揺れる思いと揺れる戦い……パイオツの為ならば
「今まで戦ってきたチームとは違う相手だぞ? 分かっとるな?」
「「「「「はい」」」」」
「お前達が超効率重視の戦術を使っているが、相手は超非効率な戦術を全員で使ってくるような感じだ」
「無駄な動きが多いって事ですか?」
「分かり易く言ってしまえばな。動きまくる事で相手をジリジリ削っていき、体力が無くなる後半で攻めるってイメージだな」
「大田中の試合を観ているから、なんとなくは分かってるじゃん。とにかくよく走るチームじゃん」
「お前達もかなり走るチームになったが、それよりも走るだろう。ワシが言いたい事は分かるな?」
「走り負けるなって事ですか?」
「そういう事だ。走り負けるなよ! 行って来い!」
「「「「「はい」」」」」
「試合中にキツくなったら思い出せ。何を目指してるんだ? どこを目指してる? こんな所で負けていいのか? 目標を思い出せ! お前達はしっかりとした目的があるだろ?」
――目標か。勿論おっぱい……おっぱい……おっぱいの為だ!
「「「「「はい」」」」」
俺達はベンチから立ち上がって円陣を組む。いつもより力が入る。
「「「「「OPI! OPI! おれたちーのOPI!」」」」」
「「「「「OPI! OPI! 夢と希望のOPI!」」」」」
――ビィーー。
「これより赤西中と大田中の試合を始めます。礼!」
「「「「「おねがいしゃす!!」」」」」
想像していたよりも大田中の身長が低いメンバーで構成されていた。ダンカンをマークすると思われる8番も、180センチなかった。
俺をマークする4番も160センチちょっとの身長。県大会に出場しているチームとしては平均身長が低かった。
――ティップオフ。ダンカンが負けた……。
相手の6番にボールが渡ると、俺がマークしている4番にパスが渡り、すぐさまドライブを仕掛けて来た。
速い……。
細かいテクニックと緩急を使ってくる。身長が低くスピードが速く、細かなドリブルをしてくる相手をディフェンスするのは難しい。俺が一番苦手とするタイプだった。
そのままゴールへと進んで行くのを体で止めた。体を当てられ、踏ん張った事で一瞬の隙が出来てしまった。相手はその隙を縫ってフェイダウェイシュート打って決めた。
――チッ。
簡単に止める事が出来るとは思っていないが、面倒な試合になりそうだと感じていた。
「ディフェンスーー!」
相手は俺達と同じで前線からディフェンスをしてくる。それもかなり激しく。エンドラインからパスが出て、パスを受け取ったHPはとても嫌そうだ。圧力に気圧されていた。
「HP! へいパス!」
パスを貰いにいったが、左腰辺りからニュルっとディフェンスが現れて、キャッチした瞬間を狙われてボールを弾かれた。ルーズボールになったのを大田中に取られてしまった。
フリースローライン辺りで取られ、ドライブしてすぐにシュート狙いに来ると思ったが、パスしてボールを外に戻すと、その離れた場所からシュートを打った。2ポイントではなく、わざわざ3ポイントを狙ってきた。
――バスッ。スリーを入れられた。
なるほどなるほど。自分達と戦っているみたいだ。プレイスタイルが本当に似ている。そして相手にしてみて分かったが、すげぇ面倒くさい。
「HP! へい!」
エンドラインからパスを貰う。ドリブルして抜こうとすると、向こうから篠山先生がパスを要求しながらこっちに走ってくる。
篠山先生がああやってパスを要求してくるなんて珍しかったので、パスを出した。
パスを受け取った篠山先生は、着地と同時にくるりと体を上手く使って相手を抜いた。そのまま自分でボールを運んでいく。大田中の戻りが速く、全員が戻り切ってディフェンスを構えていた。
篠山先生はそんな様子を見て中へとは切り込まず、3ポイントを放って決めた。
俺達も負けじとオールコートでディフェンスをする。相手の切り替えは早く、ドリブルやパスを駆使しして、俺達のディフェンスを崩していく。余裕を持たれて攻められているように感じた。
