パイオツの逆襲!
マイボールから始まる第3ピリオド、HPが早速指示を出す。
「ルート55!!」
「斎藤プロ」
「ナイスパスHP!」
カレンのリカバリーが早い。そんなカレンに対して1対1を仕掛けようと前かがみになった斎藤プロ。
上半身を動かして隙を狙っている。
ちょんまげがカレンの顔の前でファサファサと動いて邪魔していた。確実に狙ってやっている。
カレンの顔にちょんまげが触れ、顔を背けてしまったカレンの隙を突いてドライブを仕掛けた。
ゴールに向かってレイアップシュートを狙う。急いで追いついたカレンが並行する。斎藤プロは近付いてきたカレンの腕を巻き込みながらゴールに向かってジャンプした。
「ぐわぁ!」
声を出して身体をよじりながらシュートを放った。
「ピッ!」
笛が鳴り、シュートも決めた。
「ファウル青6番。ワンスロー」
「ラッキー!」
バスケットカウントを奪い取った。悲鳴のような声と罵声がコートに注がれながらも、フリースローもきちっと決めた。
――かっけぇ。俺は心からそう思った。
斎藤プロはギャンブルで勝つ為なら何でもする。こけおどし、ハッタリ、イカサマ以外なら何でも使う。
今のシーンだけを見たら、何て卑怯な奴だと思う人間も多いだろう。だが、違う。俺達だったら分かる。
自分に何が出来るのか? 使える武器は本当にないのか? 斎藤プロの中で導き出した答えが今のプレーだろう。
運も実力のうち……髪型をちょんまげにしたのなんて、たまたまの偶然。だけどそれを使えると気付き、武器として使った。その姿勢がカッコイイ。
「ディフェンスー!」
マークしている駿にボールが渡る。
――膝、膝、膝。
膝を意識すると向かう方角、踏み込むタイミングが伺えた。篠山先生が言っていた事はこういう事か。タイミングを見計らってステップを踏んで止めようとしたが、駿の動きの方が速く、抜かれてしまう。
抜かれては駄目だ。と思った俺は、相手の手を叩いてワザとファウルした。
「ピッ。白4番」
斎藤プロがせっかく決めてくれたのに俺が簡単に抜かれたら意味が無い。止めたいが、どうすればいいのか……。
「お兄ちゃん! 頑張れ!」
その声の方に顔を向けた。コートの近くにある観客席の場所に母さんと佳奈が来ていた。俺と目が合った佳奈は顔を背けて席に座った。
佳奈は足を広げたり閉じたりと繰り返していた。懐かしい……。緊張したり興奮したりするといつもやっていた佳奈の癖だった。
トン、トン、トン。そんなリズムで。
再び駿にボールが渡ると、同じように抜いてきた。
――トン、トン、トン。
頭の中でリズムが刻まれてしまった。
膝を意識して多少良くなった所で、簡単に止める事が出来るものではない。だが、次に何を仕掛けてくるのかが何となく分かる。
――トン、トン、トン。
デジャヴのように抜かれてしまい、またファウルした。
「ピッ! 白4番」
この時、雷に打たれたかの様な感覚を覚えた。今までハマらなかったパズルのピースが、ビタッとはまったかのような。
「手塚部長。ファウル気をつけろじゃん!」
「シッ! ちょっと黙ってHP」
「――#$%&#%&“!」
HPが何か言っていたが、俺の耳には届いてなかった。
俺の予測が正しければ……。
駿にボールが回ってくる。
――トン、トン、トン今だ! ドカッ。
「ピッ! オフェンスファウル青4番」
「しゃあ!」
オフェンスファウルはたまたまだが、タイミングを掴んだかもしれない。
彼が独特だったのは、篠山先生の言う通り武術の要素もあるかもしれないが、タイミング。つまりはトン、トン、トン。とトンで来るのではなく、ワンテンポずれた場所、裏拍の部分で仕掛けてくるからだと気付いた。
そしてそのタイミングが見事にハマった。
――よし!
