夢
いつからか、夢で見たことが現実に再現されるようになっていた。
財布を拾い、中身を賭博に投じた結果、大儲けする夢。縁遠かった友人と街で偶然再開、意気投合し、歓楽街へと赴く夢。これらのように、日常生活中で偶然起こり得るような些細なものから、普段私を理由なく苛める嫌な上司がふと空を見上げた瞬間に多数の隕石が全て直撃し死亡するといった非現実的なものまで、私の夢は多岐にわたった。
夢を見るだけで多くの望みが叶うことを知ってしまった私はやがて夢に依存するようになり、仕事も辞め、睡眠薬を過剰に摂取し、眠るだけの生活を送るようになっていった。
そんなある日、寝床に入ると身体の異常に気が付いた。いくら薬を飲もうが打とうが、全く眠れなくなってしまったのだ。その症状はどれほど強いものを用いたところで全く効かず、結果、夢も見られず鬱積した毎日をただ漠然と過ごすだけになってしまった私は、そのうち別の方法を取るようになった。
要は、意識が無くなれば良いのだ。自分で考えることを止め、夢に全てを委ねれば良い。目覚めれば、そこは私の望んだ世界で、眠れず不安に襲われることも無く、何もせずとも豪遊できて、嫌なことなど何も無いのだ。私の世界は夢にある。この前は成功した。今回もまた、成功するだろう。今度はどんな夢を見ようか。ああそうだ、夢を見ないで済むような、そんな夢を見るとしようか。
溜息をふ、と吐き、私は一歩、踏み出した。