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無題
不幸な少女の話をしよう。少女は生来声が出ず、耳は聞こえず目は弱く、親にはろくに構われず、昼夜を問わずにこき使われて、身体を壊して森の奥のそのまた奥の、人気はおろか、動植物さえ姿を隠した無音の場所に捨てられた。
少女はひたすら耐えていた。寒さに震えて膝を抱えて幾度も独りで夜を過ごした。助けを呼びに行こうとも、少女の足は壊死して動かず、とうとう視力も無くなった。少女はそのうち、死んだ。
途方もないほど時間が過ぎて、少女の死骸は発見された。少女は運ばれ供養され、衆人環視の元に置かれた。少女は祀られ、祈られた。けれども当然、少女が祈りを叶えることはなく、少女は飽きられ、壊された。頭と身体と手と足と、その他、細かく分断されて、少女はそれぞれ運ばれた。ここまでされても少女は何も思わず為すがまま。それもそのはず、少女はとうの昔に事切れている。誰が少女を救おうか。誰も少女を救えない。救う道があるのなら、少女の生を一から否定する他にない。少女の話は、これにて終わる。