36話 言葉にすれば
そして、彼らは激突した。最後の爆弾<ダンテの夢>の、真上で。海咲のジャガーノートと、ダンテの『心縛呪釘』が激しくぶつかり合い、火花が散る。
爆弾のランプが、明滅を始める。爆発まで、一刻の猶予もない。
両雄、吠えた。海咲の熱線が爆弾を掠める。ダンテの鉤爪が、海咲の喉を掠める。
刹那、海咲はジャガーノートを炸裂させる。爆風で、ダンテの体勢が崩れる。
刹那、ダンテが『心縛呪釘』を海咲に叩き込む。
殺った、と互いが思った。殺られた、と互いが思った。
その時、ダンテの視界に、一人の女性が映り込む。よろよろと頼りなさげに歩くその姿は、酷く消耗していた。現れたのは、まるで作り物のように毛並みの良い、青白い猫。それは―亡き妻の似姿を取った、メタブルー。
「…ローズ」
戦地にて妻を失った彼を、周囲は責め立てた。力不足と詰り、不甲斐ないと罵った。華々しい功績を挙げてきた彼であったが、これまで得てきた全ての勲章を足しても足りないほどの、大切な物を失った。妻を失い、愛情を失い、失意の底に落ちた。そんな彼を、静かに、確かに、そして献身的に支えてきた女性がいる。
誰よりも、自身を案じてくれた人。こんな自分を、愛してくれていた人。
「退いていろ、海咲」
ダンテは、海咲を蹴り飛ばした。否、海咲は敢えて、後ろに飛んだのだ。彼女の体は宙を舞い、部屋の外へと消えていく。そして彼は、爆弾に覆い被さった。蹲った彼に、ローズがそっと寄り添う。それはまるで、恋人が囁き合うような距離だった。
「…共に死ぬ必要は無いぞ、ローズ」
「いいえ。私が、そうしたいのです。お傍に、お仕えしたいのです」
温かく微笑んだ彼女に、ダンテは目を伏せた。
「…すまない、ローズ。お前はずっと、傍に居てくれたのだな」
私はそれに、気付こうともしないで。そう自分を責めたダンテに、ローズは首を振った。
「良いのです。この先も、共に。お慕いしております、ダンテ様―」
最期―漸く思いを口にして。彼女たちは、通じあった。そして、爆弾は起爆した。光に呑まれていく二人の姿が、海咲の瞳に映る。寄り添う二人の猫は、穏やかな表情で消えていった。




