書庫の掃除と闇討ち
「ケホッケホッもーなにこれぇー!ちゃんと掃除しとけばよかったなぁ」
ほうきを天井に向けて、ザッザッと天井に着いた砂や埃を落とす。
うわぁー。きったねー。
今居る場所は書庫。昨日入ってあまりにも汚すぎることが判明したために掃除中なのです。
本棚の上も埃だらけ、あまり読まれていない本も埃だらけ。絶対今日中に終わらないよね。
「一人でできるかなぁ」
あ、なぜ一人かといいますと、由香里は友達とキャンプで朝早くに出て行ったし、雄介にぃも昨日勉強会で出て行った。悠は幼稚園の行事で居ないし。利緒ねぇは大学とバイトで夜まで帰ってこない。飛鳥さんと弥生さんは今週はお休み。
てことで私は今この無駄にでかい家で一人きりなの。
一人だしひまだから、汚すぎる書庫を綺麗にしようと思ったんだけどなぁ。
一人じゃ無理だ。
まぁ出来るとこまでやらないとね。
バケツに水を溜めて雑巾と一緒に持ってくる。
雑巾を水につけて、絞って、床をダーッと拭く!
本棚の上や本に当たらないように本棚の中も拭く。痛んでいる本は取っておいて。
本についている埃はぬれていないタオルで拭いて。
「いや、いっそ本を全部出すか」
思い立ったが吉日!
傷んでいる本を選り分けて、本を全て外に出す。すぐに二階の廊下は本で埋まった。
本棚の中をきっちり拭いて・・・。
ピンポーン
む。こんな時に来客?
「はいはーい。今出ますよーっと」
本を踏まないように飛び上がりながら玄関まで向かう。
「はいはい。だれでしょうかっと。あれ?愛美?」
「こんにちはって、汚!何してたの!?」
「書庫の掃除。何か用?」
「あの、汚い書庫を掃除してたの?だれと?」
「一人で」
「ひとりでぇ!?」
愛美の驚きよう。笑える。
必死に笑いをこらえて愛美に向き直る。
「で、何か用?」
「一人でしてたってことは、昼食べた?」
「あ」
そういえば、お腹がすくなぁ。
「今何時?」
「一時。書庫の掃除手伝うから、昼食べてきたら?」
「了解。上に上がってて。本踏んじゃダメだからね」
愛美に上に上がってもらってから、キッチンへ。
自分でご飯を作るのは家庭科の授業以外した事無いんだよね。だから簡単なもので済ませようかな・・・っと、お?
なんだ、利緒ねぇ昼ごはん用意してくれてるじゃん。冷めた焼きそばは嫌いなんだよっと。電子レンジで温めて食べる。
五分で食べ終わる。我ながら早い。
「きゃーーーーー!」
上で何かあった!?
階段を速攻で駆け上がる。書庫に向かって廊下の本を踏まないように蹴らないようにそれでいて全速力で駆け抜ける。その途中に、
「愛美!?」
「美咲・・・。タスケテ・・・」
本の下敷きになった愛美が。あちゃー。
「はいはい」
本を一冊ずつのけていく。
「はぁ、助かった」
本を全てのけ終え、晴れて自由の身になった愛美が言った。
「もう、気をつけてよね。本が傷んだらどうするの」
「私より本の心配ですか」
「当たり前じゃない」
「はぁ」
愛美とふざけあいながら書庫の掃除を進めていく。
「おわったぁー!」
終わったのは夕方。書庫の小さい窓からは大分前に茜色の光が入り込み、過ぎ去っていた。
ボーンボーンと書庫の時計がなった。 六回・・・・・。
「「あーーーーーーーー!!」」
やばい!書庫の掃除で時間を忘れてた!
ただいまPM6:00愛美の門限。今から帰ろうとすると愛美が愛美の家に着くのは六時半。
「愛美!早く帰らなきゃ!」
「うん。あ、その前に連絡しないと。電話借りるね」
「わかった」
愛美の荷物と自分のコートを持って玄関へ。
「・・・・・。で・・・・」
遠くで愛美が電話しているのを聞きながら愛美がこちらに来るのを待つ。
それにしても書庫は埃だらけだったな。これからはもう少しマメにそうじしないとなぁ。
「ごめん。おまたせ。あれ?美咲も出かけるの?」
「送るよ」
「だから、いいって。黒ずくめに・・・」
「愛美が襲われないとは限らないでしょ。私が居てもあまり意味は無いかも知れないけれど・・・」
「いいって。それに利緒ねぇが帰ってきたとき美咲が居なかったらどうするのよ」
「それは・・・」
全く考えておりませんでした。
「でしょ。じゃ、また月曜ね」
「月曜って、明日は来ないのね」
「うん。明日はちょっと用事があってね。バイバイ!」
くらい道を走っていく愛美の背中を見送った。
愛美は美咲の家をでて曲がり角を曲がり暫く行くと立ち止まった。
「で、何か用かしら?」
何処に言うでもなく呟くように言った。
もちろん返事は無い。
「そこに居るのは分ってるのよ。ライ」
振り向く。
「ばれたか」
電柱の後ろから人が出てくる。
「あなたほどの魔力の持ち主がばれないとでも思って?」
「どうにか隠し通したつもりなんだが」
