9話 嫉妬心
海咲たち三人は、閻魔庁を後にした。再びオートメーション化された事務的なお祓いを受け、外に出た彼女たちを出迎えたのは、ローズだった。
彼女は、三人を見ると一礼した。そして無言のまま、三人の先―どこか遠くを見つめていた。
「あれ、ローズさんだけ?ゴールデンライオンは?」
「ちゃんみさ、失礼だって」
「お前の苦労を、ずっと見ていたぞ…」
「ネットミーム擦ってる場合か」
目の前でぎゃあぎゃあと騒がれても、ローズは言葉を発さなかった。その様子に、マゼンタは目を細めた。
「おお、戻ったか。若い身分で、本当によく頑張っている」
数分の後、ダンテが両手に袋を沢山提げて現れた。本当に、地獄の入口、閻魔町の観光を満喫していた様だ。
「どれ、褒美だ。とっておけ」
そう言いつつ、彼は海咲に太い腕を差し出した。その手には、紙袋が握られている。海咲はそれを受け取ると、中身を確認した。袋の中には、ほかほかの饅頭が三個、入っていた。
「この閻魔饅頭というのは美味いな。口が火傷するかと思ったが」
閻魔の釜茹で饅頭。饅頭の中に熱々の餡が入っている、地獄名物だ。出汁の効いた塩味は脳にがつんと旨味を届けてくれるが、その代償に味蕾が全焼することで有名である。ウルタール人はネコ科なので猫舌に違いない―さぞ、地獄の苦しみを味わったことだろう。
「お、ありがとうございます!私これ好きなんですよね。あとで何かお礼をします」
「好き!!??!?抜け駆けですか!??!」
「む、彼女は何を言っているんだ?翻訳機の故障か?」
「大丈夫です、平常運転なので」
いなりはそう言って、何の気なしにローズの方を見た。人間観察に長けた妖狐は、他人の心象の機微に聡い。そんな彼女だからこそ、気がついた。
いなりに見つめられ、びく、とローズの体が動く。そして彼女は、そっぽを向いてしまった。