紅く、その身からは魔力が漏れ出していた。
黒い狼は黒ずくめに襲い掛かった。
「え?うわぁ!!」
黒ずくめは一瞬にして殺られる。食いちぎられて、咀嚼される。うわぁ。
「見ない方がいい!」
姫を背にかばい、見せないようにする。姫は由香里という妹らしき少女を抱え込んで俺の後ろにいた。
ぐっちゃぐっちゃと嫌な音が通学路に響いた。
おかしい。この由香里という少女。魔力が異常に高すぎる。レイラまでもはいかないものの・・・。どういうことだ?
っと、そんなこと考えてる場合じゃない!姫のだした黒い狼は毎秒ごとに大きくなっていっている!完全に魔力が暴走してるな。
「悪く思わないでください!」
魔力の暴走は絶対に止めなくては!俺は姫を抱きしめた。一種の封印。この封印により後の行動がかなりしやすくなるはずだ。
途端に、姫の体から力が抜ける。黒い狼も霧のように消え去った。
危なかった。これで俺が近くにいなけりゃ、どうなっていたことか。かんがえるだに恐ろしい。
「ん・・・」
気がついた姫は瞬時に飛び起きると由香里とやらのほうへ走っていった。
「由香里!大丈夫?怪我とか・・・」
姫が由香里に触れようとした時。
パシンと乾いた音が鳴った。由香里が、姫の伸びてきた手を叩き落したのだ。
「だれ・・・?あれは美咲ねぇなんかじゃない!」
恐怖ににた感情を含む声。畏怖の念が込められている。
「・・・・・」
ショックで姫が固まる。その間に由香里は走りさり、家の中へと入っていった。
暫くの間。姫はずっとその場にいた。日が暮れ落ち、俺が声をかけるまで。一ミリも動くことなく。