パイオツを見るために必要な事
「よーし! 準備出来たか? 乗れ」
「はい」
学校が終わった金曜日の放課後から合宿をする事になった。月曜日が祝日という事もあり、3泊4日で合宿をする事になったが、どこに行って何をするのか、知らされていない。
先生が乗ってきた大きめのバンに俺達は乗り込んだ。
ギュルギュルギュル。
「先生、飛ばし過ぎ! 飛ばし過ぎ!」
「大丈夫! 大丈夫! 私って峠は得意だから」
「いや意味わかんないって!」
「ハハハ。先生最高じゃん!」
「手塚部長……吐きそう……」
「先生、ダンカンが吐くって!」
西野先生は、タイヤをギュルギュルと音をさせながら、山道をとんでもないスピードで上って行く。
「オエェーーーーー」
「ダンカン、大丈夫かよ」
「だらしねぇーな! 男だろ!」
道の木陰で全てを戻し、苦しそうな表情を見せるダンカン。辺りはもう暗くなってきていて、街灯もほとんどないような山道だった。
「合宿とか言ってましたけど、こんな所でやるんですか? というかバスケが出来るような環境ですらないと思うんですけど……」
「付いてくれば分かる。もうちょっとだから辛抱しろ」
さっきとは違って安全運転になり、道路だった場所から外れて道なき道を進んでいく。とうとう車では進めないような場所まで来た。
「降りろ。ここから歩いて行くぞ」
「はぁ……」
荷物を持って車から降りた。先生が持つ懐中電灯1つだけで道を進んでいく。
どのくらいの時間を歩いただろうか。
肩で息をして汗だくになり、着ている服が背中にぴったりとくっつき、気持ち悪かった。
「着いたぞ」
先生の声で顔を上げた。上り坂の先に明かりが点いているのが見えた。その明かりを頼りに近付いて行くと、そこには一軒のログハウスが建っていた。
「おーい! おーい! おーい竹じい! じじいー! いるか!?」
「聞こえてるよ。誰だようるせーな!」
ログハウスのドアから出て来たのは、タバコを咥えた白髪のじいさんだった。身長はダンカンよりも高いかもしれない。
短パンとサンダルにタンクトップ。デカイからか、威圧感があった。
「来たぞ竹じい」
「優子か。ほう! こいつらが、お前の教えている生徒か?」
「ほとんど何も教えてないけどな。中に入らせてもらうぞ! あ~疲れた」
「ワシの名前は竹中銀次だ。皆は竹じいって呼ぶが、好きに呼んだらいい。優子の教え子なんだろ? これを作ったのは誰だ?」
竹じいが出したのは、HPが作った資料だった。
「俺ですけど……」
恐る恐るHPが手を上げると、睨みながら竹じいがHPに迫って来た。
「ガッハッハ! お前が塚本か? 大したもんだ」
笑い声をあげながら、HPの背中をバシバシと叩く竹じい。いま起こっている状況が全く飲み込めない俺達は、あたふたしているだけだった。
「中へ入れ。飯を作ってあるからとにかく皆で食べよう」
竹じいがログハウスへ入っていくので、俺達も後を着いて行く。中へ入るといい匂いが漂っていた。
ぐ~。
誰かのお腹が鳴った。
「とにかく食え。話しは食った後にしよう」
「ぷはぁ~!」
すでに椅子に座って缶ビールを飲んでいる西野先生の姿がそこにはあった。長いテーブルに長い椅子が置かれていて、テーブルの上には大きな鍋が3つ並べられ、いい匂いの正体はそこからだった。
「おい優子。先に食べているんじゃない!」
「そう硬い事いうなって」
先生を一人で勝手に鍋をつついて、ビールのつまみにしているようだった。
「お前は、自分の生徒の前で恥ずかしいと思わないのか?」
「あ!? こいつらは別にいいんだよ」
「はぁ~。優子お前ってやつは……まあいい。とにかく皆座れ」
「好きなだけ食べていいぞ」
「「「「「いただきます!」」」」」
俺達は、夕食を食べ始めた。
「やばい……食べ過ぎた……」
「僕も限界……」
「若い奴の食欲ってのは凄いな全く……それじゃあ話しでもしようか」
食べ終わった竹じいは、タバコに火を付け、深く吸って煙を吐いた。
「優子からある日手紙が届いた。バスケを教えて欲しいとな。今度行くからよろしくって簡単に書かれただけ! そして、資料と映像が送られてきた」
「映像っていうのは、俺達のですか?」
「そうだ。最初の動画を観たら、女子相手にボコボコに負けている試合だった。それを観たら、何でこんな奴らを教えないといけないんだと思ったよ」
竹じいは、ガラスのコップに茶色い液体を注いだ。
それをくいっと一口で飲み干すと、新しいタバコに火を付けた。
「次に観たのは、黒田中と戦っているやつだ。前の試合より明らかに成長していた。資料通りの練習とチーム作りを目指しているのが分かった」
「ねぇ。竹じいが資料見たっていうけど、あそこには『OPI』について書いてあったけど、それも見られたのかな?」
俺とHPの間に座るダンカンが、聞こえるギリギリの音量で話した。
「大丈夫じゃん。あれは多分先生に渡した方の資料だから。OPIについては書かれてないじゃん」
竹じいは、続けて話す。
