党首討論 「通じない言葉」
NHKのスタジオ。
円形の討論セット。中央に司会者、その左右に与野党党首。
自民党総裁・黒崎
立憲民主党代表・神谷
維新代表・東
公明党代表・森本
れいわ代表・大杉
共産党委員長・佐久間
テーマ:
「新選挙制度は、民主主義をどう変えるのか」
冒頭
司会:
「まず、黒崎総裁。この制度の狙いを簡潔に」
黒崎は、落ち着いた声で言った。
「民意をより正確に反映し、死票を減らし、地方の声を国政に届ける。それだけです」
スタジオに、穏やかな空気が流れる。
立憲・神谷の問題提起
司会:
「神谷代表、どう見ていますか」
神谷は、一拍置いた。
「この制度は“良い言葉”でできています」
一同が彼を見る。
「しかし私は、“何が起きるか”を問いたい」
「野党が分断され、協力が難しくなり、結果的に与党が“負けなくなる”構造になる」
黒崎は、わずかに微笑んだ。
「それは、制度の問題ではなく、野党の努力の問題では?」
一瞬、空気が凍る。
自民:正論の盾
黒崎:
「比例を拡大すれば、小さな声が届く。
地方票の読み替えで、過疎地も救われる。
何が問題ですか?」
神谷:
「問題は、“誰が困るか”ではなく、“誰が困らないか”です」
「この制度では、今の大政党が一番困らない」
黒崎:
「それは、経験と支持があるからです」
維新:機会論
東(維新):
「私は、前向きに評価します。競争が生まれる」
神谷がすぐ反応する。
「協力が死ぬ」
東:
「協力なんて、国民は求めていない」
大杉:
「その“競争”で、弱い人の声は消える!」
東:
「比例が増えるんですよ?」
大杉:
「人材が追いつかないって話をしてるんです!」
場が少し荒れる。
共産:構造批判
佐久間:
「この制度は、政権交代を起こしにくくする」
「民主主義とは、政権が入れ替わる可能性があることだ」
黒崎:
「入れ替わる可能性は、残っています」
佐久間:
「“理論上は”」
スタジオが静まる。
神谷の核心
神谷は、意を決したように言った。
「総裁、正直に言ってください」
黒崎:
「何をですか」
神谷:
「この制度は、“勝つため”ではないでしょう」
「“負けないため”ではありませんか」
一瞬、空気が止まる。
黒崎の返し
黒崎は、少し間を取った。
「……私は、“安定のため”だと思っています」
「政治は、毎回革命を起こす場所ではない」
「国民は、混乱ではなく、予測可能性を求めている」
「この制度は、それを提供します」
神谷の敗北
神谷は、言葉を探す。
「安定は、時に停滞になります」
黒崎:
「停滞と、破壊のどちらが良いか」
神谷:
「……」
言葉が出ない。
視聴者にはこう見える
司会がまとめる。
「自民党は“安定と改革”
野党は“構造的な危険”を訴えています」
画面のテロップ:
「どちらが正しいと思いますか?」
控室で
討論終了後。
神谷は、控室でネクタイを緩めた。
水野(選対):
「代表……」
神谷:
「分かってる」
「今日の放送で、俺たちは“難しいことを言う人”になった」
河野(幹事長):
「黒崎は、“分かりやすい善人”になった」
神谷は、ソファに座った。
「……一番負ける形だ」
黒崎側
別室。
三枝:
「完璧でした」
結城:
「彼は、構造の話をした。
我々は、感情の話をした」
黒崎は、静かに言った。
「政治は、常に後者が勝つ」
エピローグ
その夜のニュース。
「新制度、評価が上回る」
「“難しいが、良さそう”が多数」
神谷は、テレビを消した。
「……伝わらないな」
河野:
「いや」
「伝わりすぎると、困る人がいる」
神谷は、黙った。




