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最終話:氷の大公妃は、世界で一番幸せに微笑む

 国境での決戦から数ヶ月。ブラウ王国は自滅に近い形で崩壊した。

 カイル王子は自らの業毒に飲み込まれて再起不能となり、王家は民衆の暴動によってその地位を追われた。かつて「身代わり」という犠牲の上に成り立っていた偽りの平和は、土台から崩れ去ったのだ。


 一方、ヴォルガ帝国には、暖かな春の陽光が降り注いでいた。

 今日は、ギルバート大公と私の結婚式。そして、私が正式に「大公妃」として帝国に迎えられる日だ。


 鏡の中に映る私は、純白のドレスに身を包んでいる。

 かつて呪いに蝕まれていた頃の、あの土気色の肌や枯れた髪を思い出すことはもうない。今の私は、内側から溢れ出す魔力と、愛されているという自信で、自分でも驚くほど輝いていた。


「……準備はいいか、エルゼ」


 扉が開き、正装のギルバート様が現れる。彼は私を一目見るなり、言葉を失ったように立ち尽くした。


「……ギルバート様? そんなに見つめられると、恥ずかしいのですが」

「……いや。あまりに綺麗でな。あの時、王国から貴女を攫ってきて、本当に正解だったと改めて確信した」


 彼は愛おしそうに目を細め、私の手を取った。

 かつてカイル王子は、私の手を「汚らわしい」と遠ざけた。けれど、この人は違う。私の手が荒れていても、白く戻っても、変わらずにその大きな手で温めてくれた。


「エルゼ。これからは、貴女が誰かの身代わりになることは二度とない。貴女の力は、貴女が守りたいと思うもののためだけに、自由に使ってほしい」

「はい。……そして、ギルバート様を支えるために」


 私たちは、祝福に包まれた大聖堂のバージンロードを歩き出した。

 沿道には、私の浄化魔法で救われた多くの民たちが集まり、花びらを撒き散らして歓喜の声を上げている。

 「聖女」「大公妃」、色々な呼び名があるけれど、今の私にとって一番大切なのは、この人の隣で笑っている「エルゼ」という一人の女性であることだった。


 誓いのキスの後、ギルバート様は私を抱き上げ、テラスから帝都を見渡した。


「エルゼ。貴女がかつて失った七年分、いや、それ以上の幸福を、俺が一生をかけて約束しよう」

「……ふふ。では、覚悟してくださいね。私、結構欲張りかもしれませんから」


 私が笑って答えると、ギルバート様は満足げに、今度は誰にも邪魔されない深い口づけを落とした。


 遠い南の地で、かつての初恋の人がどんな悲惨な末路を辿ったか、もう私は知らない。

 私は今、温かいスープを一緒に飲み、ふかふかのベッドで眠り、そして「おはよう」と微笑み合える。

 そんな当たり前で、何よりも贅沢な幸せの中にいる。


 七年分の呪いを返した代わりに私が手に入れたのは、永遠に続く、最高にホワイトな愛だった。

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