夜の秘密会議
「貴女は、大魔女レイラの孫娘なのです」
は?
「いや、魔女ってなによ!?魔女なんてこの世に居るわけ無いでしょ?」
実際、そんなもの物語の中にしか居ない。
「嘘じゃありませんよ!」
蒼い碧眼に見つめられる。じっと、見つめ返す。
私は、人の目を見れば大体の嘘は見抜ける。はぁ、残念ながら嘘はついてない。
この話については。
「仕方ないから信じてあげるけど、そのレイラの孫娘だからなんなの?孫娘だから、その力がそのまま遺伝してるなんて事言わないでしょうね」
「はい、そうです」
「な」
「正確には、大魔女レイラ様よりも強い魔力をおもちなのです」
「はぁ」
盛大なため息をつく。最近勘も良く当たる。
「姫の魔力は、世の理を無視してでも願いをかなえることができるほどの魔力なんです」
一呼吸おいて、また話す。
「ですが、あいつらはその姫の魔力を抽出し、何かに使おうとしているんです」
遠くを見て言う。ふーん。
「あ、そ。じゃ、私愛美と約束してるから早く帰らなきゃ。じゃーねー!」
走って、家まで帰る。
「お帰り。美咲ねぇ」
玄関で出迎えてくれたのは由香里。今日は悠は居ないのかな?
「ただいま。後で愛美来ると思うから、お菓子持ってくよ」
「分った。愛美ねぇ来たら美咲ねぇの部屋に連れて行けばいい?」
「うん。お願い」
「了解」
階段を登る。ギシッギシッと階段が軋む。私の部屋は二階の一番端。一番端といっても、北側だから、いつも暗い。真衣ねぇ達がうらやましいよ。
ランドセルをフックにかけて宿題とミニテーブルを引っ張り出す。
「うー寒い」
急いでヒーターをつけて部屋を暖める。階段を下りて、お菓子を取りに行く。
茶色のお盆に載せて、お菓子と飲み物を運んでいる途中。玄関を通りかかった時。
ピンポーン
「はーい」
私の横をすり抜けて由香里が出る。
「多分愛美だから部屋につれてきて」
お盆をひっくり返さないように、飲み物の水面を見つめながら言う。
「はいはーい」
ゆっくり階段を上がる。こぼさないようにそーっと。
「よっ」
「うわっ」
後ろから声をかけられて危うくお盆を落としそうになる。
「もう、やめてよ愛美!」
「ごめんごめん。あまりにも必死だったからさ」
愛美はカラカラと笑う。もう、笑い事じゃないでしょ。
「とりあえず部屋に行ってて」
「了解!それ私が持っていこうか?」
「いいよ」
愛美と部屋に戻り、まずはおかし。
「あ、抹茶羊羹!」
「美味しいよね」
二人で、抹茶羊羹をぱくつく。いつ食べてもこれは美味しいねー。
「ねぇ、美咲。下校中にロイ君にへんなこと言われた?ほら、えーっと魔女の孫だとか何とか」
「え?いわれたけど・・・」
「ふーん」
愛美は俯いてブツクサ何か言い始める。ん?なに言ってるの?なにが「気づき始めた?幾らなんでも」なの?
