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パイオツの壁

 第3ピリオドに入り、ダンカンと篠山先生が躍動する。


「ダンカン!!」

 俺がディフェンスでペイントエリアへと追い込むと、ダンカンがカバーに入りブロックしようと飛んだ。

 それを察した相手のガードは味方にパスを出すが、そこには篠山先生が待ち構えていてカットした。


「HP!」

「斎藤プロ!」

 篠山先生からHPに、そして斎藤プロへとボールが渡った。3ポイントを放とうとした斎藤プロにブロックを入る。フェイクからパスをした先にはダンカンが走り込んでいて、そのままレイアップシュートを決めた。


「ディフェンスー!」

 ダンカンが大声を発した。珍しい事で、初めて聞いたかもしれない。


 前から相手にプレッシャーをかけていく。相手はドリブルよりも素早い連携とパスで繋いでくるが、パスをキャッチするタイミングで篠山先生は奪い取る。

 どうやって取っているのかさっぱり分からないが、篠山先生はボールを奪い取るのが抜群に上手かった。


「速攻!!」

 掛け声で俺はゴールへと向かってダッシュした。斎藤プロやHPも走り出す。篠山先生はサッカーのスローインのようにオーバーヘッドパスで前線へと送ってきた。

 そのパスを受け取った俺は、レイアップしようとジャンプした。俺をマークしている4番も同じように飛んでカットを狙ってきた。


 体の後ろを通すビハインドパスでコーナーにいるダンカンにパスをした。ダンカンはしっかりと構えた後、ボールを持ちかえて綺麗なフォームでシュートを放って3ポイントを決めた。


 俺達が本気になってから一番成長したのは恐らく篠山先生だろうと思っている。そしてディフェンスが化けたのはダンカンだ。本人が大好きな選手、ティム・ダンカンもディフェンスが化け物だった。ただ華やかさはなく地味なので凄さが伝わりづらい。

 赤西中のダンカンもまさにそうだった。パッと見はボーっとした見た目で強者のような雰囲気はない。動きが速い訳でもなければ、あっと驚く様なテクニックがある訳でも、ダンクが出来る訳でも、おかしな運動能力がある訳じゃない。

 だけど、ディフェンスされるとやりづらくオフェンスも守りづらい選手になった。


 1対1の練習をしていて、おかしな能力を発揮していたのが篠山先生だった。オフェンスもディフェンスも独特なタイミングを取る事が多く、目で見て頭では分かっているのに体が動かないという、金縛りに一瞬かかるかのような事が多々あった。

 

 それが一体なんなのか、篠山先生に聞いてみた事があった。


 篠山先生が言うには、人間にはどうしても油断してしまったり、動けないタイミングというのが存在するという。武道を極めた人はそういった隙を突く事が多いのだとか。

 相手の呼吸と筋肉が動くタイミングを覚え、そのタイミングに合わせると相手の虚を突く事が出来るのだそう。そしてタイミングをずらすと、相手は一瞬動けなくなったりするだと話してくれた。


 何を言っているのかさっぱり分からなかったが、実際にやっているからそういうものなのだと勝手に理解した。

 初めて対戦した相手は何をされているのか分からず、きっとパニックになっているだろうと俺は思っている。


 チームが強くなったのは全員の成長は勿論だが、この2人のえげつない進化による貢献が大きかった。


「ダンカン!!」

 パスを受け取ったダンカンはぬるりと体を動かしてフックシュートを決めた。


 ――ビィーー。第3ピリオドが終わって45-53。8点差をつけて勝っていた。



「はぁ……はぁ……このまま最後まで行こう」

 俺の言葉に皆が頷いた。


「最後のピリオド、相手は攻撃パターンを変えてくるだろう。前線に居る3人気を引き締めろよ! お前達の所から攻めてくるぞ。分かっとるな? 最後のブザーが鳴るまで気を抜くなよ!?」

