登場人物紹介①
◆ アレン・クロウ(黒瀬 蓮)
前世では日本屈指の医大で准教授を務めた天才医師。冷静な判断力と広範な医療知識を持ち、外科から内科、救急対応までを網羅する万能型の医師だった。だが、彼は同僚の裏切りと権力闘争の犠牲となり、惨たらしい死を遂げた過去を持つ。その最期は「自分が信じていた仲間に殺される」というものだったため、転生後の彼は根本的に他人を信じられなくなっている。
転生後、彼は二十歳前後の青年の姿で目覚める。黒髪に灰色の瞳を持ち、常に冷徹な光を宿すその眼差しは、人々に「近寄りがたい」印象を与える。表情はほとんど動かず、感情を表に出すことは滅多にない。だがその奥底には、前世で救えなかった人々の残影がこびりついており、無意識のうちに「救いたい」という衝動を抱えている。彼自身はそれを認めようとせず、「打算」「金のため」と言い訳をしながら、結局は目の前の患者を見捨てられない。
能力面では「医療魔法」と「超速再生」という二つの特異な力を持つ。医療魔法は、生体組織を癒やし、止血や骨の矯正すら可能とする高度な術式だ。だが万能ではなく、病そのものを消すことはできないため、前世の医学知識と組み合わせて初めて真価を発揮する。一方の超速再生は、自らの身体が異常な速度で回復する能力。戦闘においては強力なアドバンテージとなるが、彼にとっては「死ねない呪い」のようにも感じられている。
性格は冷徹、計算高く、他人との距離を測るのが常。しかし一度医療の現場に入ると、驚くほど的確かつ迅速な判断を下す。目の前の人間を「救える命」として捉え、非情なまでに合理的な処置を施す姿は、人によっては「神」にも「悪魔」にも見えるだろう。闇医者という稼業を選んだのも、表舞台で「人を救う」ことに失敗した自分の選択の裏返しである。
アレンは名を「アレン・クロウ」と変えた。これは、前世の自分を切り捨てると同時に「烏」という死と再生を象徴する存在を自らに重ねたもの。彼は表向き「金のために治す」と言うが、実際には過去の自分への贖罪として医療を続けている。信じられる人間はほぼ存在せず、心の奥底の孤独は常に消えない。だがリアナと出会ったことで、少しずつ彼の頑なな心に変化が生まれつつある。
◆ リアナ
奴隷として生まれ、幼少期から虐待と過酷な労働にさらされてきた少女。年齢は16歳前後、白銀の髪に澄んだ青い瞳を持つ。華奢な体つきで、一見儚げだが、その実、極限の環境を生き延びた生命力を秘めている。アレンと出会った当初、彼女は病と飢えにより瀕死の状態で、まさに「命の灯が消えかけている」存在だった。
救われた彼女は当初、アレンに対しても怯え、常に顔色を窺うような態度をとっていた。長年の奴隷生活で「自分の意志を持つことは許されない」と刷り込まれており、笑うことも、泣くことも、怒ることもできなくなっていた。だが、アレンの治療と共に少しずつ回復していく中で、彼の冷徹な表情の裏にある「本気で人を救おうとする意志」に触れ、次第に心を開いていく。
彼女は医療知識こそ皆無だったが、アレンの助手として働く中で基礎的な応急処置や薬草調合を学び始める。手先は器用で観察眼も鋭く、徐々に「助手」から「共に患者を支える存在」へと成長していく。時に彼女の純粋な視点や発想が、合理主義に偏りすぎるアレンの思考を救うこともある。
リアナの性格は本来、心優しく他者を思いやるものだ。しかしその性格は奴隷として抑圧され、長らく眠り続けていた。アレンとの旅を通じて彼女は「誰かのために動きたい」「自分の意志で生きたい」という感情を取り戻しつつある。彼女はアレンにとってただの助手ではなく、失われた「人を信じる感情」を思い出させる存在となっている。
外見的には目を引く美しさを持つが、それが原因で奴隷商に売られ、数多の屈辱を受けてきた。そのため、彼女は自分の容姿に強いコンプレックスを抱いており、華やかな装いを嫌う。だがアレンの隣に立つようになってからは、彼女の美しさは「弱さ」ではなく「強さ」の象徴へと変わりつつある。
リアナの夢は「自分の意思で未来を選ぶこと」。かつては夢を見ることすら許されなかった彼女が、今はアレンと共に世界を巡り、「救われぬ命に手を差し伸べる」日々を選んでいる。その旅の果てに、彼女自身がどんな存在へと成長していくのかは、物語の大きな鍵となる。