押し寄せる現実と、霞んでいくパイオツ
「前から当たれ!」
俺は大きな声を出した。いきなり先制点を取ったのはいいが、大事なのはこれから、ディフェンスだった。
斎藤プロが放った3ポイントシュートに動揺一つ見せない相手。ゴール下のエンドラインから8番がパスをする。
マークしている5番にボールが渡る。5番がつま先を支点にピボットを踏み、俺の方に身体を向けると、目が合った。
――ヤバいッ。抜かれる。俺はそう思った。しかし5番はパスを出し、パスとランの連携で、俺達から簡単にゴールを奪っていった。
止めようと思っても、全く止める事も出来ない。何回も点数を決められて、あっという間に逆転されてしまった。
一瞬でも気を緩めると走られていて、目を離すと姿を見失ってしまう。ドリブルに反応しても、逆を突かれて抜かれてしまう。止められる気がしなかった。
堅実で一番ディフェンスが上手いダンカンでさえも、赤子のように扱われていた。
地区大会であたるチームとは、判断、走るスピード、ドリブル、動きの全てが早く速かった。県大会の優勝チームの人間と、これだけ差があるのかと肌で感じた。
――ビィーー。
試合が終了した。
「46-12黒田中学。礼」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
負けた……負けた。勝てるとは勿論思っていなかったが、初めてあれだけ必死になって練習した後で戦ったからこそ、単純に悔しかった。
一軍のメンバーは、最初の5分で交代した。
2ピリオドが始まった時には、下級生の練習相手にされていた。それがまた悔しい。
「お前達、今日黒田中と対戦してみてどうだった? 手塚はどう感じた?」
「何も……通用しませんでした」
「塚本は?」
「正直言うと……悔しかったですね」
「皆も悔しかったか?」
皆が頷いた。
「それでいい。お前達が最近、本気で練習していたのは知っていた。本気で練習したからこそ、今日の試合が悔しかったんだろ? その悔しさを忘れる前に練習しろ。見つめ直せ。そして練習しろ! でないと、生おっぱいなんか見れねぇーぞ?」
西野先生がニカッと笑った。
「よし! 黒田中は、この後すぐに東京の中学と練習試合があるらしいから、撤収するぞ!」
「えっ? マジッすか? 俺達はもう終わりっすか?」
「そうだよ」
「もう一回くらいは、試合をするものだと思ってましたよ」
「県大会優勝のチームが、お前等とちゃんと試合をするかよ」
「それじゃあ俺達は一体……」
「アップだよアップ! 練習試合の前のアップにどうですか? って私が提案したら、試合を組んでくれたんだよ。実績がないお前等と普通に練習試合組めるかよ!」
そりゃあそうだけど……。俺達はアップ程度だったのかよ。
「「「「「ありやしたー」」」」」
素早く荷物を撤収し、黒田中に挨拶を終えた俺達は、体育館を出て行った。
――ガタンッゴトンッ。ガタンッゴトンッ。
最寄駅に向かっている電車の中は、誰も喋らず静かだった。今までにこんな状態になった事がなく、俺は戸惑っていた。
そんな中、ある提案を持ちかける。
「なあ皆、どの位お金持ってる?」
急な発言に、皆はキョトンとした顔をしていた。
「今日の試合、俺達は明らかにディフェンスが駄目だった。オフェンスはまだしもディフェンスはクソ過ぎた。5人しかいないからちゃんとしたディフェンス練習も出来ないだろ? だから考えたんだが……」
「まさか手塚部長お前……本気か?」
HPだけが、俺のやろうとしている事に気付いた。
「勿論本気だよ。時間もないんだ。身を削って真剣になるにはこれが一番だろ?」
「ちょっと、二人の話が見えないんだけど……」
「賭けバスケだよダンカン」
「「「!?!?!?」」」
「俺達が朝に会ったコートではなく、高校生とか大学、社会人が多く集まるコートあるだろ? あそこでは、賭けバスケやってるんだよな。3on3で15点先取で勝利のルール。負けたら1000円。やりにいこうぜ」
「ほ、本当に? 僕達中学生だよ? それに僕等、弱いのに……」
「だからやる意味があるんだろ? 金賭けてるんだから、真剣になって戦うだろ? しかも格上の相手と出来る。本気の実戦練習には、もってこいだろ?」
「いいねぇ。その話に俺は乗るぜ! 勝てばむしろ、金もらえるんだぜ? 面白そうだ」
「私もいいですよ。勝てば問題ない。そういう事でしょう?」
「皆やる気じゃん? 俺もやるじゃん!」
「わ、分かったよ……僕もやるよ!」
「次は、津久田西~。津久田西~」
「着いたか。それじゃあ行こうか」
駅から降りた俺達は、そのままコートへと向かって行った。
「ヘイヘイ! パスパス!」
「こっちこっち!」
「ディフェンスー!!」
バスケらしい掛け声が聞こえて来た。
コートで試合をしている人達、周りで見ている人達で随分賑わっていた。
「僕達、今からあの中に参加するの? なんか恐くない? 中学生誰もいないよ?」
「平気だって。多分……」
試合をしていた人達が、どうやら試合が終わったようだ。次に試合する順番とか待ち順とかは適当だ。言ったもん、やったもん勝ちなルールがストリートバスケだ。
斎藤プロがコートの真ん中に向かって行く。
「俺達は、赤西中の中学生だ。賭けバスケをしよう! 誰でも挑戦受けるぜ!」
堂々と宣言した。
「急に何を言ってるんだよ斎藤プロ!」
「いやー。賭けって言葉に弱いんだよな俺! 燃えるぜ!」
「なんだ、なんだ? 中坊が賭けバスケだって? 金持ってんのか?」
大学生? いや、社会人か?