ファウルのおかげでマイボールから始まる。
「ルート11」
HPから俺に、ダンカンへとボールが渡る。ダンカンはヌルヌルとポストプレイで夢幻と対峙すると、最後は半身になってフックシュートで得点を決めた。
たった一度止める事が出来たらといって、毎回出来る訳ではない。駿からカレン、アレンへとパスが回ると、アレンがドライブで仕掛けて点数を決めた。
「へい!」
俺はパスを貰うとドリブルをつく。ダンカンは俺のすぐ前をゆっくりと動きながら相手のゴールへと向かっていく。そのすぐ後ろをくっつきながら、ダンカンの身体をスクリーンとして使う。
これがドラッグスクリーン。動く岩とでも言うだろうか。岩役がダンカンだ。相手は動きながら邪魔してくるダンカンを避けながらディフェンスしなければいけないので、ややこしい。
日本ではあまり使われていないが、アメリカでは一般的な戦術だった。斎藤プロにパスを出し、俺はスクリーンをかけにいった。
カレンは動きを察知して横目で俺の事を見た。斎藤プロは自分では攻めず、篠山先生にパスを出す。
篠山先生はドライブで仕掛けてシュート体勢に入る。武がジャンプし、シュートブロックを狙った。
「叩き落としてやる!」
シュートフェイクで武を飛ばした後、バウンドパスを出す。そこに走り込んできた斎藤プロがパスを受け取ってレイアップを決めた。
「ナイッシュ!」
前線から当たる。駿はドライブせずにボールを捌く。受け取ったカレンが仕掛けていく。斎藤プロは頑張って付いていくが、カレンのスキルに翻弄される。
わざわざやらなくてもいいスキルを見せつけ、バックロールで斎藤プロを抜きにかかった。
その瞬間――近くに居たHPがボールをカットした。
小さくバウンドしてサイドラインを越えそうなボールにHPが飛び込み、ラインギリギリでボール保持した。
「へいへいHP! ナイスパース!」
パスを貰った俺はドリブルで攻めていく。反対側のコーナーにダンカンが静かに構えていた。俺は自分でゴール狙いに行く素振りを見せ、夢幻がカバー入った所でダンカンにパスを出した。
3ポイントラインの外にいるダンカンはゆっくりと構えて、シュートを放った。
――バスンッ。スリーポイントを決めた。
――ビィーー。
「タイムアウト青」
東中がタイムアウトを取る。32-44。
「相手……流石じゃん……。まだ点差があるのに、タイムアウトで俺達の流れを止めにきたじゃん。せっかくいい流れだったのに」
「よく分かっとるじゃねえか。次の1本はかなり重要だぞ。死ぬ気で止めにいけ!」
「「「「「はいっ」」」」」
「堀内、大村の所から攻めてくるようだったら出来るだけカバーしてやれ。堀内のマークしている相手は、今まで得点しとる所をあまり見た事がない。完全にフリーにするのは駄目だが、多少はフリーにして構わん」
「分かりました」
「上の3人はしがみ付いてでも止めていけ」
「「「はいっ」」」
「篠山先生の言う通りだったよ。膝を気にしたら止める事が出来たよ」
「膝は嘘をつけないからな。全ての動作は膝が重要と言っても過言じゃない。だから剣道、合気道なんかは膝の動きが分からない様に袴を着ているだろ? 侍なんかもそう」
「なるほど。助言のおかげで突破口が見つかったよ」
――ビィーー。
タイムアウトが終わると、東中は不自然な位置のフォーメーションを取る。
「5、4、3、……!」
アレンがそう発すると、一斉に動き出した。それぞれがスクリーンを使ってマークを外そうとする。アレンは駿にパスを出し、駿はダイレクトで夢幻にパスを出した。
ポストプレイでダンカンを押し込んでボールに近付くと、無理やりこじ開けてゴールを狙おうとしたが、カバーに入った篠山先生が夢幻のシュートをブロックしにいった。
