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試合の行方

「はぁ。はぁ。はぁ」

「HP……大丈夫か?」

「大丈夫じゃん。後半もちゃんと戦えるだけの体力は残ってるじゃん。それにしてもめぐみちゃん、映像で観た去年の全中よりも遥かに進化しているし……今まで実力隠してたのかよ……」


「私達に本気になる必要がなかったですからね」

「そっか、そうだな……あんだけ化け物だったら、初めからそう教えといてくれじゃん。ヤバ過ぎるって」


「このままだと良くない流れだ。5番の調子がどんどん上がっとって、連動するように相手チームの調子も上がってきとる。塚本どうなんだ? 後半やれるのか?」

「任せて下さい。3ピリオド始まってすぐに、めぐみちゃんにはベンチに下がってもらうじゃん。始まったらすぐに俺にボールくれ手塚部長」

「分かった」


「チッ。出て来たのはジョーカーかよ……後半は程々に頼むよ手塚部長」

「了解」

「それなら僕にボール回してくれる?」

 ダンカンからそんな提案をしてくるなんて珍しかった。


「フックシュートを実戦で使ってみたいのと、僕のマーク甘くなってきているから点を取り易いと思う」

「オッケー頼んだ」

「うん」


「いい感じで本気になってきたな。どうだ? 試合が楽しくなってきただろ?」

 

西野先生にそう言われてハッとした。確かにどこかで楽しんでいる自分が居たからだ。ゲームしていたり、漫画を読んでいる時のような楽しさではなく、初めて経験する感覚だった。


 苦しいし辛い、だけど楽しい。そんな矛盾している感情……。

 もしかしたら俺は、考えている以上にМなのかもしれない。


「先生」

「どうした?」

「中々楽しいっすよ。痺れるっていうんですかねこれが」

「手塚はそう感じているのか。他はどうだ?」

「面白いです」

「キツイじゃん」

「ラッキー」

「先生、素敵です」


「ハッハッハ。そう思える余裕があるなら平気だな。そのまま楽しんでいけ」

「「「「「はいっ」」」」」


「そろそろ時間か? 他に言い残した事はないか?」

「特にないです」

「よし行ってこい」


 立ち上がった俺達は、円陣を組んだ。

「あかにしーーー!」

「「「「「OPI!!」」」」」


 ――ビィーー。


「ヘイ!」

 ボールを受け取った俺は、ゆっくりとドリブルをついていく。早速HPが俺にアイコンタクトをして、ボールを要求する。

そんないきなりで大丈夫なのか? 俺はそんな感情をアイコンタクトで送ると、HPはニコッと笑ってウィンクした。強めにパスを出した。


「88!」

 HPの声に反応した斎藤プロと篠山先生、そしてダンカンが動き出した。俺はコートの右端に寄って、邪魔しないようにした。


 ダンカンのスクリーンを上手く使った篠山先生と斎藤プロがノーマークになる。HPは2人のどちらかにパスするのではなく、自らドライブしてぶち抜いた。そのドライブに反応したのはめぐみだった。

 ゴールへと向かっていく。ボールを両手で持とうとしたHPは、めぐみの腕をわざと絡んで、大げさな動きと声を出してボールをこぼした。


 ――ピッ!

「白5番。ツースロー」

審判の笛が鳴った。


「ちょっと審判!! どこ――」

 めぐみが声を上げた。それをすかさず郡司が止めた。


「駄目メグ!! テクニカル取られる!! 手上げて!!」

 めぐみは見た事ない形相で手を上げながら、HPの顔を睨みつけていた。


 ビィーー。

「交代。白5番」

 めぐみがベンチに戻っていく。


 HPがどうやってファウルを誘ったのかは分からないが、こちら側から見たら完全にファウルだった。そして笛を吹いた審判もこちら側に居たのだ。

 まさかな……。いや、HPならあり得るか?


「切り替えて! まだ試合は終わってないよ! ディフェンスからだよ!」

 郡司はキャプテンとして皆に声をかける。しかし、俺達にとってチャンスなのは間違いない。


 HPは1本目を決めて、2本目を外した。そのボールをダンカンがリバウンドする。

 コーナーに待ち構えていた篠山先生にパスを出すと、篠山先生は3ポイントを決めた。

 

 40-30。

 エンドラインから郡司がパスを出した。


「あんた達、そんな卑怯な事までして私達に勝ちたいの?」

「卑怯? 何が?」

「卑怯な手でメグをファウルトラブルに巻き込んだでしょ?」

 郡司の事はずっと凄い奴だと思っているが、今の発言には流石にイラッとした。


「郡司お前、すげー奴で尊敬してるけど、現状をちゃんと理解した方がいいよ」

「はぁ?」

「めぐみちゃんは4つのファウルで、点数も負けてる。現実をちゃんと見ないと簡単に負けるぞ?」

「馬鹿言わないで! 勝つわよ」


「俺達は郡司達の事を一瞬たりとも侮っていないし、今日だって作戦と対策を立てて、全身全霊で挑んでる。郡司は俺達をずっと侮ってるだろ? 別にそれは構わないが、お前が今の現実に目を背けたら駄目だろ?」