「最後の映像は、また女子チームと試合しているやつだ。前の時とは別のチームと疑う程に成長していた。若いってのは凄いねぇ~、改めてそう思ったよ。それでだ! お前達はどこを目指しているんだ?」
「勿論全国大会です!」
「ほう? 何で全国なんだ?」
「それはお……」
言いかけた言葉を飲み込み、俺は西野先生に視線を移した。先生は特に動かず反応せず、缶ビールを飲んでいた。
「俺達は3年生で、皆とバスケが出来るのも最後ですから、本気になってバスケと向き合ってみたいと思ったんです!」
無を張って堂々と嘘を言い張った。本当はおっぱいが見たいだけだった。
「ガッハッハ。まあいい、荷物を持って着いて来い」
ログハウスから出て20メートル程進んだ先に、今にも崩れそうな掘っ建て小屋が建っていた。竹じいはその中へと入って行くので、俺達も中へと入る。
カチッ。電気のスイッチを入れた音がした。
明かりが点くと、そこはハーフコートの広さがあるバスケットコートだった。床もちゃんとした体育館で使用する床だった。
コートの周りには4台のカメラが設置されていて、コート全体を撮っているようだった。
「ちゃんと、バッシュ履けよ」
「はい……」
――キュ。キュ。
気持ちいい程いい音がする床だった。
「さっそくだけど、1人ずつシュートしてみろ」
籠に入ったボールを渡されると、1人ずつ順番にシュートをしていく。竹じいは、椅子に座って俺達の事をじっと見つめていた。
2、3本打つと交代していき、全員がシュートを打ち終わった。
「悪くねぇ。悪くないが、まだまだだな」
竹じいは立ち上がると、横に立て掛けていた竹刀を持ってこっちに向かってくる。
「大村だったか? 打ってみろ」
「はい……」
ダンカンがシュートを打つと、綺麗な放物線を描いて入った。
「構えてみろ」
もう一度ダンカンがシュートしようとした。
「ストップ!! そのまま動くなよ?」
竹じいはダンカンの身体を竹刀でバシッバシッ叩き始めた。
「ここが悪い、膝をもうちょい曲げろ。手の角度が悪い」
悪い部分をビシッバシッと叩く。
「そう。その体勢だ。それで打ってみろ」
「はい」
打ったシュートは外れた。
「さっきのをもう一度、意識しながら打ってみろ!」
「分かりました」
ダンカンがボールを持つと、シュート打った。俺の目にはそこまで変わったようには見えなかったが、ボールの軌道は変わった。
「まだまだだが、始めよりはいい感じだ! 自分でどう感じた?」
「軽いと言いますか、なんか楽に飛ばせた気がします」
「動画で自分のフォームを確認しながら、しっかりそのシュートフォームを身につけろ。ワシがいちいち細かく修正してやる」
「はいっ」
「じゃあ次は、堀内だな、打ってみろ」
「はい」
竹じいは、順番にシュートを打たせ、シュートフォームの改善をしていった。単に同じようなシュートフォームにする改善のではなく、一人一人に合ったフォームに改善しているように見えた。
「最後は手塚か、打ってみろ」
「はい」
「そういえば手塚は、ツーハンドでも打っているだろ?」
「ええ、まあ……遠い所から打つ時は、ツーハンドを使っています」
「ツーハンドで打ってみろ」
「分かりました」
俺はツーハンドでシュート打った。
「手塚は、ミニバスやっていたか?」
「やってました。小1から小6まで」
「なるほどな。ツーハンドシュートが様になっている、力が上手い具合に抜けている。手塚お前は、3ポイントライン以上のシュートを打つ時は、ツーハンドを使え」
「わ、分かりました」
「じゃあ、ツーハンドで構えてみろ!」
「はい」
構えると、竹刀でビシビシ叩かれながら、フォームを矯正された。
「今のその感覚だ。覚えろいいな?」
「はいっ」
「戻してから、3ポイント打ってみろ」
俺は一度フォームを止め、ドリブルを2回程ついたらボールを持ち、ツーハンドでシュートを放った。
矯正された部分を意識して放ったボールは、ゴールに吸い込まれた。
ボールの重さを感じないほど軽くシュート打つ事が出来た事に驚き、俺は自分の手の平を見た。
「今の感覚を忘れないうちにシュートを打て。それとこれを渡しておく」
竹じいから渡されたのはノートだった。
「今日から毎日ノートに書いてもらう。シュートの本数と成功率から練習で気付いた事、気になった事、自分の課題とチームの課題。とにかく感じた事を全て書き出してもらう。いいか?」
「「「「「はい」」」」」
「よし。まずはシュートを続けよう」
1時間程シュートを打ち続けた。壁に置いてあった時計の針が午後9時を差す前に練習を切り上げた。
その後はログハウスに戻って風呂に入り、竹じいに言われて入念にストレッチを終えた後、10時前には就寝した。
寝るにはあまりにも早い時間かと思ったが、10時頃~2時事までが最も成長ホルモン出る時間帯だから、それまでには寝る事が大事だと竹じいが教えてくれた。
俺達の合宿初日が終わる。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
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