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⑤私……はじめ君の事が〇キ

「圏外だったら、電話も通じないね。メッセージアプリも」

と俺は言った。


俺は思った、こんな当たり前のことを彼女に突きつけるなんて、

俺は残酷すぎる。

しかし言わずにはおれなかった。


俺はこの時ほど、作家のような能力があったらと思った。

もし、俺に言葉を自由に扱える能力があったのなら、ムダに彼女を傷つけることもなかった。


「えっどういうこと。県外でも電話は通じるし、メッセージアプリも使えるわよ」

茜ちゃんは言った。


「えっ。そうなの。今そんなにハイテクなの?いつから」

と俺は言った。

意味が分からなかった。

圏外で電話が通じる?ありえない。そう思った。


「えっ逆に、県外で電話が通じないとか、メッセージアプリ使えないとかいつの時代の人?縄文時代」

茜ちゃんは言った。


「えっでも俺のスマホ、圏外だと電話繋がらないよ。電波が届かないか。みたいなのになるから」

と俺は言った。

どういうことだ。もしかして、俺ん家は実は極貧で、電波が届かないと使えないスマホしか持たせてもらえてないのか……。


「あぁそっちの圏外?私の言ってるのは都道府県の県外ってこと。別の県に行くのよ」

茜ちゃんは言った。


「あぁそういうことか。じゃあ茜ちゃんのスマホも、電波届かないところなら、やっぱ通じないの?」

と俺は言った。


「そりゃそうよ」

茜ちゃんは言った。


あぁ……よかった。うちの家は極貧だということではなかったようだ。

しかし一難去ってまた一難

あれ違った?

一男去ってまた一男。だったっけ。

いやいや。違う。

考えろ。俺。


沈黙の瞬間が流れる。

急に心臓の鼓動が早くなった。


俺と茜ちゃんは、彼女の部屋で二人っきりになった。


茜ちゃんが吐き出した二酸化炭素を俺が吸っている。俺が吐き出した二酸化炭素を茜ちゃんが吸っている。


恋人同士が一つになるというのは、こう言うことなのだと思った。


俺は茜ちゃんが好きだ。


茜ちゃんはどう思っているのか、わからない。


でも俺は茜ちゃんが好きだ。


俺が吐き出す、この気持ちを空気のように、茜ちゃんが受け入れてくれるかどうかはわからない。


でもこの気持ちを吐き出さずにはいられない。

俺は息を吸う。

(すー)