「はぁ!?」


 点数を入れられてすぐにボールが運ばれ、篠山先生が高めにパスしてきた。思いっきりジャンプしてギリギリ届く。

 俺は反対に走りこんだ斎藤プロにパスを出す。斎藤プロはシュートフェイクしてダンカンにパスを出し、ダンカンがそのままシュートを決めた。


「今日は勝たせてもらうから郡司」

 ――ビィーー。

「タイムアウト白」


 相手がタイムアウトを取り、ベンチに戻って水分を補給する。

「なにやってんだ郡司! 分かってんのか!?」

 反対側のベンチで怒号が飛ぶ。橘先生が大声を出して怒っている姿を初めて見た。


「こっちを見ろ! あっちはあっちだ。お前達は自分達の事に集中しろ」

「「「「「はい」」」」」


「5番を封じ込める事が出来たのは上出来だ。だからこそ、ここで点差を離せ。これは出来ればという事ではない。3ピリで勝負を決めてこい」

「何点、何点差つけてくればいいんですか?」

「20点だな。今が42-32でちょうど10点差」

「オフェンスは上手く機能しているから、ディフェンスをしっかりやって相手を止めないとな!」

「それを言うならめぐみちゃんがベンチに下がった今、手塚部長のディフェンスが鍵だぜ」

「勿論、郡司を前で止めるよ。ガンガンプレッシャーかけるから、パスカット頼む」

「分かりました」

「分かったよ」

「了解じゃん」

 ――ビィーー。


 俺はギアを1つ上げた。マラソン大会でスタートと同時にダッシュするかのように、郡司にプレッシャーをかける。ボールを持った郡司はそんな俺のディフェンスを嫌がっているように見えた。

 めぐみがいない事で郡司だけに集中出来た。何もさせないようにしつこいディフェンスをする。バスケじゃなかったらこんな動き、変態として通報されるだろうきっと。


 郡司は何も出来ずに居た。


 ――ピッ!

「5秒バイオレーション。青ボール」

「しゃあ!」

 マイボールになった。


「エリア51!」

 指示通りにフォーメーションを組み、一度に動き出す。HPは篠山先生に高いパスを出すと、篠山先生はジャンプして空中でキャッチし、空中にいる間にタップシュートで得点を決めた。

「ナイッスー! ディフェンス!」


 そのまま前からディフェンスをする。俺の勢いに感化されたのか、皆のディフェンスに熱が入る。パスコースと動きを全て潰していた。


――ピッ!

「5秒バイオレーション。青ボール」

 続けてマイボールを得る事が出来た。


「エリア21!」

 ボールを出すHPを基準に縦一列に並ぶ。

「GO!」

 号令と共に、順番に動く。最初に動いたダンカンにパスを出し、ダンカンが決めた。

 46-32。


「ディフェンスー!」

 気合いを入れて頑張っても、そうそう何度もバイオレーションを取れるものでもない。ドリブルではなく、パスで繋ぐ事に切り替えた相手に翻弄される。

しっかりと連携の取れたパスで、俺達のディフェンスを掻き乱す。


 竹じいは20点差つけろと言ったけど、めぐみがいないからといってそう簡単にそんな点差をつけられる相手ではない。一人一人の完成度が違い過ぎる。

何故対抗出来ているのかと言えば、対策をちゃんと立てた事と俺達が男であるという事でしかなかった。もし郡司達が男だとしたら、きっとボコボコに負けていたと思う。

 

 だとしても、負ける訳にはいかない。


 ここへきてHPが資料まで作って最初に言った戦術が効いてきた。3ポイントを主軸にして戦う事の本当の意味が。

 俺達は5本、郡司達も同じ5本のシュートを決めたが、俺達は15点、そして女子チームは10点。同じ5本だとしても、これだけで5点差がつく。

 相手の攻撃を止める事が出来なくても、じわじわと点差が開いていく。61-42で19点差、20点差まで後1点のリーチだった。



 ――ビィーー。

「交代白5番」

 3ピリオドも残り僅かという中途半端なタイミングで、めぐみが戻って来た。


「メグごめん……」

 バチンッ! めぐみが郡司の背中を強く叩いた。他のメンバーの背中もバチンッ!  バチンッ! と叩いていく。


「ユミ。まだ負けてないよ! 試合も終わってない。行くよ!」

 女子チームが円陣を組み始めた。


 ――円陣を組む所なんて初めて見たな。


「あかにしーーー!」

「「「「「ファイ・オー!」」」」」

 

 女子チームボールから始まる。

「ヘイユミ」

 ボールを持っためぐみは、この試合中で一番鋭いドライブでHPを抜き去った。

 HPは全く反応出来ていなかった。


「HP!!」

 俺の声に反応したHPはめぐみを追いかけるが、追いつく事が出来ない。めぐみはそのスピードを保ったままゴールへと向かい、ボールを保持して飛んだ。

 カバーした篠山先生がめぐみの邪魔に入るが、めぐみは空中で身体とボールを動かし、ダブルクラッチで篠山先生を避けてボールを放った。角度がほとんどない所からボールがボードに当たると、とてつもないスピンがかかっていたのか、急な変化がついてゴールに入った。


 ――ヤバッ。61-44。

「ディフェンス!!」

声が体育館に響いた。


ゴール下にしたダンカンがすぐにボールを持ってエンドラインに出て、パスを出した。斎藤プロがボールを受け取ってドリブルをしたが、サイドラインに方に追い込まれてしまった。俺はカバーに入る。


「ヘイ!」

「手塚部長!」

 斎藤プロが出したパスをめぐみがカットした。


「ターンオーバー!!」

 瞬時に反応した相手の8番が、ゴール下でノーマークになった。


「ゴール下!!」

 声を聞いた斎藤プロが、ゴール下の方に動こうとしたその瞬間――。

 めぐみがシュートを打った。3ポイントから3メートルは離れている場所から。

 ゴール下に居た味方にパスを出せば、確実に2点を入れられるのにもかかわらず……。


 ――ガタッガタッ。パスッ。

 リングにぶつかって外れそうになったが、ネットを揺らした。


 ――ビィーー。ちょうどブザーが鳴った。61-47で3ピリオドが終わる。





「面白かった!」

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面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

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