合宿とパイオツ!
「オラー! 起きろー!」
――カンッ。カンッ。カンッ!!
金属を金属で叩く甲高い音で目を覚ました。目を擦りながらスマフォで時間を見ると、まだ午前3時だった。
竹じいが、布団を捲りあげて起こしてきた。
「起きろ! 起きろ! 起きたな? 外へ出ろ!」
「今からこのコースを走ってこい」
そう言われて地図のような物を渡された。
「そこに書かれた赤い線の通りに走ってこい」
「「「「「……」」」」」
返事をするのも面倒なほど眠い……。
「分かったのか!?」
「「「「「はぁい」」」」」
渋々返事をした俺達は、言われた通りに走り出した。
地図には線が簡単に引かれただけだが、実際の道は想像以上に険しかった。学校にあるトラックを走るのとは違って地面はデコボコ、上り坂になっていたり、下り坂になっていたり草が生い茂っていたり、根っこがでていた。
気を付けて走らないといけない事が多く、スピードを出している訳でもないのに超しんどい。
あれだけ走り込みをして体力には自信が付いていたが、普段使う筋肉とは明らかに違う筋肉を使っている事が実感出来た。
「はぁ。はぁ。はぁ。どんだけ距離があんだよ……」
竹じいのログハウスを中心として無駄にクネクネと走っているのは分かるが、走る距離も終わりも分からないという精神状態もきつかった。
薄暗かった山が、少しずつ明るくなっていた。
――どれだけの時間走っているのだろうか……。
記された道を走り切ると、最後に急な坂が目の前に現れた。そこを登り切れば、どうやらログハウスに戻るようだった。
最後の力を振り絞って登り切ると、竹じいが竹刀を持って立っていた。
「遅いな。遅い遅い! 急に止まるなー歩け」
今すぐにも寝っ転がりたい所だけど、歩きながら呼吸を整える。
全身から滝の様に汗が出てきて、足プルプルとして力が入らない。
「次はシュート練習に移るぞ。早く来い」
昨日と同じようにシュートの練習を始めたのはいいが、下半身が言う事を聞いてくれない。力が上手く入らない、伝わらない。
「第4ピリオド残り4分。点差は8点。前から必死にディフェンスしてボール奪った味方からパスが来た。疲労感はきっと今の状態だろう。疲れたからって理由で簡単に外せるか?」
「外せないじゃん……」
「そうだよな。第1ピリオドと第4ピリオドのシュートの感覚ってのは、はっきり言って違う。だから両方の感覚で練習しないといかん。分かったか?」
「「「「「はいっ」」」」」
上手く力が伝わらない、心臓がバクバクして呼吸も荒い中で、俺達は打ち続けた。
「よし。そろそろ朝飯にするぞ」
1時間近く打った所でやっと終わり、ログハウスに戻ると西野先生がエプロンを付けて料理を並べていた。
「戻ったかお前達。朝飯出来てるぞ、沢山食え!」
先生の意外な姿に立ち尽くしてしまった。
「なんだお前達のその反応……」
「いや、西野先生って料理出来てんだっていう驚きじゃん」
「なんだ塚本、ぶっ飛ばされたいのか?」
「先生、エプロン似合いますよ」
「そうだろ? 大村は分かってるじゃないか。ハッハッハ!」
椅子に座ると俺達の前に、山の如く大盛りのご飯が出て来た。
「しっかり食えよ! 残すのは無しだ!」
「先生これ嘘でしょ? こんなん食べられないって……」
「1杯じゃないからな。1人2杯は必ず食べる事、いいな?」
マジかよ……。
「食べる事も練習だ。2時間30分後から練習を再開する。いいな?」
竹じいはそう言ってその場を後にした。
「「「「「いただきます」」」」」
料理に箸を付けるが、中々喉を通らない。ダンカンと斎藤プロはガンガン口に運んで食べている。
しかし俺とHP、そして篠山先生は食べるのに苦労しそうだった。
「先に言っとくけど吐くなよ?」
合宿中の食事というのはむしろ楽しいものだと思っていたが、俺にとっては走る事よりキツかった。
食べる事も練習……。そうやって言うのも納得がいく……。
ダンカンと斎藤プロは、30分もかからずに全てを平らげた。結局俺は、食べ終わるまでに1時間以上かかってしまった。
腹がパンパンで立っているのも苦しく、布団の上で横になった。気を抜いたら全てが戻ってしまいそうで、深く呼吸をしながら消化してくれるのを願う。
「おら起きろ。練習始めるぞ」
体力も胃も回復しないうちに、練習の時間になってしまった。重たい身体を起こして部屋を出る。
テーブルには大きなモニターが置かれ、俺達のシュートしている映像が流れていた。
「座れ。いいかよく見ろよ」
映像には最初の夜に指導される前に打ったシュートフォームが流れ、次に修正した後のフォーム、そしてついさっき朝のフォームが映し出された。