「「「「「はい!」」」」」


「私からは特にない。最後まで走って走り勝ってこい!」

「「「「「はい!」」」」」



 ――ビィーー。

 俺達はコートの中へと入る。


「ディフェンス!」

 相手ボールが始まった。俺がマークする4番がボールを持った。


「スクリーン行ってるぞ手塚部長!」

「オッケー」

 右耳からHPの声が聞こえ、チラッと右を確認するとスクリーンをかけようと向かってきていた。

 チラッと見たその一瞬にドライブを仕掛けられ、左側を抜かれた。


 ――マズイ。

 そう思った時には、ジャンプシュートの体勢に入っていた。


 身体が斜めにしながら精いっぱい腕を伸ばした篠山先生が、シュートブロックに入っていた。篠山先生の手を越えながら放物線を描く。


「触ったー! リバウンドー!」

 篠山先生の声に反応してリバウンドに備える。


――ガコンッ。リングの手前に当たってシュートが外れた。

オフェンスリバウンドが3人居る中で、ダンカンが競り勝った。


「斎藤プロ!」

「ナイスパース! 手塚部長!」

「ナイッス」

 先に走っている篠山先生にパスしようした。この時、俺の中でインスピレーションが湧き上がった。

 リング目掛けてパスを出した。それを見た篠山先生は走るスピードを上げた。


 篠山先生はその勢いのままジャンプし、ボールを片手でキャッチした。よもやそのままダンク、アリウープが出来そうな程飛んだが、無理にジャンプしたのか体勢を崩した。篠山先生はその体勢で手首を返してボールを放るとゴールに入れた。


 篠山先生に向かってグータッチするように拳を出した。それを見た篠山先生は首を横に振りながらやれやれといったジェスチャーをして、俺のグータッチをシカトした。

 その反応にフッと笑みがこぼれた。


 決して余裕がある訳ではないが、試合をしている事が楽しかった。

 俺達らしいリズムとスタイルに引き込んで試合を展開する。


 相手も精いっぱい抵抗してきたが、第4ピリオド中に返される事はなかった。



――ビィーー。試合を終了するブザーが鳴った。63-73で勝利した。

「礼」


「「「「「ありがとうございました」」」」」

 礼をして顔を上げると、相手の4番は涙を流していた。

 彼らにとっては中学最後の夏が終わったのだ。そういう感情になるのかもしれない……。


「良くやった。この後やる試合で勝った相手が次の対戦相手になる。2階に上がって観戦しておけ」

「「「「「はい」」」」」


「まさかお前達が、あんなふざけて弱かった奴らがここまで来るなんて正直驚いている。ここまで来たら次も勝てよ」

「「「「「はい」」」」」


 俺達は荷物を持ってベンチを空け、コートから出ようとする。次の試合はどうやらめぐみに抱きついた奴が居る中学、東中のようだった。

 アップしている中には、朝に会ったカレンとアレンが居た。


――ドタッ。よそ身をしていたら誰かの体に当たってしまった。

「すいま――」

「いってーな! テメー殺されてーのか? あぁぁ?」

 こんな場所には場違いだと思うほどの昭和のヤンキー丸出しのリーゼント男が、ユニフォームのズボンに両手を突っ込んで俺を見下ろしていた。


「すいません」

「喧嘩売ってんだろおめぇ!!」

 胸で俺の事を押してきた。


「やめなさいたけし

「うっせーな夢幻むげん

 夢幻と呼ばれた男は、武の肩を掴んで止めてくれた。


「ウチの武が申し訳ありませんでした」

「いや、いえ……」

 中学生でスキンヘッド。しかも筋肉がムキムキで威圧感が凄い。そして見た目に似合わず低姿勢な態度にきょどってしまった。


「試合前に一体何をやっているんだ?」

 サラサラな髪をなびかせ、腹が立つ程のイケメンが近寄って来た。上半身に来ているユニフォームには4番の数字が。

 ――こいつが東中のキャプテンか。


駿しゅんさん。武がまた喧嘩売っていたので止めていました」

「今回はちげぇーって駿! 相手がぶつかってきたんだよ!」

「おい武。ここはバスケをする場所だぞ!? 誰がお前みたいに喧嘩を吹っ掛けるんだよ」

 駿と呼ばれた男は俺の前に立った。


「気を悪くさせたらすまない」

 そう言って頭を下げた。


「べ、別に大丈夫ですよ……」

「おーい! 手塚部長なにやってんだよ! 早く行こうじゃん!」

「お、おう。じゃあそれでは」

 俺はその場を後にして2階へと上がった。


 着替えを終えた俺達は、東中と多々たたら中の試合を観戦する事にした。勝った方が次の日、俺達が戦う相手だった。


 東中は金髪のアレンとカレン、リーゼントの武とスキンヘッドの夢幻も出場していた。そして4番を付けていた駿の計5人が、スターティングメンバーだった。


 東中と多々良中の試合が始まると、たった8分間で決着が着いた。

1ピリオドが終わって23-3。東中がリードしていた。誰がどう見ても実力差があり過ぎる。いくら強いとは言っても、県大会で勝ち上がってきた中学校をここまで圧倒出来るものなのか。


