表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

俺……茜ちゃんの事がス〇

「朝ごはんできたわよ」

と母さんの声が聞こえる。


俺はスマホを確認する。

7月20日で、新聞社も、ポータルサイトの日付も、そしてテレビ番組も7月20日だった。

俺は宿題を見る。

宿題はしていない。

俺は財布を見る。

財布の中身も7月20日時点の金額5800円だった。

同じだ。


俺は父さんに宿題と爺ちゃんの家の事を確認して、宿題を始める。

そして爺ちゃん家に……

今回も58,000円だった。

俺は急ぎ家に戻る。

次は純ちゃん家に行き、蚊を撃退。

これでフラグは折れた。


あとは茜ちゃんをどうするかだ。

茜ちゃんは小さい頃によく遊んだし、お互いの家にも遊びに行ったが、最近はあいさつ程度でロクに会話もしていない。

茜ちゃんがどんどん可愛くなっていって、なんか気恥ずかしいのだ。


小さかった時の俺がすごく幼く思える。


とにかく行動の前に整理をしてみよう。

やはり中学二年の男子にとって女子の……、

ましてや好きな子の家に行くというのは、

ハードルが高すぎる。

確実に決めなければいけないし、

フラグを折らなければならない。

爺ちゃんの時のフラグは、生前整理だった。

生前整理をしたことで、臼に頭をぶつけるという未来が回避された。

純ちゃんの時のフラグは、蚊だった。

蚊を倒したことで、蚊でストレスになり、睡眠不足から死という未来が回避された。


今回提示されている情報は

・茜ちゃんが転校する予定

・引越し直前でトラックにひかれた

この二点だ。


転校前というのは、ストレスが強くかかるのだろう。

可能性としては、引越し前のストレスで、睡眠不足から死に至るという未来だ。

これを回避するには、茜ちゃんのストレスを減らさないといけない。

ではどうする?


励ます?

励ましても、寝られるわけじゃない。

不安を取り除く。

どうやって……、

俺が支えになれれば、ひょっとして。

少しは安心できるかもしれない。


でも……、

どう切り出そう。

なぜ引越しの事を知ったと言おう。

こんな時は大人はどう言う。

俺は必死に考えた。

風邪のウワサ。

インフルエンザのウワサの事か……。

いや違う。

これは誤字だ。

風のウワサだ。

ところで風とは誰のことなのだろう。

考えろ。

「風のウワサに聞いたのさ」

「その風というのは、又三郎のことですかい?」

「そうさ。又三郎のことさ」

みたいな会話があっただろうか?

いや……ない。

おそらく、中学二年生。もう大人だ。その大人の知識を持って、ないならないに違いない。

「風のウワサに聞いたのさ」

「そうか……まぁ知られちゃ仕方ないな」

だいたいはそんな具合に話が進む。

よしこれだ。

切り口はこれだ。

よし行こう。

俺は茜ちゃん家に向かう……。


迷子になった。


ここはどこだろう。

めっちゃ怖い。

犬がワンワン吠えてる。

泣きそう。

どうしよう。


「なんだお前は」

と背後から大きな声がした。


俺が振り向くと、そこには中世ヨーロッパの農民のような服装をした老人が鎌を持って、こちらを睨みつけていた。


「どこから来た。ここはお前のようなものの来るところではない」

と大声を張り上げる。


鎌がキラっと光る。

なんだ。

ここは……。

俺は周りを見る。

単なる住宅街だ。

なぜこんな昔の農民のような老人がいるんだ。

ひょっとして……

ここは異世界とつながっているのでは、そう疑った瞬間


「あれ。はじめ君じゃない」

と誰かの声が聞こえた。


俺は声の方を見る。

そこには棒付きのアイスを食べながら歩いている茜ちゃんの姿が……

「茜ちゃん。実は君に会いに行こうと思ってたんだけど、迷子になって」

と俺は言った。


「じゃあ、すぐそこよ。来て」

と茜ちゃんは言った。


「なんだ茜の友達か」

と老人は言った。


「そうよ。山下の爺ちゃん。今日も中世の農民のコスプレして庭いじりしてるの?」

と茜ちゃんは言った。


「そうなんじゃよ。このコスがお気に入りでのう。SNS映えするんじゃ」

と老人は言った。


俺は茜ちゃんについていく。


「ここよ。どうぞ上がって」

と茜ちゃんは言った。


「おじゃまします」

と俺は言った。


「今日はパパもママも会社に行ってるから、私一人なの。暇だからゆっくりしていってね」

と茜ちゃんは言った。


……ということは、この屋根の下に二人っきりということなのか。

うわ。超ドキドキする。

何か話題を見つけなきゃ。


「あのお爺さんはコスプレイヤーなの?」

と俺は言った。


「そう。結構有名な人でね。老人×中世農民×ガーデニング×あの謎キャラで人気なのよ」

と茜ちゃんは言った。


「へぇそうなんだ」

と俺は言った。


ふと茜ちゃんの顔を見ると、茜ちゃんの顔には、棒アイスのチョコレートがベタっとついていた。


「……で、あぁやって、迷子になった子供を驚かせて、たまに警察の人に怒られてんのよ。本当に男の人っていつまでたっても子供ね」

と茜ちゃんは言った。


茜ちゃんのセリフとチョコレートのついた顔があまりにもアンバランスで、俺は笑いをこらえるのが大変だった。


「口のとこ、チョコついてるよ」

と俺は言った。


「うそ。うわ、本当だ。ありがとう。思わず恥をかくところだったわ」

と茜ちゃんは言った。


「……で、引越しするって聞いて」

と俺は言った。


「……誰に聞いたの」

と茜ちゃんは言った。


「風のウワサに聞いたのさ」

と俺は言った。


「その風というのは、又三郎のことですかい?」

と茜ちゃんは言った。


「そうさ。又三郎のことさ」

と俺は言った。


しまった。まさかこのルートに行くとは……。

どうする俺……。

まさか君は死ぬんだなんて言えない。

ピンチだ。


「そうよ。引越しするの……けんがいにね」

と茜ちゃんは言った。


あっけなく、ピンチは回避された。

しかし別の問題が浮上する。


俺はショックだった。まさか圏外とは……


そうか……。

電話が通じない。スマホも使えない。

そんな所に突然引越しするわけだからストレスがかかっても仕方がない。

俺にこの心痛を和らげることができるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