再戦とパイオツ!
もう6月に入ろうとする所だった。最後の大会までほぼ1カ月。地区予選、県大会、関東大会と勝ち進まないといけない俺達に、残された時間は少ない。
竹じいをコーチに迎えた事で俺達の士気も高く、練習にも熱が入っていた。しかし、体育館での練習時間が取れない事は致命的だと思った。
「なあ、橘先生に直談判しに行かないか?」
俺は、部室で着替えている時に皆に提案する。
「急にどうしたんですか?」
「あとちょっとしか時間がないんだ。出来るだけ体育館で練習したいだろ? 使わしてくれないかって橘先生に交渉したいなと思ってさ」
「あの橘先生でしょう? 簡単にいくかなぁ。僕は難しいと思うなそれ……」
「賭けって条件ではどうだ?」
斎藤プロがトランプの中から一枚のカードを引いて、俺達に見せるとジョーカーだった。
「賭けって?」
「俺達が勝ったら大会まで体育館を折半。負けたら大会が終わるまで体育館を使用しないってのは?」
「でも斎藤プロ、そんな条件で交渉出来るかなぁ? HPはどう思う?」
「そうだな……橘先生に直接言っても分が悪いと思うじゃん。そこはやっぱ郡ちゃんとめぐみちゃんを動かすしかないじゃん?」
「郡司さんとめぐみさんを? どう動かすんです?」
「俺と手塚部長で煽ったら説得出来そうな気がするじゃん。郡ちゃんは俺達の事嫌いじゃん? めぐみちゃんはバスケの事になったら性格が変わるからさ、2人を同時に煽ったら勝負に持っていけそうな気がするじゃん」
「なんか考えでもあんの?」
「深い作戦なんかないじゃん。ただ、煽ればいいんだって! じゃあ明日俺と手塚部長で交渉してくるじゃん」
HPは自信満々に言うが、俺にはそう簡単にいくとは思えなかった。
――次の日の昼休み。
「手塚部長行くぞ……」
HPに言われて一緒に教室を出る。2人はいつも、昼休みに体育館で自主練していた。郡司とめぐみは、1年の時からずっと毎日練習していた事でいつの間にかその習慣が広がり、今では当たり前のように女子バスケ部全員が練習するようになっていた。
そんな2人の後を追って、廊下の途中でHPが呼び止めた。
「郡ちゃーん! めぐみちゃーん!」
HPはひょうきんな声で名前を呼ぶと、2人は振り向いた。
「塚本。なに!?」
郡司はHPと俺に鋭い視線を送る。
「またさー、俺達と練習試合してくれないかなぁ~と思ってさ」
「なんで大会近いのに、あんた達とまた試合なんかしないといけないのよ」
「あっれー郡ちゃん。もしかして俺達に負けるのが恐いの? そういえば前回、ハーフタイムまでは俺達が勝ってたじゃん」
「何言ってんの? めぐみが居なくたって後半で巻き返してたわよ。それにあんた達、めぐみが1ピリから出ていたら、相手にならないじゃない」
郡司は怒っていた。隣で聞いているめぐみは、いつもと変わらない表情で聞いていた。
「じゃあめぐみちゃんを俺が完全に抑える事が出来るって言ったらどう? 俺見つけちゃったじゃん。めぐみちゃんの弱点をさ」
めぐみの顔つきが変わった。
「塚本君が私を抑える? 出来る訳ないでしょ」
「どうかなぁ? めぐみちゃんには決定的な弱点があるじゃん」
ハッタリだ。俺には分かった。
もし本当に分かっていたら、前回の試合の時に教えてくれていただろう。HPは、2人を煽る為に嘘を言っているに違いない。俺はそんなHPに乗っかった。
「HPがめぐみちゃんの弱点を見つけたから抑える。郡司だって俺のディフェンスに苦戦してたじゃないか。次やったら俺達が勝っちゃうんじゃないの~? もしかしてビビってる? 今まで一度も負け事がない相手に対して、負けるかも知れないとか思っちゃってんの? チームの要である2人がそんなんで、今年全中でれんのぉ~?」
「何調子に乗ってんのよ――」
「いいよユミ。一体何を企んでるの?」
「さっすがめぐみちゃん! 話がはやーい。俺達が望むのは1つだけ。試合に勝ったら最後の大会までコートの半分を使わせて欲しいじゃん」
「なるほど。じゃあ私達が勝ったら?」
「……勿論大会まで男子バスケ部は体育館を使わない。それに、男子バスケ全員が何でも言う事聞くじゃん!」
「メグ! こんな奴らの話しなんか聞かなくていいって」