 観戦しておいて良かった。隣を見ると、HPは真剣に試合を見ながら録画もしていた。


「うお! うまっ!」

 思わず声が出てしまった。


 4番を付けている駿のポジションはガードで、ドリブルでボールを運び、攻撃の起点になっていた。

 ドリブルのスキルは高いし速い。ドリブルしている最中でも味方がノーマークになると、どこからでもパスを出してパスを通していた。


 そんなパスを受け取ったカレンが個人技でゴールを量産していた。めぐみに抱きついた時は何てクソ野郎だと思ったが、バスケの実力は本物だった。

 カレンが止まると、いいタイミングがいい場所に待ち構えるアレン。コンビとしてバランスが良かった。


 夢幻にパスが通ると、筋肉でゴリ押すポストプレイをしてゴールを決めていた。ただ力が強いって訳でもなく、技も巧みに使っていた。

 ヤンキーの武は得点には絡んでなかったが、ディフェンスとリバウンド力が凄かった。特にオフェンスリバウンドをあれだけ取る奴はそうそういない。


 はっきりと強い! そう断言出来た。


 第2ピリオドが終わるとスタメンは全員ベンチに下がった。後半は下級生が戦うようになってやっと試合らしくなったが、多々良中は完全に心が折れていた。

「HPは東中の実力を知ってたの?」

「去年の動画は観たけど、今年の5人は初めてじゃん」


「ちょっと……黒田中よりも強くありませんか?」

「めぐみちゃんにあんな失礼な事する奴は俺が潰してやるよ」


「どっちみち東中に勝たないと決勝リーグには行けないんだ。勝たないと……俺達のOPIには届かない。それだけだ」

「手塚部長の言う通りだよ。僕達がやってきた事を出すだけだよね! HPがまた対策を立ててくれるでしょ?」


「……さあな……今の所ビジョンが見えないじゃん……」

「チッ。ジョーカーかよ……嫌な予感がするぜ全く……」


 ――ビィーー。76-32。

 東中の圧勝で終わった。


 観戦が終わり、郡司達も無事に勝利して明日へと繋げた。帰りのバスに乗り込むと、2試合もしてきっと疲れのだろう。斎藤プロとダンカン、篠山先生は乗るなりすぐに寝てしまった。HPはさっき録画した東中の動画を穴が開くほど見つめていた。


「実際どうなの? やれそうなの?」

「やれるって?」

 俺は他のメンツが起きていない事を確認した。


「HPから見て勝てそうなのか? って事だよ」

「それを聞いて、どうするつもりじゃん?」

 俺の事を横目でギロリと睨むHP。


「勝ちたくないのか?」

「勝ちたいに決まってるだろ。何の為にここまで来たんだよ」

「その通りじゃん! あの時のテンションで明日の戦いに臨む事が一番大切じゃん。後の細かい作戦や相手の弱点なんかは俺が見つけてやるじゃん」


 HPのそんな言葉を聞いて頼もしいと思った。おっぱいを見たいと決意して全中を目指してから、いや、その前からだって部長らしい事なんて何1つした事がなかった。

 一番部長らしい事をしているのは、HPではないかと心の中では思っていた。


 一度位は部長らしい事をしたいと考えたが、部長らしい事というのは一体何なのだろうか……。


 知らぬ間に俺も寝てしまって、学校に到着して目が覚めた。学校の門の前で解散し、家路に着いた。



「ただいまぁ」

「お帰り傑。食事が出来てるわよ」

「分かった」

 2階の部屋に荷物を置くと、リビングに向かった。


「あれ? なんか今日豪華じゃない?」

「一応、バスケ部引退のお祝いよ。これからは受験頑張らないとね!」

 母さんが笑顔でそう話した。


「いや、まだ負けてないけど……明日もあるよ」

「「えっ?」」

 母さんと佳奈が声と共に驚いた顔を見せた。


「勝ったの?」

「うん。明日勝てば決勝リーグだよ……そこでも勝てば今度は関東大会だから。いただきまーす!」

「ちょっと待って。あんた達のバスケ部が県大会勝ち進んでるの?」

「そうだよ佳奈」

「信じられない……」

「おい佳奈、ご飯がこぼれてるぞ」


 食事を終えて風呂に入った俺は、9時前には就寝し、次の日を迎えた。





「面白かった!」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


していただいたら作者の執筆のモチベーション上がっちゃいます。


何卒よろしくお願いいたします。



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