チャイム
深夜に細々と作業を進めていると、不意に玄関のチャイムが室内に鳴り響いた。しかし私はそれに応えることはせず、転がっていたヘッドフォンを装着し、大音量でアニメソングを流して聞こえていないフリをした。どうせいつものアレなのだ。構ってやることはない。
そもそもアレに構ってやって良い目を見たことがあるか。いや、無い。そしてこれからも無いだろう。前回の時は何だったろうか。ああそうだ、目だ。目を突かれそうになったのだ。やはりアレに構うと酷い目に合う。
鼻を鳴らし、乾いた笑みを浮かべていると、チャイムを鳴らす回数が増えていき、アニメソングの隙間に割り込んで来た。音量を上げ、曲の間の空白の時間もなるべく無くしてもチャイムの音は入ってきた。畜生が。両隣、上下の住人にクレームを入れられるのは私なんだぞ。分かっているのか。それとも、分かっていてやっているのか。
放っておいても埒が明かないため、ヘッドフォンを外して玄関へ向かう。あいにく私の住んでいるアパートの扉には、外を覗くための小さな穴は空いていない。何度も大家に言ったのだが、改善する気は無いらしい。
そのため、外にいるアレを確認するには扉を開く他に無いのだ。何、臆することはない。ただ扉を開くだけ。ただそれだけだ。私に怖いものなどはない。
玄関の扉を開き、外にいた者を確認する。ソイツは私のほうに顔をぐるりと動かすと、自らの耳を塞いで立ち去った。二度と来るなとその背中に向けて叫ぶと、隣の部屋からうるさいと怒鳴られた。畜生、畜生。私が悪いのではない。全てはアレのせいなのだ。
自室に戻り、ヘッドフォンを装着しようとして思い留まる。どうにも嫌な予感がしたのだ。
そして私はヘッドフォンの耳当ての中に蠢く虫達を見て、ゴミ袋を取りに動くのだった。