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実感するステータス

「なんだ……このとんでもないステータスは……」


『数値だけを見れば、深層に潜っている一流どころと比べてもそん色ない件』


『カナタ、体は大丈夫?』


 Eフォンの画面を見て驚き固まる俺に、視聴者たちから声がかけられる。


「体……体か……」


 それで俺は、自分の体にみなぎっているパワーを実感することができた。

 パワー……そう、パワーだ。

 これは、単純な筋力などで表せる感覚ではない。

 無論、全細胞が充実し、筋繊維の1本1本に至るまでが、太くしなやかに生まれ変わってはいる。

 それを証明するかのように、洞窟迷彩が施された衣服を下から筋肉が押し上げていた。


 だが、それだけではない。

 全身をエーテルが駆け巡っている感覚……!

 ある探索者が、インタビューでこう答えていたのを覚えている。


「ダンジョンでエーテルを吸収して強くなるっていうのは、レベルアップというよりメタモルフォーゼだ。

 これまでの自分から、全く別の生き物に変異するんだよ」


 まさに、その言葉通り。

 エーテルのもたらす物理法則を超越したエネルギーが、はっきりと知覚できるようになっている。

 これはまるで、別の世界に生まれ変わったかのような感覚だ。


「……試してみるか」


 Eフォンとナイフをしまい、そこら辺に転がっていた石ころを掴み取る。

 そして、それを目の前に向けて――投げた。

 投げられた石ころの、なんというスピード!

 球速に換算したならば、間違いなく180キロは超えている。

 しかもこれは、軽く投げての結果なのだ。

 その証拠に、俺の両目は飛んでいく石ころの姿をはっきりと捉えており……。


「――ふっ!」


 軽く息を吐き出しながら踏み出すと、この体が、投げられた石ころを――追い越した。


「――キャッチ」


 そして、キャッチ。

 時間にして、わずか0.1秒にも満たないんじゃないかと思う。


『なんだ、今の?』


『ものすごい勢いで石を投げて、追い越して、キャッチした?』


 視聴者たちが、驚きのコメントを投下する。


「はは……すげえパワー」


 キャッチした石ころを握り潰しながら、そう漏らす。

 まるで、クッキーでも握っているかのような感覚。

 あっさりと砕けた石ころは、そのまま手の中で砂になるまで挽き潰された。

 あのウィンドウがまたも網膜に投影されたのは、その時だったのである。




┌────────────────────┐


[Enemy] 12メートル先にモンスター『マミー』が13体出現予定。


└────────────────────┘




「何? またモンスターだと?」


『急に独り言どしたー?』


『モンスター?

 あ、本当だ。

 でも、この出現光は……多い』


 謎のウィンドウが告げた通り、12メートルほど先だろう空間に、多数の出現光。

 エーテルの光子はたちまち人型となって実体化し、同種のモンスターたちを形作る。


 一見して抱く印象は、ミイラ男。

 たくましい肉体は、しかし腐っていて確実に死体だと分かる。

 その腐肉を、包帯が巻き付いて覆っているのだ。

 眼孔から漏れるのは爛々とした赤い光であり、本能的な嫌悪感を煽った。


『マミーということは、第3階層か』


『今までのカナタだと、太刀打ちできる相手じゃない。

 第1階層のグリーンスライムからだって、逃げ回ってたのに』


「まあ、な。

 でも……」




┌────────────────────┐


[Advice] ステータスに圧倒的な差があるため、苦戦する要素はありません。


└────────────────────┘




「――いけそうだ!」


 俺の背中を押すかのような、ウィンドウの言葉。

 それに励まされたわけではないが、確信と共に吠えた!

 俺は――勝てる!


 ――ダアンッ!


 という派手な音と共に地面を踏み砕き、先頭に立つマミーの懐へ潜り込む。

 なんという……鈍い反応。

 だらしなく口を開いたこいつは、一瞬前まで俺がいた位置を見つめたままであった。

 こんな相手に、工夫は不要。


「――しっ!」


 腹へ向け素早く打ち込んだ拳により、マミーの上半身は弾け飛び、光の粒子となって霧散する。


「――ふっ!」


 もちろん、1体倒しただけで油断することも、動きを止めることもない。

 むしろ、その逆。


 ――ダアンッ!