「持ってますよ。ほら」
「なら問題ない。俺達とやろう」
「やりましょう」
「三人しか出られないじゃん? どう決める?」
「これでどうだ?」
斎藤プロがトランプを出した。
「エースのカードが出た人が、試合に出るってのは?」
「それで決めよう」
「皆引いて。せーの」
エースを引いたのは、俺と篠山先生、そしてHPだった。
「あー。俺出たかったなー。手塚部長勝ってこいよ」
「任せろ!」
「中坊だからって、俺達は遠慮しないぜ?」
「遠慮しなくていいですよ? 俺達もそれを望んでるんで」
3on3の試合が始まった。
「先攻やるよ」
「どうも」
ストリートのバスケは普通のバスケとは全く違う。人数もそうだが、コート自体もフルコートではなく、ハーフコートで行う。
ボールを渡された俺は、ハーフライン近くからツーハンドでシュートを放った。
――パスッ。
入った。正直自分でも驚いた。
「へぇ~やるねぇ」
相手にボールが渡り、ディフェンスをする。
しかし、体格があまりにも違い過ぎた。スピードやテクニックよりも、単純な力に圧倒されて押し込まれる。ストリートバスケ特有の荒いプレーにも苦戦した。
「ウェーイ!!」
「「ウェイ。ウェイ」」
結局俺達は、15-8で負けた。
「わりぃー。1000円奪われた」
「何やってんだよ。次は俺に任せろ。ダンカン行くぞ」
「え、すぐやるの?」
「他の奴に取られるぞ」
次に試合したのは、ダンカンと斎藤プロ。そして篠山先生の3人。そうやって交互に試合をしていき、他の人達がプレーしている時は見学し、プレーを参考にした。
夕方まで試合をし、最終的に4000円負けてしまった。お金を賭けた真剣勝負だったからこそ悔しい。さらに皆と雰囲気が悪くなった。
「ごめん……俺が提案したから4000円も取られちゃって」
「手塚部長だけの責任じゃないじゃん。俺達も賛成したじゃん」
「黒田中に負けたよりも腹が立つ。あのおっさん達ずりーだろ! 力技過ぎる! マジで一切の手加減なしだったぜ?」
「大人ってやっぱり力が強いんだね……」
「篠山先生、力負けしてなかったよね。どうして?」
「私ですか? 力を力で対抗したら駄目なんですよ。力同士のぶつかり合いになると、どっちがより強いかという勝負になってしまう。だけど工夫すれば、力で対抗しなくても対抗出来るんです手塚部長」
「言っている事が良く分からないけど……」
「テクニックで対抗しろって事なんじゃん? そうじゃないの?」
「簡単に言えばそうなりますかね」
「そんな事より、次はいつ行くんだ? リベンジマッチしないと気がすまないだろ?」
「今日の反省を活かして練習して、来週また来よう」
帰り道にある大きな交差点に差し掛かると、皆と目が合った。誰かが何か言った訳でもなく、円になると手を出して重ねた。
「こういう時は、部長じゃん?」
「よし、分かった」
「赤西ーー!」
「「「「「OPI!!」」」」」
恥ずかし気もなく交差点で掛け声を上げた俺達は、それぞれの家に向かって歩き出した。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
していただいたら作者の執筆のモチベーション上がっちゃいます。
何卒よろしくお願いいたします。