近づいてもっとよく聞こうとすると、愛美はブツクサ言うのをやめてしまった。残念。
「ま、気にする事無いんじゃない?というか、嘘ついてた?」
「ううん。私が魔女の孫って言う話についてはしてなかった」
「なら、ロイ君はウソはついてないってことか」
「私の勘なんて当てにならないでしょ」
「なるなる!美咲が嘘をついてるって言ってはずしたこと無いでしょ」
「一回だけあるよ」
そう、昔に一度だけ見抜けなかった。見抜けなかったから、私は大親友を失った。
「あ・・・。そっか。でもあれは瑠架がウソつくの上手かったからだし、美咲の所為じゃないでしょ?」
「うん。ま、宿題をさっさと終わらせちゃおう」
私のクラスの先生は怒るとめちゃくちゃ怖い。私は一度だけ怒られたことがある。思い出すだけで恐ろしいぃ。
愛美は怒られる常習犯で、先生に怒られなれている。なるべくなら怒られたくないみたいだけどね。
「ほら、宿題出して」
「はーい」
愛美が怒られているのは宿題をしょっちゅう忘れるからであり、最近はもう先生も黙認してきている。まぁ、忘れちゃいけない宿題を忘れて思いっきり怒られてたけど。
「ふぅ、思ったより早く終わったね」
時計を見るとまだ十五分しか経っていない。愛美は宿題は忘れるが普通に優等生だ。
よく発表もするし、成績はかなりいい。
「何する?じゃあ・・」
そんなこんなで遊んでいると、すぐに五時半になってしまった。
「うわっ!もう五時半!?やばっ!」
「あ、送るよ。そと暗いし」
「いいよ。それに美咲は黒ずくめの男達に狙われたんでしょ?こんな真っ暗な時間に外歩いていたら襲ってくださいって言ってるようなものでしょ?」
うっ。それもそうなんだけど、その話を持ち上げられると逆に愛美が心配なんですけど。
「ま、私は大丈夫だから。じゃ、また月曜日!」
あ、そういえば今日金曜日だっけ。なら・・・。
愛美を玄関まで見送る。
「美咲」
「ひあ!」
この声は!
「雄介にぃ!今日から勉強会という名目で友達を遊ぶためお泊まり会じゃなかったっけ?」
「ながい。普通に勉強会でいい」
「雄介にぃ受験生だもんね。そんな名目じゃないと外に出してもらえないよね」
「なんかむかつくが、姉貴に伝言よろしく。言うの忘れてたんだよ」
「了解。『勉強会』ね」
私がそういうと明らかに顔に怒りマークを作りつつ笑顔で
「あぁ」
と言った。いつも私をバカにするからよ!心の中でほくそ笑む。
顔は満面の笑み。
「じゃ、行って来るわ」
「いってらっしゃーい」
いつの間にやらスニーカーをはいていた雄介にぃを見送る。
「さ、何しよう。そうだ久しぶりに書庫に行こうかな」
二階に上がると廊下の突き当りまで行った。私の部屋は一番端だけど隣に書庫がある。
この書庫がまた、無駄にでかくていろんな本がおいてある。私が行くのはその中の児童文庫の場所だけ。その場所はかなりガラガラ。だけど最近の本とかもちゃんと揃えられていて、いつの間にかシリーズの最新刊がおいてあったりする。しかも、発売日に。
多分、弥生さんとか利緒ねぇが足してるんだろうなぁ。
「えーっと、あ、また足されてる」
しかも、今日発売の私の大好きなシリーズの最新刊!読むしか無いでしょ!
ボーンボーンボーン
「え?あ!」
書庫(というか図書館)の時計が七時を知らせる。そんなに読みふけっていたの!?
私はゆっくり立ち上がる。ずっと座ってたからお尻が痛いし、急に立ち上がると周りの埃がたってしまう。
うわぁ、綺麗なだ円の形に埃が無い。その近くに手形が。
「下に下りないと」
階段を駆け下がる。
「美咲!何処にいたの?」
「美咲ねぇ!何処にいたの?」
「美咲ちゃん!何処にいたの!?」
「美咲ねぇ!部屋に居なかったけど・・・」
「美咲!何処にいたのよ」
全員に詰め寄られる。
ちゃんと家の中に居ました。はい。私が書庫に居るなんて珍しいもんね。本だって持ち出して読んだし。
「書庫に居たの。久しぶりに行ってみたら新しい本が入ってたからさ。読みふけっちゃって」
あはは。みんなの目が笑ってない。皆呆れてるよ。あはははは~。
「まぁ、席についてください。ちょうどご飯ができたところですし」
弥生さんがキッチンの方をチラリと見て言った。
飛鳥さんがご飯を運んでくる。この匂いは・・・。グラタン!?
