事の発端
こんにちは!いきなりですが、自己紹介。村上美咲でっす!
好きな教科は音楽。烏山小学校にかよう小学六年生!
という、いたって普通の女の子のはずなんですよ?
はぁ~。
「まてー!!」
うしろから男のひとの声が聞こえる。
マジで、マジでさ、
どうしてこうなった!?
「まてと言われて待つ馬鹿がいるか!」
私が置かれている状況といえば。
下校中に黒ずくめの男達に追いかけられているのです。
思い出してみよう。私は、学校が終わり通学路を歩いていましたね?
その通学路が曲者で、大通りなんだけど、全ての家に背を向けられてる道なんだよね。んでもって、細い横道が大量にあるんだ。
まぁ、その横道から黒ずくめの奴らが出てきて、こういうことになった。と。
「全然現状把握できてねぇ!」
思わず叫ぶ。
今は、地の利は我にあり!的な感じで裏道つかって逃げ回ってるんだけど、黒ずくめの男達と私の間はつかず離れずの全く変わらないまま・・・。
「いきどまりぃ!?」
まずい!この私ともあろう者が!
後ろを振り向くとジリジリと黒ずくめが。
「うー」
まだ、やったことないけどなぁ。できるかなぁ?ランドセルおろしとこう。教科書たちより自分の命!
チラリと通せんぼしている塀を見る。すこし高い。いけるか?いや、やるしかない!
私は、黒ずくめのほうに一歩踏み出す。黒ずくめはビクリと一歩下がってくれた。ラッキー!そこからくるりと踵を返し、塀に向かって走り出す。
「てやぁ!」
地面を蹴って、最大限跳ぶ。こう見えても体育は万年5。塀に片手をついて、反対側へ。反対側は公園(空き地?)なんだけど・・・。
「マジかよ」
黒ずくめが囲んでいた。
「おとなしくきてもらうぞ」
一番でかい奴が私に近づく。
「いやっ」
反対側も黒ずくめだらけのはずだ。どうすれば・・・。
悩んでるうちに片手を掴まれる。
「おっらぁ!!」
すると、黒ずくめを蹴り飛ばす影。え?え?え?
「姫に手ぇ出してんじゃねぇ!」
金髪で、白いマントっぽいもの(ローブって言うのかな?)を着ている。声からして男の子だし、髪も短い。
「貴様・・・」
「死にたくなければ下がれ!!」
男の子は、黒ずくめに詰め寄る。
黒ずくめはたじろいで、下がる。
「いや、こいつは一人だ!やっちまえ!」
一番後ろの男が叫ぶ。おぉ!と他の黒ずくめが勢いづく。
「へぇ、死にたいんだな」
何歩か下がってきて、私に耳打ちする。
「ちょっと動かないでね」
へ?あ・・・。
意識が薄れていく。なんかされた?
男の子と黒ずくめが何かやっている音を聞きながら私は眠りこけた。
「おーい」
プニプニと頬をつつかれる。うーん。
「あ・・・。あ!」
目の前に居たのは、あの金髪の男の子。目が蒼くて美少年だ。
「あ、助けてくれてありがとう。私は村上美咲」
一応自己紹介はしておかないとね。助けてもらったんだし。
「知ってる。俺はロイ。詳しい事情は明日はなさせてもらうよ。とりあえず家まで送ろうか?」
「え?すぐ近くだからいいよ。ってあぁ!!」
周りを見渡してやっと気づいた。もう夕陽が赤い!だいぶ遅いじゃん!
「飛鳥さん心配しちゃう!!早く帰らないと!」
ランドセルを背負いなおす・・・って、あれ?ランドセルどこだ?