相手はスクリーンプレイを多用する。技術はあるが一人で無理にドライブで抜いて来たりそういった事はしてこなかった。パスも簡単に通るように動き、チーム全体が連動しながら俺達を攻め立てる。
そして少しの隙が出来るとそこを突いてシュートを狙ってくる。個人技や無理に攻める様な事はしてこないからこそ、あまり隙がなく、接戦になると俺は思った。
実際に試合はシーソーゲームになり、5点差以上つく事がなかった。
2ピリオドが終了した時点で35-32。3点差で負けていた。
「前半で3点差か……上出来だろう。後半が勝負になるのは分かっとるな?」
「「「「「はい」」」」」
「相手の方が一枚上手なのは間違いない。特にディフェンスの完成度は県内でも随一だろう。身長が低いから通用しない場面が出てくるというだけだな。走り負けている訳でもないが、走り勝っている訳でもない……塚本どうするんだ? 対策は考えとるのか?」
「いえ、元々真っ向勝負でぶっ潰そうと思っているじゃん」
「ハッハッハ、潔いな! だが、今のままでマズイのも事実だ! どうするんだ?」
「俺の中では本当に考えてなかったじゃん」
「大村と堀内どうだ? お前達2人をマークしているディフェンス甘いんじゃないか? 特に大村は、大村の方が圧倒的に実力が上だと見えるがどうだ?」
「甘いといいますか……僕との相性が良い様な気がします。ディフェンスし易いですし、オフェンスもし易いです」
「私も、ダンカンと同じですね。やり易いです」
「ワシが外から見てもそう見えとったからな。だからこそこういうのはどうだ?」
竹じいが作戦ボードを取り出して説明し出した。
「前線に居る3人はディフェンスしている時、出来るならビックマンにパスを出させろ。2人なら簡単に止めてくれるだろう。もしパスを出させるのが難しいなら、ドライブは外側ではなく内側へ内側へ追い込め。追い込んだ所を大村か堀内がカバーして、シュートかパスをカットしろ」
竹じいは作戦ボードで簡単に説明しているが、やろうとしている事は2人の負担が大きく、かなり高度な事を要求していた。
「竹じい。でもこれって一瞬ダブルチームみたいになるから、一人がノーマークになっちゃうじゃん」
「そこはこうやってこう……ローテーションするんだ。間に合わない場合、堀内か大村がこんな風にして2人を同時にディフェンス。堀内と大村の2人のバスケットIQの高さとディフェンス力に依存する作戦だがな。どうする?」
俺達の目を見た。竹じいは決して命令はしないし、押し付けもしない。最終的な判断はいつも俺達に委ねる。
「僕はやってみたいです」
「いつも前の3人が頑張ってくれていますからね。不安はありますが、やりましょう」
「面白いのは大歓迎だよ。スペードのキングか……ラッキーだな!」
「ダンカンと篠山先生がディフェンス上手いのは知ってますからね。俺も賛成ですよ。でも……HP……」
「後は塚本だけだが? どうする?」
「俺達の負担が2だとしたら、ダンカンと篠山先生の負担が10って感じだけど、2人は本当にそれでいいの?」
2人は静かに頷いた。
「なら何も言わないじゃん! このままでもジリ貧になりそうだし、竹じいの作戦に乗っかるじゃん」
後半に入る前にもう一度円陣は組んだ。
「HPいいのか? 真っ向勝負で破るんじゃなかったのか? 竹じいの案に乗ったら真っ向勝負じゃなくなるんじゃないか?」
「俺が間違ってたじゃん。地区予選勝ち上がって県大会に出て、1回戦も難なく勝って調子乗ってた……正々堂々戦って勝てる程、俺達の完成度は高くないって思い出したじゃん。全ては邪道から始まってる。邪道で突き進んでこそ俺達じゃん」
確かにその通りかもしれない。試合に負けて取り返しがつかなくなる前に気付けて良かった。そして、自分の過ちにすぐに気付いて修正できるHPはやはり凄い奴だと思った。
「手塚部長、後半は僕にパス回してよ。点決めてくるよ」
「おっけー!」
「勝とうぜ」
「「「「しゃあ」」」」
「あかにしーー!!」
「「「「「OPI!」」」」」
「面白かった!」
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