秘密
連絡の取れなくなっていた友人に街中で出会い、友人宅へ誘われた時の話である。
友人宅に到着してからまず初めに、ここへ来たこと、そして、部屋の中にたとえ何があったとしても他言はしないよう、念書にサイン・押印することを求められた。元々友人は秘密を好む性格であったが、しばらく会わない間にますますそれが酷くなったのか、と驚きながらも私は念書にサインと拇印を済ませ、室内へ入ることを許された。
室内は、異様な光景を呈していた。玄関付近の床と壁、天井に至るまで、真っ黒な紙のようなものが隙間なく貼りつけてあり、友人が扉を閉めた瞬間、室内の存在は闇と同化し、姿を消した。
友人に手を引かれて奥へと進み、やがて、床の感覚が紙から布へと変わった。絨毯が敷かれてあるらしいその部屋の床には粘質の感じられる液体が浸み込んでおり、また、部屋全体に酷い悪臭が充満していて、一歩進むごとに何かを踏み、蹴飛ばした。
ふと友人が立ち止まり、懐中電灯で辺りを照らし、そうして、私は目にしてしまった。
私が覚えているのはそこまでだ。腕を掴む友人を突き飛ばしてアパートから逃げ、見知らぬ土地を駆け巡り、友人が追って来ていないことを確認し、道路の真ん中にへたり込んだ。靴は脱げ、衣類や身には赤黒い液体が付着していた。
その後、友人には会っていないし会いたいとも思わないが、秘密を好み、また、どんなことがあっても秘密を守る友人が、いつか私に会いに来るのではないかと思うと、今日も安眠できそうにない。