 ――ダアンッ!


 ――ダアンッ!


 地面から天井へ、天井から地面へ、地面から岩壁へ。

 俺はパワーアップした脚力を活かし、ゴム毬のように跳ね回る。

 マミーたちは、そんな俺の姿を捉えることができず、翻弄されるばかりだ。


『動き早すぎてAIの修正入りましたー』


『そのままの映像だと、何がなんだか分からないもんね。

 あのカナタが、AI補正入るレベルになったか』


 視聴者たちのコメントから考えるに、配信映像へ自動でAI補正が入っているのだろう。

 何しろ、縦横無尽に動き回っているからな。

 常人がそのままの映像を見たら、画面酔い確定である。

 つまり、それだけの動きを難なくできる今の俺は、先までの常人()ではないということ!


「一気に決めるぜ!」


 そのことを心ゆくまで実感し、フィニッシュを宣言した。

 1体……また1体。

 俺を視界に捉えることすらままならないマミーたちに、致命的な一撃を加えていく。


 全てが、徒手空拳。

 唯一頼りとしてきたコンバットナイフを抜く必要すらない。

 振り下ろした拳が! 打ち抜くように放った蹴りが!

 散弾銃も通さぬ強度だという包帯も、屍肉と化してなお強靭な筋肉も紙のように貫き、エーテルの光へと返していくのだった。


『カカッ!

 おいおい、こいつら小銃でも倒せねえレベルのはずだぞ!』


『すごい……』


 1体残らず葬り去り、周囲がエーテルの光粒子に包まれる中、視聴者たちのコメントだけが俺に届く。


「負ける気がしねえ」


 そう吐き出すと同時に、またも例のウィンドウ。




┌────────────────────┐


[Drop] 【マミーの包帯】。


└────────────────────┘




「ドロップ品か」


 ウィンドウに表示された通り、光に返ったうちの1体が倒れた場所に、血で汚れた包帯が落ちていた。


「自分で倒したモンスターのドロップ品を手に入れるのは、初めてだな」


 手にしたそれを眺め、感慨深くつぶやく。


『童貞喪失おめ』


『洗浄した後、繊維をほぐして防弾服の素材にしたりするんだっけ?

 すご。平均して、ひと巻き7万円だって。

 見た目は、病気になりそうな包帯なのに』


「――なな!?」


 視聴者の1人がくれたコメントに、思わず目を見開く。

 マジかよ……。

 俺が普段、第1階層で収集してる【迷宮もやし】が、100グラム6円。

 たまに他の探索者が倒して放置していくグリーンスライムのドロップ品――【スライムゼリー】が、ひと欠片100円だ。

 それを思うと、これは一体、何時間分……いや、何日分の稼ぎに相当するのだろうか。


「え? もしかして、今日は肉が食べられる日なのか?

 いや、唐揚げとか買っても大丈夫なのか?」


『ステーキでも寿司でも好きに食えばいいゾ』


『探索者ドリームってやつだね。

 こうなると、ステータスにあった【ハザード】っていうスキルも気になってくるけど』


「確かに。

 ただ、スキルってどう使えばいいんだろう?

 念じるのか?」


 Eフォンのアイテムボックスアプリを起動。

 【マミーの包帯】をエーテル化して収納しながら、首をかしげた。

 探索者は、様々な要素が重なって独自のスキルを習得することがある。

 スキルの内容は様々で、炎を出したりするのが代表格だ。

 だが、あのスライムを倒すことで得られたらしい【ハザード】というスキルは、初耳。

 果たして、どうすれば使えるのだろうか?


 悩んでいる間に、またもウィンドウが開く。

 今度の表示は……。




┌────────────────────┐


[Caution] 『座標12,45』でユーザー同士の戦闘が発生。


└────────────────────┘

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