「どうしたの?」
「ランドセルが無い」
オロオロしながら答える。
「これのこと?塀の向こう側に落ちてたよ」
私の赤いランドセルを渡してくれる。
「ありがとう!これで帰れる。早く帰らないと!!」
ランドセルを背負いなおし、立ち上がる。
「じゃ!ありがとうね!」
「またあしたー」
のんびり返される。
ん?また明日?てか、さっきも知ってるって・・・。
「考えてる暇など無い!」
全力疾走で家まで走る。
「ただいまー」
住宅街の一番奥。周りと違い和風だが途轍もなくでかい家の扉を開けて叫ぶ。
「おかえりなさい!おそかったわねー。心配したのよ!」
一番最初に飛んできたのはやっぱり飛鳥さん。来たというより待ち伏せしてた感じかなぁ。
「おかえりー。美咲ねぇ」
「ただいま。由香里」
「おかえりー!」
「おっと、悠。人に突進するなって何回言えばわかってくれる?」
義妹の由香里と義弟の悠に返事を返す。
「お帰り美咲。今日は随分遅かったのね」
「あ、真衣ねぇ」
義姉の真衣ねぇにも返事を返す。
「とりあえず、ご飯できてますから。手洗ってきてください」
「わかった」
私は元気よく返事をして部屋へ。
ランドセルをフックにかけて、宿題を机のうえにおいて、手洗い場へ。
手を洗って、うがいして、リビングへ。
リビングでは兄弟姉妹たちが、仲良く夕食を食べている。
「美咲。早く座りなさい」
「美咲。遅かったな」
声をかけてきたのは、この家の兄弟姉妹の中では最年長の義姉利緒ねぇと長男の雄介にぃ二人ともちゃっかり食べ終わってる。
「ちょっと、厄介なことに巻き込まれちゃって」
あ、そういえばもう気づいてるよね?さっきから兄弟姉妹に『義』がついているの。
そう、私はこの家の本当の子じゃないんだよね。というかみんな別々。ここは孤児院?みたいなところなんだよね。
あ、孤児院とは言ったけど、利緒ねぇは別。利緒ねぇは、ここ村上家の現当主。前当主の利緒ねぇの祖父母は私を拾ってから、一週間の間に亡くなった。
「厄介なことって?」
「なんか、帰り道に黒ずくめの男たちに追いかけられてさ。逃げ回ってたら、碧眼の男の子に助けられたんだ」
「碧眼の男の子?」
「うん。蒼い目をしてたよ?」
え?蒼い目って碧眼って言うよね?
「そんな子このあたりにいたかなぁ?」
「最近引っ越してきたんじゃない?」
この時私はあまり気にしていなかった。あの男の子のことを。
翌日。
「おはよー」
「あ、美咲。おはよー」
「おはよ。愛美」
幼馴染の愛美に挨拶する。
「おはよう。美咲」
「あ、おはよう。拓馬」
幼馴染の拓馬。
「そうえばさ、美咲。知ってる?今日転校生が来るんだって。どんな子かな?」
「男の子?」
「うん。そうだよ」
すこし嫌な予感がした。もしかしてまた明日って言うのは・・・。
ガララ
「席につけー」
先生が教室に入ってきて、皆自分の席に戻る。私も自分の席へ。
「今日は転校生を紹介する。入ってきていいぞ」
また、扉が開けられて少年が入ってくる。頬杖をついて、入ってくるのを見ていたら・・・。予感的中。
「ロイ・マスラントです。日本語は一応できますので、みなさんよろしくお願いします」
昨日の男の子。今日はローブみたいなものは着ていなかったが。見間違うことの無い綺麗な金髪が日の光で輝いている。蒼い目が私をみた。小さく手を振られる。一応振り返す。苦笑いするしか無いよ~。あとで愛美たちに問答されるに決まってる。
予想通り次の休み時間。
「ちょっと、美咲~。説明してもらおうじゃない!」
愛美率いる私に問答する側と、ロイ君に質問を投げかける側。二手に別れ、愛美側に問答されている。
「いや、事情を説明させて!てか、私もあの子のこと名前以外知らないし」
「じゃあなんで、手を振られてたのよ」
