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31話 もう一人のメタブルー

 地下四階。廊下に貼られた艶やかな壁紙は、前衛的な赤い飛沫で彩られている。先程まで静寂に包まれていたこの階層では、今まさに激しい銃撃戦が繰り広げられていた。操り人形じみた無機質な動きで捨て身の行進をするのは、公安の白い鎧とウルタリアンの死人たち。狂気的なその攻撃に対して、まだ体温のある兵士たちは、決死の抵抗を続けていた。


「グレネード!」


 飛来した爆弾に、マゼンタは叫んだ。メタブルーたちは弾かれたように、着弾点から離れる。しかし何とか命は助かったものの、ダメージは免れなかった。


 マゼンタは死霊魔術の専門ではあれど、銃撃戦の専門ではない。最初こそ兵力差で押せていた戦況も、向こうの体勢が整うに連れて拮抗してきた。


 魔力も死体も潤沢にある。しかし、攻めきれない。マゼンタは歯噛みした。海咲がすぐに戻ってこないと言うことは―恐らく想像以上にダンテは手強い相手ということだ。彼女は無茶をしがちである。また、自分の為に傷ついていないと良いが―と彼女は思った。


「攻め続けろ!ここが最後の正念場だ!」


 元ウルタール陸軍、ロダン少尉が叫ぶ。敵の士気は、依然として高い。恐らく自爆テロに巻き込まれるだけの彼らは、何故そこまで死に急ぐのだろう。メタブルーから聞いたダンテの目的、『地獄の門を打ち破る』ことが、彼らの望みを叶えられるとは到底思えない。


 第一、アカデミックなエビデンスのある話なのか、それは。


「…こんな博打の為に―」


 腹立たしいほどロジカルでない妄執に―もし、海咲が巻き込まれたら。自分の為に、犠牲になりでもしたら。私はきっと、私を許せない。


「―今行きます、海咲さん…っ!」


 海咲とマゼンタ。すれ違いつつも、互いを想い合う彼女たちの意思は、同じ方向を向いていた。


 マゼンタは空間転移と風魔術を併用して、飛来してきたグレネードを敵陣に送り返す。無駄になったグレネードは、ウルタリアンの頭上で破裂する。


 敵の弾薬には、限りがあるはず。その分、白兵戦に優れるメタブルーたちは心強い戦力になる。まずは、此処を持ち堪えなければ。


「ホワイト、メタブルーはあと何人残ってますか!」


 彼女の言葉に、傍らにいた白猫が答えた。その声色は、メタブルー特有の、少しノイズがかったものだった。


「『八人』よ、マゼンタ」


 八人。あれだけいたはずなのに、そこまで減ってしまったのか。―いや、違う。私の記憶が正しければ―残りのメタブルーは、『七人』だ。


「…っ!?」


 また、やられた。私は何度同じミスを繰り返せば良いのか。魔術による索敵を掻い潜る術など、幾らでもあるというのに。


「マゼンタ!?」


 叫んだのは、『本物の』ホワイトだった。マゼンタの視界の端、彼女は自身にスタンガンを突き付けた白猫を威嚇していた。


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