「私をなめないで頂戴」
愛美とライ二人の間には殺気が立ち込めている。
「ここで暴れるつもりか?」
「こちらの台詞ね」
「姫に手を出すつもりか」
「お嬢に手を出さないでほしいわ」
一触即発の空気が漂う。
「ふん。生意気なことを。今すぐに殺してくれるわ」
「黙りなさい。殺されるのがあなたじゃなければいいわね」
二人は同時に小さく呪文を唱えお互いに襲い掛かった。
ガチャというドアの開く音がした。エルが帰ってきたんだろう。
だが、いつものような「ただいまー!」という声はなく代わりにドサッという誰かが倒れる音が。嫌な予感がした俺は、玄関へ向かう。
「エル!?どうしたその傷!」
「ちょっとね・・・。奴らに出くわしちゃって・・・。お嬢の家の近くだったから・・・。手負いにはできたよ。あいつは暫く動けないはずよ」
「あいつは・・・。ロイか?」
「また別の奴。でもお嬢のことを姫って呼んでたから間違いは無い」
ロイ以外にも来てるのか。厄介だな。
「ルカはまだ来られそうも無いのか?」
エルの傷の手当をしながら聞く。
「えぇ、まだむこうでの仕事が残っているみたい」
「そうか・・・」
ルカがいるだけでも心強いんだがな。
「とにかく。敵は私たちが思っているよりも規模は小さい。けれど一人一人の力が強い。相手が一人だからと言ってなめてかかるとこちらが酷い目にあうわ」
「そうか」
短く言って手当てに集中する。
はっきり言って、俺は怖い。こちらにきている中では俺が一番足手まといだ。俺がルカやエルたちの力になれるとは思えない。
特にルカは俺達のなかで一番強い。なのに、ロイに負けた。状況が状況だったからなのだが、それでもまけるとは思っていなかった。
「はぁ」
「なによ。ため息なんかついて」
もうほぼ回復したエルが嫌そうな声をだして言った。
「うるせぇな。俺がお前達のちからになれるのかと思ってな」
「言霊使いとしては優秀なんでしょ。大丈夫よ」
「だといいんだが」
月曜日。
「おはよー!」
「おはよう。村上さん」
「おはよっ!美咲」
教室で迎えてくれたのは珍しく二人。いつもは愛美だけ。
「おはよ。ロイ君。愛美」
にっこり笑って返す。
「美咲。借りてた本返すね。面白かったよ」
「でしょ?二巻あるけど読む?」
「うん」
「おはよー」
「おはよう。拓馬」
「おはよう!槇葉君!ロイ君!」
(あ、五月蝿い奴がきた)
今ロイ君と拓馬に挨拶したのは、隣の隣のクラスで拓馬とロイ君に何も関係が無いのにもかかわらず「私たちが出会ったのは運命よ!」などと、馬鹿なことを言った阿呆で、私と張り合おうとし、金曜日に勝手に遊びに来ていた姫崎さんだ。
という風に心の中では馬鹿にし罵倒してるんだよ。口には出さないから姫崎さんはさらに馬鹿なことをしてるけれど。
「姫崎さん。いい加減勝手に一組に遊びにくるの止めてくれない?」
「五月蝿いわね。この馬鹿。孤児の癖に」
「ちょっ、姫崎さん!」
「黙れ、このお嬢様気取りの常に夢心地の馬鹿。死ね」
あ、つい・・。
周りがシーンとなる。いつもは私はこんなこと言わないもんね・・・。
「誰が!」
「姫崎さん。三組に帰ってくれる?」
愛美が睨みつける。私が、孤児といわれるのが一番むかつくのを知っているからだろう。
確かにちょっと親が居るだけで、私を孤児として下に見る奴が一番むかつく。特に姫崎のような奴は。
「嫌よ!」
姫崎さんはいつものように拓馬にまとわり着こうとする。
その手を払いのけ、拓馬は言った。
「帰れ。迷惑だ」
その一言が決め手となり、姫崎さんは「覚えてらっしゃい!」と漫画とかの雑魚の台詞を吐いて三組に帰っていった。二度とくるな!この馬鹿!
あ、でも毎日のように一組に来るってことは暇なのか。じゃ、これから暇崎さんって読んでやろうか。心の中で。
「美咲?」
「え?あ、ごめんぼーっとしてた?」
「ううん。あれ言われたから。大丈夫かなって」
「美咲ちゃん!」
遠くから声がかかる。あ、まふゆちゃん。
まふゆちゃんは五年からの友達で、かなり優しくしてもらってる。私が孤児といわれるのが一番傷ついてむかつくのを知っている数少ない人物。
「美咲ちゃん。大丈夫なの?姫崎さんあんなこと言う必要ないのにね!」
「大丈夫だよ」
笑って返す。本当に大丈夫だしね。まふゆちゃんには幼稚園の時の大事件の話もしてあるから心配してくれてるんだと思う。
幼稚園の時の大事件というのは、幼稚園の時も暇崎さんのような奴がいて、参観日に誰も来ない私を孤児だ馬鹿だとののしって、私に骨を折られたという事件。
あの時は本当にやりすぎたなぁ。
「おーい、チャイム鳴ったぞー」
先生が廊下を歩いて各クラスに言っていく。
朝読書の時間か。おととい書庫の整理して見つけた本持ってきたから早く読み終わらないとな。