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32話 言葉にすれば、単純なことで

 意識を手放しそうになりながら、魔女は唸った。完全に失念していた。メタブルーは、もう一人いる。


「ダンテの邪魔をするなら―消えて頂戴」


 魔術で抵抗を試みたマゼンタだったが、もう遅い。下腹部に最大出力のスタンガンを打ち込まれ、マゼンタはその細い体を跳ね上げさせた。


「…ローズ…!」


 恨めしそうに自身を見上げたマゼンタに、『裏切り者のメタブルー』―ローズは柳眉を逆立てた。彼女は白猫から毛並みの良いウルタリアンの姿に戻ると、マゼンタの体に三回目のスタンガンを叩きつけた。


「が、ああああ…っ!」


 魔女の華奢な体は、高圧のスタンガンにより再び無様に跳ね上がった。雄叫びのような悲鳴をあげ、マゼンタは地面に倒れ伏す。魔術的な防護により意識は手放さなかったが、今度こそマゼンタの体から力が抜けた。統率を失った死体たちは尚も動き続けていたが、それは最早知性のないゾンビの群れと変わらない。あっという間に制圧され、彼らは包囲された。


「…短い付き合いでしたが。貴女を憎く思っておりました、マゼンタ・デエー。愛されても居ないのに、恋する乙女のように振舞っている、その傲慢さが」


 ローズはそう吐き捨てると、端末を開いた。そして、ダンテに一報を残しておく。『賊は制圧した』―と。


「…仰っている意味が、分かりません」


 苦悶の表情を浮かべながらそう述べたマゼンタを、ローズは睨めつけた。そんな彼女に、魔女は口元を歪め、飄々と言葉を重ねた。


「愛されていなければ、恋をしてはいけないのですか?」


 彼女の言葉に、ローズは憤った。それは、ローズが押し殺してきた自分自身の心と、そのための努力を踏み躙る、そんな一言であったからだ。


「当たり前です!只でさえ―下女の一方的な恋慕なんて、迷惑に決まっております!」


 それは、悲鳴にも近い叫びだった。メタブルーである自身の、心の内に秘めた恋―罪。それをさらけ出してまで、彼女はマゼンタの言葉を否定した。対する魔女は、淡々とローズの激情を反駁する。


「いいえ。『好きになったから』、『愛されたいから』―愛するのでしょう。愛されるから好きになる、では因果関係かおかしいと思います」


 どこまでも、ロジカルに。諭すようなマゼンタの口調は、逐一ローズの癪に障った。マゼンタはそう理屈を捏ねつつ、真剣な顔でローズに問いかけた。


「身分だって、関係ありません。では、お聞きしますが―ダンテは、貴女を拒絶しましたか?」


「な、何故ダンテ様のことを―」


 狼狽したローズを、マゼンタは鼻で笑った。


「貴女からは、私と同じ匂いがしましたから。恋する乙女の、甘酸っぱい気配ですよ」


 スタンガンによる痺れも解けてきたのか、彼女はそう言った。その様子には、どこか余裕すら伺える。


「何が、何が言いたいのです…?!」


「恋に、許可なんて必要ありません」


 マゼンタの言葉に、ローズは肩を震わせた。


「…いいえ、いいえ!傲慢だわ、破廉恥よ!そんな一方的な愛なんて、認められる筈がない。好きでない人に言い寄られて、貴女は不快に思わないの?」


「ええ、不快ですよ。しかしそれなら、不快だと言います。言葉で、伝えます」


 ホワイトたちメタブルーとウルタール兵士を他所に、二人は舌戦を繰り広げていた。しかし、幾らダンテの腹心と雖も、作戦遂行に不必要なローズの問答は、兵士たちの心を逆撫でした。徐々に不機嫌になっていく彼らを他所に、マゼンタは言葉を続けた。


「もう一度、聞きますが。ダンテは、貴女を拒絶しましたか?」


「…いいえ。でもそれは、私の能力を見込んでのことですわ。利用価値があるから、お傍に置いていただけますの!貴女だってそうでしょう?貴女が参謀として優秀だから、自身に歪んだ性欲を向ける薄汚い同性愛者を、花崎海咲は受け入れている!」


 マゼンタは、ローズの罵倒を鼻で笑って流した。『利用価値があるから、受け入れる』。その理屈が認められるのは、チーム制の競技だけだ。一対一、それに感情の支配する色恋の領域では、そんな暴論が罷り通るはずがない。


「そこが、ズレてるんですよ。幾ら能力が高くても、嫌いな人を傍には置かない。彼は、貴女のことを拒絶していない。ローズ、単に貴女が―意気地無しなだけです。『好きです』と、伝えればいいのに。ふん、惨めな女ですね」


「あ、貴女…っ!」


「ローズ様、もうよろしいかと。この魔女を射殺します」


 呼吸を荒くしたローズを、少尉が制した。そして彼は、マゼンタに銃を向けた。引き金が引かれる直前、ローズが身を乗り出した。


「…最後に聞かせて頂戴。畢竟―貴女は、何が言いたかったの?」


「…炉が爆発すれば、貴女は二度とダンテに会えない。特別な死後の世界を持つメタブルーは、地獄に行き場がありませんから」


「だから?」


 感情が暴走し、普段はしない歯軋りをしたローズに、彼女は悠然と微笑んだ。


「一緒に、ダンテを止めませんか。その後は―貴女とダンテ、二人で生きれば宜しいかと」


 ローズの頬に、涙が伝った。彼女は、全てを理解していた。自分がダンテの亡き妻、カミーユの代わりであること。カミーユが復活した際には、自身の居場所がないこと。そして、もう二度と―彼には会えないこと。


 しかし。彼女は胸に秘めた気持ちより、ダンテの命令を取った。それが、彼女の思う彼女の存在価値であり、愛のカタチであったからだ。


「…この女を、殺しなさい」


「はっ」


 漸くか、と兵士たちは武器を構えた。フラストレーションは十分、盛大に皆殺しにしてやる。彼らの心は一つだった。


「失礼、言い忘れました」


 照準の先、魔女はぴしりと指を立てた。それは、どこを指すでもなく、真っ直ぐに伸ばされていた。人差し指―俗に言う、『お母さん指』である。


「我が家の参謀(ママ)は―私ではありません」


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