【第2章 あはれてふ 心の奥ぞ けふ知られぬ】全年齢版⑤
【第2章 第5話】
青い五芒星が足元に浮かび上がる。溢れ出した水は荒れ狂うことなく、柊の身体を包み込むように幾重にも重なっていった。青と黒、金色を基調とした全身スーツとなり、胸部、肩、前腕には清らかな水を湛えたような装甲を纏う。そして、玄武を彷彿とさせる仮面となった。
「祓え、勾玉!」
青い戦士が両手を前へ突き出す。水流の中から、二つの青い勾玉が姿を現した。
勾玉が強く光を放つと同時に、五芒星の形をした防壁が展開される。防壁は宙へと浮かび、周囲を囲みながら物怪の攻撃を受け流す。さらに溢れた水流が、物怪の手足に絡みつき、締め上げるように拘束した。
「レッド、見惚れてる場合じゃないぞ」
外側から見た式神外装が、あまりに美しくて、柊の肌を流れる水から目が離せなかった。
「あ、あぁ! 業火一閃!!」
赤の刃が一閃する。斬り裂かれた赤子の物怪は、悲鳴を上げる暇もなく、砂となって崩れ落ちた。
「また……アタシの子供が……! 許さない、許さないぃぃ!!」
これまでとは比べものにならない衝撃波が放たれる。周囲の空気そのものを揺らしながら迫ってきた。
柊は咄嗟に前へ飛び出し、防壁を正面に展開する。
「待て! 音までは防ぎきれんぞ!!」
「ぐっ、ああああああ……!!」
直撃。受け止めきれない衝撃が、全身の装甲越しに内側へ突き抜け、柊は膝をついた。
姑獲鳥の哄笑が、遠く歪んで聞こえる。
――意識が、内側へと沈んでいった。
⸻⸻
頭の中に、言葉と光景が溢れ出す。
「よし! 決めた! 名前は《柊》だ!」
「これからは家族三人で、幸せな家庭を作ろうな!」
……温かい声。
「ねぇ……あなた。私のこと、わからないの……?」
「どうして……答えてくれないの……?」
「……いや……あなた、体が……砂に……」
……崩れていく日常。
「どうして……どうして私だけが……」
「旦那さんの件は……お気の毒でした……」
……取り残される痛み。
「柊……ごめんね。守れなくて……」
「でも……あなたは、誰かを守れる存在になって……」
違う。これは夢じゃない。
忘れていたと思っていた。けれど確かに、心の奥に残っていた……記憶。
⸻⸻
ゆっくりと顔を上げ、姑獲鳥を見据える。
「……そうだ」
拳を強く握りしめる。
「おれは、蓮を……守る」
その言葉に呼応するように、青い光が再び、静かに、しかし力強く脈打った。