「あのね。私……はじめ君のことが好き」

茜ちゃんは言った。


唐突な告白に心臓が張り裂けそうになる。


そして重要な告白を女子にさせたことへの嫌悪感が薄っすら脳内を支配する。


「俺もなんだ」

俺は言った。


茜ちゃんは俺の目を見つめる。

「えっ。ナルシスト……」

茜ちゃんは言った。


張り詰めた緊張の中、秒針の音が部屋に響く。

「いや……違うんだ。茜ちゃんが好きって言おうと思った瞬間。茜ちゃんが俺のこと……好きだって言ってくれて……こんがらがったんだ」

と俺は言った。


茜ちゃんは、ぱっと目を見開く。

「私ははじめ君のこと好きじゃないよ」

茜ちゃんは言った。


「えっそうなの」

と俺はうなだれた。


「でもはじめ君が私のこと好きなら、好きになってもいいよ……」

茜ちゃんは言った。


「うん。好きになって」

茜ちゃんは、恥ずかしそうにうなずいた。


「ごめんね。私……ツンなのよ」

茜ちゃんは唇を噛みしめ、頬を赤らめた。


「茜ちゃん……俺、今日はじめてツンデレの良さがわかったよ」

俺は言った。


「バカ……」

茜ちゃんは言った。

俺は中学二年生にして、バカという侮蔑用語が、特定の場合、愛の表現になりうることを知った。


俺は今の今まで、物語と言うのは、順当に進むものだと思っていた。

しかし現実は、開会式がないのに、試合が始まったり。

試合が始まっていないのに、勝負は決定していたりするものだ。


少なくとも、今の瞬間。

なんの関連性もなく。

突然告白が始まり、愛の交換が行われた。


これが人生なのか。

俺は考えた。


「遠距離恋愛ってこういうことなのかな」

と俺は言った。


「あぁそうよね。遠距離恋愛になるかもね」

茜ちゃんは言った。


「俺は茜ちゃんに好きと言えてよかった」

と俺は言った。


「私もはじめ君に好きと言えてよかった」

茜ちゃんは言った。


「すごく嬉しいんだ。予想外に高額のお年玉もらえた時よりも、予想外にテストの成績がよかった時よりも、今……茜ちゃんが俺のこと好きになってくれたことのほうがすごい嬉しいんだ」

と俺は言った。


「こういう時はツンは正直に言ったらダメなのだと思うけど、私も……」

茜ちゃんは言った。


「俺の解釈が間違ってなければ、ツンはデレ期には、正直に好きっていうから、たぶん茜ちゃんので正解だよ」

と俺は言った。


「そう。じゃあ好き。はじめ君が好き。だーい好き」

茜ちゃんは言った。


茜ちゃんのだーい好きは想像以上に破壊力があった。

これはきっとRPGでいうと、聖剣エクスカリバーとか、ドラゴンスレイヤーとか、妖刀村雨みたいなレベルの破壊力だと思う。


「俺きっと、トゥンクってなってるよ」

と俺は言った。


「私もさっきから、トゥンクトゥンクってなってる」

茜ちゃんは笑った。


(ががががががががががが…)


突然建物が揺れる。

地震だ。

俺はとっさに茜ちゃんを抱きしめ、茜ちゃんの頭を守る。


揺れが収まった。


「だいじょうぶ。すごい揺れだったね」

と俺は言った。


「びっくりした。守ってくれてありがとう」

茜ちゃんは笑った。


「あのね。もう一回抱きしめて」

茜ちゃんは言った。


俺は茜ちゃんを抱きしめた。

シャンプーの良い匂いがした。


しばらく、そうしていると

(ぷるぷるぷるぷるぷる…)

と茜ちゃんのスマホが鳴った。


「あっお父さん。どうしたの。はい。はい。はい。わかりました」

茜ちゃんはそう言い電話を切った。


「どうしたの」

と俺は尋ねた。


「さっきの地震で引越し予定だった父さんの会社工場が全壊しちゃって、取りやめになるかもだって」

茜ちゃんは言った。


「そうなんだ……」

と俺は言った。


俺はどう答えていいのかわからなかった。

茜ちゃんと別れずにいれるのはうれしい。でもそれが誰かの不幸の上に成り立っている。

その事実を目前に突きつけられて。

言葉を失った。


「ごめんなさい、こういう時どんな顔すればいいかわからないのよ」

茜ちゃんは言った。


俺は考えた。

この状況で、あのセリフは使えない


「だよね。俺もどんな顔をして何を言えばいいかわからない。

でもきっと変わらないのは、茜ちゃんを好きだということだけだ」

と俺は言った。


それから、茜ちゃんの引越しは正式になくなった。

茜ちゃんとは夏休み中何回か遊んだ。


そして気が付くと、8月31日になっていた。

これでループは解けるはず。

そう思った。


(ぷるぷるぷる……)

家の電話が鳴る。


「はい。はい。はい。えっ本当ですか?で……はい。はい。はい。失礼します」

と母さんは誰かと話している。


えっまさか茜ちゃんが……


「もしかして……」

と俺は言った。


「……お前の友達のモデル君が亡くなったって」

と母さんは言った。


「なんで」

と俺は言った。


「俳優デビューが決まってたんだけど、川で溺れたみたいで」

と母さんは言った。


茜ちゃんの次は、モデル君か……。

しかも俳優デビューするなんて、全然知らなかった。


いったい……

なぜこんなに人が亡くなるんだ。

俺は自分の運命が怖くなっていた。


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