表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

設計者たち

老獪な自民党幹部達

自民党本部・地下会議室。

壁には吸音パネル、窓はない。ここでの話は外に出ない。


総裁の黒崎は、腕を組んだまま、正面のモニターを見つめていた。

映し出されているのは、新選挙制度のフローチャート。


政調会長の城島、選対委員長の三枝、官邸戦略室長の結城。

いずれも、党内でも“数字と制度の鬼”と呼ばれる人間たちだった。


「これは改革ではない」


沈黙を破ったのは結城だった。


「確認します。これは“勝つための制度”ではありません」


三枝が頷く。


「はい。“負けないための制度”です」


黒崎は、目を細めた。


「違いは大きいな」


城島が、淡々と説明を続ける。


「勝つ制度は、必ず反発を生みます。露骨ですから。

しかし、負けない制度は、“良いこと”で構成できる」


モニターには、次の文字が浮かんでいた。


死票の削減


民意の正確な反映


地方格差の是正


政治参加の拡大


「全部、正論です」


城島は言った。


「野党は、分かっている」


黒崎が口を開いた。


「立憲は、気づいているな」


結城が微笑む。


「ええ。完全に」


「では、なぜ止められない?」


三枝が答えた。


「止める理由を、説明できないからです」


「説明すると?」


「制度論になります。国民は聞きません」


黒崎は、低く笑った。


「政治は、感情のゲームだ」


「野党を“競争”させる」


結城が、次のスライドを表示した。


「今回の設計の核心はここです」


画面には、複数の野党ロゴが並び、矢印が交錯していた。


「野党間の“協力”を不利にし、“競争”を有利にする」


三枝が続ける。


「完全比例は、票の奪い合いを促進します。

協力しても得にならない。連携の意味が消える」


「分裂しなくても」


城島が言った。


「分断される」


「我々は、減る。しかし死なない」


黒崎が言った。


.


「参議院では、我々は議席を減らす」


三枝が即答した。


「はい。だが、“死ぬほど”ではない」


城島が補足する。


「35%で43議席。

現職はほぼ守られます。地方読み替えで選挙区組も保護される」


結城が静かに言った。


「“痛みを受け入れる改革”に見えるのが重要です」


黒崎は、しばらく考え込んだ。


「……国民は、改革に“痛み”を求める」


「責任の分散」


三枝が言った。


「この制度が通れば、我々は単独過半数を失う可能性が高まります」


黒崎は眉を上げた。


「弱点では?」


「いいえ。強みです」


城島が言った。


「重要法案が否決された場合、“我々だけの責任”ではなくなる」


結城が続ける。


「政策ごとに協力相手を選べる。

野党は“賛成した責任”を負う」


黒崎は、深く息を吐いた。


「責任の共有……いや、分散だな」


「れいわと参政は、自然に壊れる」


結城が、別のスライドを出す。


「維新、れいわ、参政……彼らは伸びます」


「それは危険では?」


三枝が首を振る。


「数だけです」


城島が冷静に言った。


「候補者の質が追いつかない。内紛が起きる」


「“急成長政党の宿命”だ」


黒崎は、苦く笑った。


「我々は、ゆっくり腐ることを覚えた」


「彼らは、急に壊れる」


「立憲は、最も苦しむ」


三枝が言った。


「立憲は、この制度の最大の被害者です」


「なぜだ?」


「減らないが、意味を失う」


城島が説明した。


「連携のハブになれない。

単独で勝てない。

しかし、邪魔もできない」


結城が言った。


「彼らは、“正論で殴れない相手”を初めて持った」


黒崎は、目を閉じた。


「残酷だな」


「通る」


沈黙。


やがて、黒崎が口を開いた。


「……この制度、通るか?」


三人は同時に頷いた。


「通ります」


「なぜ?」


城島が答えた。


「反対するほど、国民に嫌われるからです」


結城が付け加える。


「支持しない理由が、理解されない」


三枝が言った。


「“通る制度”です」


「勝たない。だが、支配する」


黒崎は、ゆっくりと立ち上がった。


「我々は、次の選挙に勝つ必要はない」


三人は黙って聞いている。


「政治の構造に勝てばいい」


彼は、モニターを見た。


「この国の政治が、我々を必要とする形に変わるなら」


一瞬の沈黙。


「……それが、本当の勝利だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