「昨日会ったからであって、別に仲がいいとかそういうんじゃない」
昨日あった出来事を愛美たちに話す。
「あ、そうだ。村上ー」
話し終えると同時に先生に呼ばれる。
「はい」
「マスラントに学校案内してやれ」
「はい」
気が進まないが先生に言われたのだ。仕方が無いだろう。
ロイ君は女子に取り巻かれていた。まぁ当たり前だろうね。金髪だし、私から見てもカッコイイ。
「いけ好かない野朗だ」
横で拓馬が言う。
「何処となくキザだよね。あーいうの私も好かないな」
そういって拓馬の横をすり抜けて女子の輪を掻き分けて、ロイくんのもとへ。
「ロイ君。学校案内するよ」
「あ・・」
「学校案内なら私がするわよ!」
ロイくんが何か言う前に姫崎さんがさえぎる。
この人、何かと私と張り合おうとするんだよね。ライバルだとかギャーギャー騒いでるけど、私はそんなこと微塵も思っちゃいない。
「別にそれでもいいんだけど、姫崎さんに任せて、後で起こられんのいやだし」
「なぜ、誰に怒られるの?」
「先生にロイ君を案内してやれって言われたの」
ちなみに、姫崎さんは張り合おうとしてはいるのだが私の方が圧倒的に勝っている。
いや、ナルシとかじゃなくて単なる事実。
実質、姫崎さんが五十点取るテストを私は優々と百点取るし、私が九十点だとあの人は四十点だ。百人一首だって・・・。数え上げたらきりが無い。
「じゃ、ロイ君。次の休み時間案内するね」
そっけなく言って自分の席に戻る。もう休み時間が終わる時間だ。
そして、次の休み時間。
「ここが本館。図工室とかの特別教室は全部ここ。一階のおくが図工室」
あちらこちらまわり案内する。
「で、ここが体育館」
最後に体育館までつれていく。我ながら淡々とした案内だ。ロイ君はただ黙って着いてきている。
「で、もう全部まわったよ?」
後ろを振り向く。ロイ君はただ黙って私を見ていた。
そして、呟いた。
「やっぱりそうだよな・・・」
「やっぱりって?」
「ここでは話せない。人が多すぎますからね」
右手で後ろを指差す。目をやるとササッと隠れる陰が三つ。
姫崎さんとその取り巻きだ。取り巻きは頭がいい。クラスで一番頭がいい人も無理矢理取り巻きをやらされていたはず。
「よければ、一緒に帰らない?家の方向同じだし」
さわやかな笑みを浮かべて言う。見るからに上っ面だ。
「別にいいけど?」
断る理由も無いしね。こいつとは仲良くなっちゃいけない気がするんだよね・・・。
教室の戻ると、愛美に速攻で話しかけられた。
「どうだった?」
「どうだったもなにも、ただ案内しただけでしょ?」
「いや、ロイ君がかっこよかったとか、そーゆー感想は無いわけ?」
「かっこいいんじゃない?」
「はぁ、美咲。もっと周りの男子に興味もったら?男子人気一位なんだからさ」
「男子人気一位?私が?あり得ないあり得ない」
そんなことがあるのなら、もう少しわたしの言うことをきいてくれてもいいんじゃないかなぁ
「はぁ~。何いっても意味ないわね。あ、そうだ放課後美咲の家いっていい?」
「別にいいよ」
愛美と約束をしてから、自分の席へ。さて、午後の授業はなんだったっけ?
あっというまに放課後。
「村上さん。一緒にかえろう」
「いいよ」
ロイくんにいわれ、一緒に帰る。
「昨日は助けてくれありがとう」
下校中、私はそう切り出した。
「いえ、それが当たり前ですから」
「昨日、『明日詳しいことは話す』っていってたけど?」
一番気になってた。詳しいことを知れるなら知っていたほうがいいに決まってる。
「じゃあ、これから言うことを決して驚かず、信じてください」
私はコクリと頷く。
「村上さん。いえ、姫。あなたは大魔女レイラの孫娘なのです」
は?
これが、私に降りかかる厄災の発端。これから私の人生どうなるのー?!