9月1日
「朝ごはんできたわよ」
と母さんの声が聞こえる。
俺はスマホを確認する。
9月1日で、新聞社もポータルサイトの日付も、そしてテレビ番組も9月1日だった。
やった!ループを抜けた。
今日から新学期か。
完璧な夏休みだった。
俺はそんな事を思いながら、リビングの扉を開ける。
「今日は新学期なんだし、遅刻しないようにね」
と母さんは言った。
「そうだぞ。と……いうか、父さんが遅刻しそうだ。もう行くよ」
と父さんは言った。
俺は寝癖を直し、制服を着る。1か月ぶりなのに、半年以上たった気がする。
あぁ、ようやくループが解消したんだ。
俺はランドセルに、教科書をまとめる。
うん……。
ランドセル?
いや違う。
俺はカバンに、教科書をまとめる。
「じゃあ行くよ」
と俺は言った。
俺は玄関を出て、道路に出る。
母さんの声が聞こえる。
俺は振り返る。
「事故が多いから……気を付けて」
母さんは言った。
「ははは。だいじょうぶだよ。子供じゃあるまいし」
と俺は言った。
(ぷーぷーぷーぷーぷー。どーん)
あれ。
空が近い。
あれ、なんだかクルクルしている。
(どか)
「はじめ……」
母さんの声が聞こえる。
あれ……。
意識が薄らいでいく。
なにがあったんだ。
……
「おい、聞こえるか。おい、君」
声が聞こえる。
「……うん。ここ、どこだ。あなたは……」
俺は言った。
「私かい? 私は君らがいうところの神様だよ。しかし君は大変なことをしてくれたね」
神様は言った。
辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中に、ただ光の粒子と神様の声が響く。
「……大変な事というと」
俺は言った。
「ほら……君、やたらめったら人を助けたじゃないか」
神様は言った。
「あぁ、はい……。
ループから抜け出ようと」
俺は言った。
「ループ? なんのことだい」
神様は言った。
「いや。夏休みがずっとグルグル回って、出られないから人を救いました」
俺は言った。
「それが余計なことなんだよ」
神様は言った。
「えっ。だって人助けって良い事でしょ」
俺は尋ねた。
「あのね。彼らは転生先でやることがあったから、亡くなったんだよ。お陰で大混乱だよ」
神様はお怒りのようだった。
「でも……知り合いとか友達だったら普通助けません?」
俺は言った。
「君、死んだじゃないか」
神様は言った。
「えっ、死んでるんですか? それに、それがなにか?」
俺は言った。
「君は誰にも助けられていない」
神様は言った。
「もしかしたら、助けたのに、助けられてないってこと?」
俺は言った。
「そうだよ」
神様は言った。
「それって助け損じゃないですか?」
俺は言った。
「助け損かどうかはわからないけど、君は彼らにとっては命の恩人でもなんでもないんだよ。彼らは数週間後に死ぬことすら知らないからね」
神様は言った。
「あっ、そっか……」
俺は言った。
「だから君は彼らを救ったつもりかもしれないし、実際、心は救われて命も助かっているのに、恩は感じてない。ただのラッキー程度だよ」
神様は言った。
「そうなんですね」
俺は言った。
なにかすごく寂しい気がした。
「それで……君には、他の人に代わって転生先で仕事をしてもらうから」
神様は言った。
「なんですか? 仕事って」
俺は言った。
「ちょっと過酷な勇者的な仕事かな?」
神様は言った。
「えっ、それは魔王を討伐する的な?」
俺は言った。
「まぁそういう事だね」
神様は言った。
「わかりました。やります」
俺は言った。
「そんなやる気を出されても、強制だからね」
神様は言った。
「これって、もしかして……爺ちゃんとか、茜ちゃんとかがする予定だったんですか?」
俺は言った。
「そうだよ。みんな適性があったのに、よりによって適性のない君になってしまった」
神様は言った。
「あぁでも、爺ちゃんとか、茜ちゃんとか、モデル君とか、みんなはそういう勇者とか興味ないですよ。俺はすごいあります」
俺は言った。
「顔見てたらわかるよ。死んだっていうのに、勇者とかって言ってるのに、そんなに嬉しそうな奴いないよ。なに、気持ち悪い」
神様は言った。
「えっ。キモイですか? いや、中学生だったら、勇者に転生とか、絶対萌えますって」
俺は言った。
「君、みんなは勇者に興味ないって言ったよね」
神様は言った。
「まぁ、たしかに転生したい奴なんて少ないかもしれないですね。特殊ケースかも」
俺は言った。
「あのさ。君、いままでの人生に未練とかないわけ。
普通さ。
テンプレ的にはさ。
ちょっと待って、元の世界に戻してとかなるよ」
神様は言った。
「ないと言ったらウソになりますけど。
勇者枠とか、超レアじゃないっすか。
興奮します」
俺は言った。
「あのね。勇者枠は一応表面上レアだけど。
普通の人の人生も。
もちろん君の人生も、レアなんだよ」
神様は言った。
「そういうのはいいんすよ。勇者は男の子のロマンなんすよ」
俺は言った。
「まぁいいけどさ。元の世界に戻してあげてもいいよ」
神様は言った。
「遠慮しときます」
俺は言った。
「なんか希望ある?」
神様は言った。
「えっ、なんかチート的な能力とかくれるんすか」
俺は言った。
「それはないけど、初期装備にメチャゲリーナって薬草つけるくらいならサービスするよ」
神様は言った。
「それ、まじで欲しいっす。ください」
俺は言った。
「わかった。つけとくよ」
神様は言った。
「うわ。これマジで夢だったんすよ。勇者か。かっけーな」
俺は言った。
「でも勇者って汚れ仕事だよ。保障ないし、労災降りないし、保険もないし、危険手当もつかないし」
神様は言った。
「いや。でも魔物からは略奪し放題だし、ダンジョンでは盗み放題だし。めっちゃ自由じゃないですか」
俺は言った。
「略奪とか、盗み放題とか、それ勇者が言ってはいけないやつだからな。向こうでは黙っておくように」
神様は言った。
「了解しました。あざす」
俺は言った。
「ある者にとってはバットエンドでも、別の視点から見るとハッピーエンドになる。
君の家族や友人にとって、君の死はバットエンドだろう。
しかし、転生先の人々や君にとっては、君の転生は救いであり、
希望のはじまりだ。
君の名がはじめであるように。
君の転生が、この世界のスタートなのだ」
神様は言った。
空間がぐにゃりと曲がった。
俺は少し前まで、死は終わりだと思っていた。
しかし死は終わりでなく、旅の序章だと今日初めて知った。
いや。
実はもう何度も経験しているのかもしれないな。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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