本気の試合!
「手塚ちょっとこい!」
「はい? 竹じいどうしました?」
「どうしたじゃないだろ! 塚本は? 塚本はどうしたんだ」
「H――塚本はきっと来ます。だから安心して下さい」
「4人じゃ試合出来ないぞ! もし来なかったら分かっとるだろうな?」
「はい。俺達も覚悟しています」
「ならいい」
試合開始まで残り30分を切っているのにもかかわらず、HPはまだ体育館に姿を現していなかった。
俺達は普段と同じようにアップしていたが、内心焦っていた。HPの事もそうだが、相手である女子チームは、本番と同じユニフォームを着てこの試合に臨んでいた。
ちょくちょく向けられる郡司とめぐみの視線を感じて、大変な試合になる。そう予感していた。
「ねえ手塚部長、HP来るよね? 大丈夫だよね?」
「心配するなダンカン。資料作ってきた時のようにギリギリまで研究して寝坊しているだけだよ。きっと来る」
「来なかったらどうするんです?」
「俺が土下座して1時間伸ばしてもらう。その間にHPの家に突撃して引っ張ってくるよ」
「ならいいんですけどね」
「だぁぁぁぁぁぁ! はぁ。はぁ。はぁ。」
大きな声で扉開け、膝に両手をついて下を向くのはHPだった。どうにか間に合ったようだ。
「間に合ったよね? 間に合った? 後25分か。あっぶねーじゃん!」
試合が始まった訳でもないのにHPはすでに汗だくになっていて、何故か顔や身体がよごれていた。
「おい塚本こっちこい!」
西野先生に呼ばれたHPは、先生と竹じいに頭を下げていた。数分間何か言われた後、解放されたようだった。
「おーい皆! 集合してくれ!」
「それで? 弱点ってのは見つかったのか?」
「バッチリとまでは言わないけど、見つけてきたじゃん」
「あのめぐみさんに弱点が?」
「弱点って程でもないじゃん。正直試合が始まって俺自身が目の前で確かめてみないと分からない。だから俺がディフェンスするじゃん」
「じゃあめぐみちゃんにはHPが、郡司さんには手塚部長がディフェンスするって事でいいのかな? 僕らはいつも通りって?」
「いつも通りで大丈夫じゃん」
「お、珍しい! ダイヤの5だ。めぐみちゃんはHPに任せていいんだな?」
「任せてくれ。学校も練習も無駄にサボっていた訳じゃないじゃん」
「正念場だな。今日の相手はゴリゴリで本気だよ」
「僕らとの練習試合でユニフォーム着てくるとは思わなかったね」
「めぐみさんも1ピリオドから出場してきそうですね」
「元からそうなると思っていたんだ。慌てる事じゃない」
「集合しろ」
「「「「「はいっ!」」」」
「分かっとると思うが、相手は強いぞ! 女性だと思って侮るなよ?」
「「「「「はい」」」」」
「特に相手の5番を止められるかどうかそれにかかっとるが、きちんと対策考えているんだろうな?」
「大丈夫じゃん。任せて下さい!」
「ならいい。優子から何かあるか?」
「あぁ私? そうだな……相手はめぐみ達だからって遠慮しなくていい。勝たないと体育館使えないんだよな? なら勝ってこい」
「「「「「はいっ」」」」」
「手塚部長、今日も俺にパスくれ」
「おっけー斎藤プロ。それじゃあ行こうか」
「「「「「OPI! OPI! おれたちーのOPI!」」」」」
「「「「「OPI! OPI! 夢と希望のOPI!」」」」」
――ビィーー。
ブザーの音が鳴り、俺達は上着を脱いでユニフォームの姿になり、整列した。今日の相手はどうやら想像以上に気合いが入っているようだ。
始まりから集中しないと、いきなり主導権を持ってかれそうだ……。
「これから女子バスケ部と男子バスケ部の試合を行います。礼」
「「「「「お願いします!」」」」」
ダンカンは中央のサークルに入る。審判がボールを上げ、ティップオフされた。
ティップオフに勝ったダンカンは、俺の方へとボールを落とした。
受けとった俺は、素早くドライブして攻め立てる。すぐに郡司にディフェンスされ、相手の戻りも完璧だった。ハーフラインを少し越えた所なのに、郡司は俺に対してプレッシャーをかけてくる。
パスをしようとパスコースを探すが、これが全国大会決勝のようなしつこいディフェンスでパスコースを塞がれているのを見た俺は、自分でこじ開けることにした。
相手のディフェンスはハッキリいって凄い。圧力もある。しかし、金を賭けたストリートで相手にしてきた大人の荒々しいディフェンスと比べると、郡司といえど見劣りする。
ストリートの大人がライオンならば、子犬といった所だ。
俺は身体を揺らりと動かしながら、身体と目線を使ってフェイント、レッグスルー。自分の股間に2回通した後、左側を抜きにかかる。
郡司はフェイントを見切って俺のドリブルに付いて来た。俺はギュッっと足を止め、クロスローバーして今度は右を。
見事なクロスステップでそれすら付いて来た。俺は、郡司のクロスした股下にボールを通して抜いた。予想外のプレーによって郡司の対応は遅れる。
俺はそのままドリブルでゴールへと向かい、フリースローラインまで行くとボールを持ち、ジャンプシュートをしようとした。どこからすっ飛んで来たのか、めぐみが俺の前に立ち塞がった。
「へい……」
左耳に聞こえた声に向かって右手で背中にボールを回し、ビハインドパスを出した。
「ナイスパス」
斎藤プロが3ポイント放った。
――パスッ。シュートを決めた。
「ラッキー」
「ナイッシュ斎藤プロ! ディフェンスー!」
俺達は前からディフェンスをしていく。前から当たる事が分かっているからか、相手はエンドラインからすぐにボールが出す。
ボールを持った郡司はパスを出して走り出した。中継が入ってボールはめぐみに渡る。
パスで繋がらせないように、パスコースを塞ぐ。HPはどうにかめぐみに付いていっている状態だった。
――大丈夫なのか? いや、HPに任せよう。
一瞬、気を抜いたのを突かれて、急激に動いた郡司に振り切られてしまう。
――しまった!! そう思った瞬間だった。
――ピッ!
