扉
その家には扉が多く取り付けられていた。それらは部屋と廊下を繋いでいたり、部屋と部屋を繋いでいたり、また、扉だけが存在しているだけで扉が扉の役割を果たしていないものも多数あった。
扉の家の主はいつ訪ねても姿を見せることはなく、住居を持たず、空き家に不法侵入して寝床を確保することを繰り返している私にとってそれは非常にありがたいことだった。毎度のように安全であるかどうかを確かめ、少しの物音に目を覚ますことはなかなかに疲れるものなのだ。
何度か季節が変わって寒くなる頃、扉の家の家主の遺体を見つけてしまった。扉を何度も開けた先にあった部屋の中でひとり、息絶えていたのである。
私はひどく狼狽えた。家主はしばらく姿を見せていなかったらしく、私が扉の家に篭っている時、近所の住人が訪ねてきたこともあった。もしも誰かが家に上がりこみ、家主の遺体を見つけたらどうする。家は壊され、私の安住の地が無くなってしまう。どうすればいい。私はいったい、どうすれば――
春夏秋冬を繰り返し、扉の家の扉は増えた。私が増やした。誰の姿も見えずとも、扉は次々増えていく。扉が増える。そのことで家には確かに誰かがいると思われたのか、ただただ不気味に思われたのかは分からないが、ともかく、近所の住人は私の家を訪れなくなった。
だから私は扉を増やす。壁が駄目なら床や天井、至るところに扉を増やす。そうすれば、誰も私の居場所を奪えない。私は静かに眠るため、今日も扉の扉の先に、扉を増やして目を瞑る。