表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

燃えない火

深夜1時。

立憲民主党・デジタル戦略室。


若手スタッフの高瀬が、スマホを見つめたまま呟いた。


「……全然、燃えません」


選対副本部長の水野が振り返る。


「何が?」


「党首討論の切り抜きです。“負けない制度”のところ。

拡散数、伸びてません」


画面には、黒崎総裁と神谷代表のやり取り。


神谷「“勝つ”制度ではなく、“負けない”制度では?」

黒崎「私は“安定”のためだと思っています」


水野は、ため息をついた。


「本来なら、燃える」


高瀬:

「これ、普通なら炎上しますよね?」


別のスタッフが言う。


「“権力の固定化”

“政権交代できなくなる”

“与党の自己保存”」


「全部、強い言葉です」


水野:

「なのに?」


「なのに……」


高瀬は、画面を見せた。


いいね:少ない


リポスト:少ない


コメント:少ない


「なぜ燃えないか」


分析担当の佐伯が言った。


「理由は簡単です」


「“分からない”からです」


一同が彼を見る。


「“損する”って言われても、

“誰が”“いつ”“いくら”損するかが見えない」


「今じゃない。

明日でもない。

2031年。

構造の話。

確率の話。」


「炎上するには、被害の即時性が必要です」


「燃やそうとすると、負ける」


水野:

「じゃあ、煽る?」


高瀬:

「やってみました」


彼は、別の投稿案を表示した。


『この制度で、あなたの一票は無意味になる』


水野:

「……反応は?」


高瀬:

「即、ツッコミが入りました」


「無意味にはならないでしょ」

「比例なんだから、むしろ反映される」

「不安煽りすぎ」


佐伯:

「煽ると、事実で殴り返される」


「この制度、表層は正しいんです」


「敵がいない」


別のスタッフが言った。


「いつもの炎上って、“悪役”がいますよね」


「不祥事」

「失言」

「スキャンダル」


「でも今回は?」


水野:

「……いない」


高瀬:

「黒崎総裁、冷静。

論理的。

言葉も穏やか」


佐伯:

「炎上は“怒りの物語”です」


「今回は、“設計の話”」


「物語にならない」


「一番ダメなやつ」


水野が、頭を抱えた。


「つまり……」


「正しいことを、正しい顔でやられると、叩けない」


佐伯:

「はい。最悪のパターンです」


「逆に、自民は燃料を持っている」


高瀬が言った。


「自民側の切り抜き、伸びてます」


『死票をなくす改革』

『地方の声を国政に』

『政治参加を広げる』


「全部、ポジティブ」


水野:

「……」


佐伯:

「彼らは“燃えやすい木材”を自分で供給している」


「我々は、“湿った薪”で火を起こそうとしている」


「無関心という敗北」


その時、神谷代表が入ってきた。


「……状況は?」


水野:

「正直に言います」


「炎上しません」


神谷:

「……そうか」


誰もが、神谷の顔を見た。


彼は、静かに言った。


「一番つらいやつだな」


「怒られない。だが、消える」


神谷:

「怒られない政治は、理想だ」


「だが……」


「怒られないまま、構造が変わるのは、怖い」


水野:

「代表……」


神谷:

「“炎上しない”ということは、理解されていないということだ」


「ネットの声」


その頃、X(旧Twitter)では:


「難しいけど、なんか良さそう」

「専門家が良いって言ってた」

「よく分からんけど反対する理由も分からん」


ごく少数:


「これ、長期的に危なくない?」

「権力固定化じゃ?」


しかし、拡散されない。


「アルゴリズムは、感情が好き」


佐伯が言った。


「SNSは、“怒り”“笑い”“スキャンダル”が好きです」


「“構造的危険性”は嫌いです」


水野:

「民主主義向いてないですね……」


佐伯:

「はい」


「黒崎側」


一方、自民党。


結城が、データを見て言った。


「燃えていません」


三枝:

「理想的ですね」


黒崎:

「……炎上は、短期的には有利でも、長期的には傷になる」


「我々が欲しいのは、“空気”だ」


結城:

「“当たり前”にすること」


「静かな勝利」


黒崎:

「彼らは、燃やそうとしている」


「我々は、冷ましている」


三枝:

「国民は、“穏やかな改革”が好きです」


黒崎は、頷いた。


「嵐より、霧だ」


エピローグ


神谷は、深夜のオフィスで、スマホを見つめていた。


「……誰も怒ってない」


水野:

「はい」


神谷:

「でも、それが一番怖い」


彼は、画面を消した。


「気づいた時には、

“もう戻れない”ところまで行ってる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