「オフェンスファウル白5番」
えっ? オフェンスファウル? しかもめぐみが?
ファウルした方に目を向けるとHPが倒れていた。HPは天井を見ながらガッツポーズをして笑っていた。
「おいおい、一体何をやったんだ?」
HPに近付いて手を伸ばすと、俺の腕を掴んだHPが立ち上がった。
「弱点を見つけたって言ったじゃん。多分今日しか使えない……めぐみちゃんならすぐに修正されちゃうじゃん。だけど今日なら使える。俺はめぐみちゃんをファウルトラブルに巻き込んで止める」
「ハハハ。すげーよHP! ナイスディフェンス!」
「「「「ナイス」」」」
俺達はHPにハイタッチした。
なるほど、流石のめぐみでもファウルトラブルに巻き込んだらどうしようもない。1試合で合計5つファウルしたら退場。4つした時点でファウルがもう出来ないという心理状態が働いてプレーが縮こまる。
そんな対策があるとは、考えもつかなかった。流石はHPだ。
「ファウル気を付けてメグ。まだ始まったばかりだよ」
「分かってるよユミ」
俺達ボールから始まる。俺達の中で決まり事があった。ゴールを入れられた以外は、基本的にHPがボールを出す。サイドラインのファーメーションはルートという名前で、相手ゴールのエンドラインではエリアという名前でフォーメーションが決まっていた。
HPが状況を見てフォーメーションを決めるが、例外がある。それは、HPにボールを持たせたい時、もしくはHPが自分でパスを貰いたい時は俺がパスを出す事になっている。
「手塚部長。パス出し頼むじゃん」
「おう、分かった……」
「悪魔の666!」
作戦名を叫ぶ。全員がHPの為に動き出す。マークマンを外して隙の出来たHPに俺はパスを出した。
パスを受け取ったHPは、カバーに入っためぐみに向かって1対1を仕掛けた。
――ピッ! 笛が鳴った。
「ディフェンスファウル白5番」
――ビィーー。
「タイムアウト! 白」
女子チームがタイムアウトを取った。
「しゃあー!」
HPが叫んだ。俺達はベンチに戻る。
「ナイスディフェンスHP!」
「ナイス!」
「座れ」
竹じいの声で落ち着きを取り戻し、用意されたパイプ椅子に座った。
「展開は悪くないな。塚本がやってくれたおかげで相手の5番が動きにくくなるだろうよ。塚本はこれを狙っていたのか?」
「映像で観ただけでは分からなかったので、今日対戦してみるまで確信はありませんでした。ですが、5番のめぐみちゃんには癖があるじゃん。それを俺は見つけてファアルを誘いました」
「癖か、それを見つけた塚本は流石といった所か」
「へぇ~。めぐみに癖とかあったんだな。よく見つけた塚本」
――ビィーー。
「交代、白5番」
「どうやら塚本のおかげで効果が出たようだな。5番が居ない事で、相手の攻撃力も士気も下がるだろう。点数と精神を突き放すならこのタイミングだぞ! 出来る訳ないが、戦意喪失させる気で相手を叩いてこい」
「「「「「はい!」」」」」
「斎藤プロ、今日の調子はどう?」
「勿論絶好調!」
「めぐみちゃんがいないうちに、斎藤プロ中心で攻めようじゃん」
「オッケー! 任せな! 燃えるぜ~」
「俺はダンカンと篠山先生にもガンガンパス回すぞ」
「分かった」
「いつでもどうぞ」
「よし行こうか」
――ビィーー。ブザーが鳴る。
「ルート55」
サイドラインでボールを持ったHPが、フォーメーションでマークが外れた斎藤プロにパスを出した。
ボールを受け取った斎藤プロはそのまま3ポイントを放ち、点数を決めた。
たかがか数十秒で、6-0。めぐみに個人ファウルを2つ持たせた有利な状態で試合は進んだ。
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