「何がどう違う? 感想を言ってみろ。堀内どうだ?」
「3つともフォームが違うって事は、観て分かります。こうなると、どれが本当に正しいフォームなのか……迷ってしまいます」
「本人が気持ち良く打てるフォームだとしても、全然入らない場合があるし、逆もまた然り。入っていたフォームが急に入らなくなる事だってある。絶対的に正しいフォームなんて物は存在しない!」
「つまりそれは、竹じいに直してもらったフォームが全て正しいとも言えるし、全て間違っているとも言えるって事ですか?」
「そうだ」
何を信じていけばいいのか、俺は分からなくなっていた。
「ちょっとそれは竹じい、無責任じゃん?」
「シュートフォームに関してワシが言える事は、あくまで提案までだ。そこから先はお前達一人一人が詰めていくしかない。自分の感覚と映像のフォームが合っているのか、間違っているのか? 何回も確認しながら修正していくしかない。その時に役に立つのが数字。数字は嘘をつかない。シュート成功率を基準にして考えろ」
「成功率が高ければ、そのフォームは自分に合っているって事ですか?」
「そういう認識でいい。出来る事ならお前達の3ポイントの成功率、4割まで上げる事が出来れば、現実的に全国は見えてくる」
「「「「「!?!?!?」」」」」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ竹じい……4割? そんなの無理だって……」
現実的に考えて、かなり不可能な数字だった。
「何で無理なんだ?」
「日本のトッププロチームが、調子良くてやっと4割あるかじゃん。俺達に目指せる数字じゃないじゃん」
「はぁ~。塚本、この資料を作った本人のお前までそう言うのか?」
竹じいは、資料をドンとテーブルに置いた。
「3年生から全中を目指す事自体が、そもそも現実的じゃないだろ。それを目指しているお前等が不可能とか考えるな! 資料には何て書いたんだ? なあ塚本」
「それは、どういう……」
「シュート成功率が高い場所の確率を徹底的に上げていくと、そう書いてあるじゃないか。いいか? プロはそうじゃない。どこから打っても、誰が守っていたとしても4割なんだ。分かるか?」
俺達は頷いた。
「お前達の相手は所詮中学生だ。ディフェンスのプレッシャーだってたかがしれている。集中的に練習すれば、40%の数字は無理ではない。それに、お前達は5人居るんだ5人。それぞれ得意な場所があれば、5か所から打てるって事だ……十分だと思わないか?」
竹じいにそう言われ、確かにそうだと俺は思えてきた。
「普通ならどこからでも狙えるように練習するもんだろ? だが、その場所だけは俺が絶対に決めてやる。俺に寄こせ! そういう気持ちと自信が点数に直結してチームに勢いを付け、結果的に強くなる」
「0か100か。そういう事だろ? ラッキー」
「その通り、ギャンブルって事だ。そういうつもり今まで練習してきたんじゃないのか?」
「私達は、ちょっと上手くなったからって天狗になっていたのかもしれませんね。元々無謀な挑戦なのだから、常識とか普通などという言葉すら使う資格はないと思うんです」
「篠山先生の言う通りだな。ただ俺達は、迷っていただけなのかもしれない……いや、そもそも迷っている暇さえないな!」
「今のお前達の最大の弱点を教えてやる。勝った事がないって事だ! 練習試合でも公式戦でも一度も勝てた事がないらしいな」
「そうですね……はい」
「いきなり練習し出して成長したと思ってもまだ勝てていない。自信が持てないんだろ? このままでいいのか? 練習を変えた方がいいのか? どうなんだ? だけど時間もない」
まさに言っている通りの事を、俺は感じていた。このままでは全国に行けないのではないのか? そう思ったからこそ、今こうやって合宿に来ているのだ。
「ワシがはっきりと言ってやる。塚本が作ったこの資料も、お前達が目指してやっている事も全て間違っていない」
真っ直ぐな目と強い口調で、竹じいは俺達に言い放った。
「だが、全然足りない。足りない部分をワシが教えてやる。少しでも気になる事があれば、なんでもワシに聞け! 疑問がなくなるまで答えてやる。さあ練習に行こうか」
自分達で決めてやり始めた事だけど、大人が間違っていない。と断言してくれるだけで、心強かった。俺達はこのまま突っ走ればいいのだとそう思えた。
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