超特急でいすに座る。
「グラタンは美咲の大好物だもんね」
横の真衣ねぇが笑いながら言う。
そう!私はグラタンが大の大好物!だけど、ご飯で出てくるの回数は少なくて・・・。
「はい、熱いですから気をつけてくださいね」
飛鳥さんが私の前にグラタンをおく。ふわぁ~。いいにおい。おいしそう~!
「いただきます!!」
あちっ!確かに熱い。
ハフハフいいながらグラタンを食べる。おいしい!!
「あれ?雄介は?」
「あ、そうだ。雄介にぃ勉強会で出かけたよ」
「そう、遊びに行ったのね」
はい、あっさり見抜かれました。そりゃあ、いつもリビングにおいてるPSPがなくなってたらそう思うよね・・・。
「うん」
元気よくうなずく。
「わかったわ」
グラタンを黙々と食べる。
「美咲ちゃん。おかわりいる?」
うなずく。皆はグラタン一つでもうお腹いっぱいなようで「ごちそうさまー」といって席を次々立っていく。
グラタン美味しいのに。
二つ目をペロリと平らげ私は「ごちそうさまでした!」と言って部屋へ。
といっても、ほんとにやること無いんだけど。
それにしても、あの書庫の汚さ。思い出すとそうじしたくなるから、思い出すのは止めとくけど。
おとなしくゲームをしておく。
「ほんとにひまだなぁ」
ゲームにも飽きてすぐに放置する。書庫にもう一度行って本を読みふけっていた。
「ほんとに、何してくれんのよ」
脚を組んで、腕を組み、怒った声色で黒ずくめの男達を睨みつける。
「私は保護しろって言ったの。怪しい影があるからって。誘拐して濃いとは一言も言ってないし、誘拐の「ゆ」の字もでてないわよ」
さらに鋭く睨みつける。
「さらに、相手に有利な立場まで作ってあげちゃって・・・。本当におっせっかいで、無能ね。呆れるわ」
窓からもれる月明かりに照らされ怒っている人物が浮き上がる。
愛美だった。近くには拓馬も居る。
「いくら、リオナがいなくたってちゃんとしてくれると思ったのに・・・。残念ね。あんたたちはもうかえりなさい」
パチンと指を鳴らす黒ずくめの男達は一瞬にして消え去った。
「リオナは抜け出せなかったと。ルカはうら工作中。イアル。ロイの動きは?」
拓馬に聞いた。
「特に目立った動きは無いな。今日の帰りにお嬢と会話したくらいだな。どうするんだ?エル」
拓馬は愛美に聞く。
二人とも別の名前で呼びあっている。もしかしたらこちらが本名なのかも知れないが。
「どうするも何も、ロイをお嬢から引き剥がす。そのためなら私は悪役にだってなってやるし、一度魔法界に戻ったっていいわ」
「ま、魔法界に戻るようなことは俺がやってやるよ。お嬢はエルをとても信用してるからな。よほどの事が無い限り、お嬢はエルをちゃんと味方と思ってくれるさ」
「そうかしら?最近私の地位が危ういし、あの由香里ちゃんも怪しいしね・・・」
「由香里が?」
眉をひそめる。
「うん。魔力のオーラそれも黒」
「そうか・・・。確かに怪しいな。身内に居られると困る」
「だからこそ、リオナがいるんでしょ」
「だな」
夜の秘密会議はまだまだ続く。
「おい、事は順調にはこんでいるか?」
「いや、こっちにも魔女達はいるようでな。かなり厄介だ」
「多分、佐藤さんと槇葉くんだろう」
「いや、こっちに居るのは三人だ」
「一人足りない・・・か」
「元々は四人だしな」
「四人目は、あいつだな。確か『瑠架』とかいったか」
「自分の手で殺しといて「確か」はないわー」
「五月蝿い。さっさと仕事しろ。こっちは二人なんだからな」
「ふたりやから、ロイと俺がきたんやろ?」
「そうだな。頼りにしている、ライ」
「こっちも頼りにしてんで、ロイ」
不穏な影が美咲を襲う。