夢幻はギリギリの所でノーマークになった武にパスを出した。武がゴールを狙いにいくが、着地と同時に体勢を変えた篠山先生が飛び込んだ。
「しねオラァー!!」
罵声を上げて武のレイアップをはたき落とした。
ルーズボールを拾ったHPがドリブルで攻めていき、はたき倒したゴール下から駆けこんで来た篠山先生にパスを出した。
武にディフェンスされていても関係なく、相手ゴールへと突っ込む。
「しねぇー! ボケが!」
身体を思いっきりぶつけながら篠山先生はシュートを決めた。着地した後に武を睨みつける。
「チッ! 駿。俺に貸せ!」
駿はカレンにパスを出した。
カレンは自分でボールを運び、自分で攻めていく。周りにパスするような素振りは見せず、ゴールへ向かう。斎藤プロはギリギリ付いていっているだけで、ディフェンスとして機能はしていない。
カバーに入ったダンカンと斎藤プロで止めようとするが、カレンは2人を躱してゴールを狙おうとした時だった。
「ピッ! 白6番ツースロー」
斎藤プロがカレンの腕を叩いてシュートを止めた。カレンは2本のフリースローを獲得し、1本目は外して、2本目は入れた。
ダンカンにパスを出してダンカンに運ばせる。俺は邪魔するようにダンカンの前をゆっくりと走り、ドラッグスクリーンをかける。
俺を上手く使うダンカン。夢幻はやはりガードを守るような動きに慣れていない。ダンカンがHPにパスを通した。
HPは指示を出して篠山先生にスクリーンさせる。ドライブを仕掛けるのかと見せかけ、その場で3ポイント放った。
汚い放物線を描いて飛んでいく。
――ガシャン。ガタッガタッ。
リングに3回当たったが、HPのシュートはネットを揺らし、HPは小さくガッツポーズをした。
カレンがアレンにパスを出す。アレンは体勢を低くしてHPに対して1対1を仕掛けた。HPはアレンのドリブルスキルによって身体を振られて尻持ちをるく。余裕を持って得点を決められた。
「66!」
HPの指示を聞いた俺と斎藤プロがスクリーンをかけにいく。ダンカンと篠山先生がスクリーンを使う。HPがパスを出し、受け取った篠山先生が仕掛けた。
鋭いドライブで武を抜き去る。まるで駿のようなドライブだった。そのままシュート決める。
徐々に点数が縮まっていく。それでも第2ピリオドで広がってしまった点数を完全に埋める事は出来なかった。
東中の攻撃を止める事が出来るようになったが、厳しい戦いに変わりはなかった。
――ビィーー。第3ピリオドが終わって46-52。
「はぁ。はぁ。はぁ……」
俺も含めて全員が苦しそうに呼吸をしていた。それもそうだ。後先考えずにアクセル全開で走りっぱなしなんだ……。
汗が流れてきて鬱陶しい。拭いても拭いても湧きでてくる。
「呼吸を整える事に集中しろ。水分は取り過ぎるなよ? 苦しいか? 苦しいだろう。だけど相手も苦しいんだ。お前らよりもずっとな……後8分だけだ! 8分間走り切ってこい!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「こんな所で終わるタマじゃないよなぁ? えぇ? 逆転する所、見せてくれるよな!?」
「「「「「はいっ!」」」」」
――ビィーー。ブザーが鳴った。
「あかにしーー!」
「いけいけ赤西! おせおせ赤西!」
「行けオラァ! 負けんなよ!」
2階席では女子バスケ部全員で応援してくれていた。声援が力になるというのは、どうやら本当らしい。いますぐにでもぶっ倒れたい気分だが、気分が上がってきた。
「お兄ちゃん頑張れー!」
俺達は円陣を組む。汗でビショビショになった背中に手を回した。ここまでくると何も言う事はない。後8分間に全てを出し切るだけだ。そう、『おっぱい』の為に。
「あかにしーー!」
「「「「「OPI!」」」」」
最後の第4ピリオドが始まる。