「ユミはこんなに言われてムカつかないの? 私だけじゃなく、ユミとチームまで馬鹿にされた……黙ってらんない!」
「分かるけど……挑発に乗らなくていいって」
「橘先生は私とユミで説得するから試合やろうよ。ユミいいでしょ?」
「はぁ……しょうがない分かったよメグ。橘先生の所へ行こうか」
「手加減しないから!」
2人はそう言って振り返り、体育館へと向かって行った。
「楽しみにしてまーす!」
HPは2人に手を振った。
「おい、どうすんだよ……弱点とか絶対嘘だろ? 本当にあんのか?」
「それを今から見つけんじゃん」
「マジかよ……無かったらどうするんだよ……」
「ん~、その時はその時でどうにかするしかないじゃん」
「おいおい頼むぜ。負けたらOPIの夢も遠くなるだけじゃ済まないぞ」
「やる前から負ける事を考える奴がいるかよ……じゃん」
今日の練習が終わった後に皆を集めた。
「女子と練習試合できそうだよ」
「上手くいったのですか?」
「ん~……どうだろうか。怒らせたからそれを上手くいったと言うなら上手くいったね」
「体育館の交渉は出来たの?」
「橘先生が首を縦に振れば大丈夫だと思う」
「まあ大丈夫だと思うじゃん。郡ちゃんとめぐみちゃんが橘先生に言うなら、流石に先生も簡単に嫌だとは言わないんじゃないかな?」
「それで? 負けたら俺達はどうなるんだ? 勝ったら体育館を使わせてくれってだけじゃあ、賭けとして成立してないだろ?」
「流石だね斎藤プロ。俺達が負けた場合、大会が終わるまで一切体育館を使わない。そして、言う事を何でも聞くってなったよ」
「それって……負けたら僕達、結構まずくない?」
「負けなきゃいい! そういう事らしい!」
「今まで一度も勝った事がないのに強気に出ましたね」
「背水の陣じゃん! そうだダンカン。めぐみちゃんが出ている試合の動画とか持ってない? 今回は1ピリからめぐみちゃん出てきそうだから、対策を立てるじゃん」
「持ってるよ」
「あるだけ送っといてじゃん」
「というよりめぐみさんが1ピリから出てくるんですか? ちょっとまずくないですか?」
「大丈夫。俺がどうにかして弱点見つけてくるじゃん」
「弱点なんてあるんですかね……」
明らかに皆の空気が良くない。竹じいが言っている最大の弱点が露呈している。結局の所、俺達に自信がないのは確かだ。たかだか少し本気で練習した所で、負け癖、マイナス思考を簡単に治せるものではなかった。
「やめ! やめ! やめようぜそんな思考! HPが弱点見つけてくるって言ってるんだ。俺達はHPを信じようぜ!」
「どうした急に、手塚部長らしくない。スペードの5か……良くないカードだ」
「俺達の目指す所をもう一度思い出そうぜ!? 全中だぞ? ここまでやってきて、生おっぱい見たくないのかよ!? 全中に出場する男子チームと郡司達、どっちが強い? 俺は男子チームだと思う。俺が言いたいのは、いくらめぐみちゃんがバスケ上手いからって、郡司達に負けるようなら全中出れねぇーだろ」
俺は自分自身を鼓舞するように声を張り上げた。
「そうだよね! 僕等が目指しているのは全中だもんね」
「勝ちましょう」
「気合いとか根性って嫌いだけどさ、おっぱいは見たいぜやっぱ!」
俺達は誰が言うでもなく、円陣を組んだ。
「HPはめぐみちゃんの弱点を見つける事いいな?」
「任せろじゃん!」
「郡司とめぐみちゃんを止める事が出来れば、限りなく女子チームの力を削ぎ落とす事が出来る。やってやろうぜ! ずっと思ってたんだ。1度位は悔しい顔をさせたいってな」
「やりましょう」
「頑張ろう」
「いつもの頼むぜ!」
「「「「「OPI! OPI! おれたちーのOPI!」」」」」
「「「「「OPI! OPI! 夢と希望のOPI!」」」」」
「あかにしーーーー!」
「「「「「おっぱい!」」」」」
「しゃあー勝てとうぜ!」
次の日になり、郡司に言われて試合する日程が決まった。週末の土曜日。
それまで4日間あったが、HPは一度も学校に顔を出す事がなかった。担任は風邪だと言っていたが、俺達はそれが嘘だと分かっていた。
何も連絡もなく、とうとう土曜日の朝を迎えてしまった……。
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