25話 カウンターアタック・シークレット・インヴェンション
プラントの見張りを務める若いウルタリアンは、門の前に立ち、張り詰めた様子で周囲を伺っていた。広場の火事は鎮火され、破壊されたプライベートジェットから使用出来そうな機材や武器が運び出されている。
「爆弾の敷設が六割方完了した。各員、最後まで警戒を怠るな」
尉官から通信が入り、彼は気を引き締めた。しかし、どうしても頬は緩んでしまう。
もう少し、あと少しなのだ。あと少しで、僕は君ともう一度―。
彼は懐から柘榴石の嵌められたロケットを取り出し、開いた。その中には、ウルタリアンの少女の写真が納められている。
ダンテの私兵―総員八十名。全員が元ウルタール陸軍特殊部隊所属であり、現在は退役している。軍人として輝かしい功績を残していた彼らが、何故ダンテの為に祖国を裏切ったのか。
それは、彼らが全員―愛する者を、失っていたからだ。恋人、親友、家族―ウルタールで死んだ者たち。その魂の内核はイリスの地下、煉獄へと送られる。そして同じ幻夢境であっても、彼らウルタリアンには故人を甦らせる術は無い。それが、はるか昔―彼らが信奉するクライン教の神と結んだ、契約であるからだ。
その不公平を、彼らは受け入れられなかった。同じ幻夢境に於いて、イリスの民だけが『永遠』を享受する。そんなことが、どうして認められようか。何故、神は我らを救いたまわないのか。
だから、彼らは神を、国を捨てた。そして彼らは死者を甦らせるために、ダンテ麾下―『愛の戦士』となったのだ。伊邪那美の死を受け入れられなかった伊邪那岐のように、エウリュディケを取り戻そうとしたオルペウスのように。彼らは死者への愛のため、命を賭して地獄の門を打ち破らんとしていた。
ロケットを閉じて、ウルタール人の男は銃を握り締めた。野生の力を宿した彼らは、殺気に敏感だ。何か不吉なものを感じ、男は周囲を見回した。何事もなければ良いが、と願ったウルタール兵士であったが、運命の女神は彼に微笑まなかった。
草木の影、白い腕が伸びる。腕はウルタール兵士を捕らえると、音もなく連れ去った。声も出せず、何も出来ず。突然の襲撃に目を白黒させたまま、彼は窒息した。メタリック・ブルーの液体が、彼の呼吸器から溢れ出す。
「どうした!?」
物音を聞きつけてきた上官。しかし、『彼』はすぐに茂みから出ると、何事もなかったかのように微笑んだ。
「失礼しました。小鬼がじっとこちらを見ていましたので、始末しました。デミ・ショゴスではありませんでしたが―一応確認されますか?」
そう言って、彼は茂みの奥に上官を誘い込んだ。茂みの奥には、争った跡。そして、倒れた兵士。
「なっ…」
咄嗟に武器を構えた上官は、傍らに立った兵士に頭を撃ち抜かれた。青白く光る熱線は、音もなく男の脳髄を蒸発させる。
そして、『彼ら』は何事もなかったように、二人連れ立って茂みを出た。そして、堂々とプラントの中に入る。
敬礼をした門番たちに目をやりつつ、彼らは奥の部屋で足を止めた。
「爆弾の位置は分かる?ピット器官とか模倣するの?」
兵士の男が、上官にそう尋ねた。誰がどう聞いても少女の声は、男の胸の辺りから聞こえていた。
「いや、手探りだ。それにあれを見てみろ」
上官の指さす先。あまりにも無造作に、何かが壁に貼り付けられている。赤いライトを点滅させる円盤状のそれは、間違いなく爆弾だろう。
「見えてる地雷ってやつだな。私と同じだ」
そう言うと、少女は兵士のテクスチャを脱ぎ捨てた。泣き腫らしたようなメイクに、ビビット・ピンクのインナーカラー。誰がどう見ても『見えてる地雷』なその少女は、悪戯な笑顔を浮かべていた。
「手分けしよっか。私はタンポポ男を止める。貴方たちは爆弾を解除する―でいいかしら?」
「承知した。くれぐれも見つかるなよ」
「それは無理。こんな美少女、世界が放っておかない」
そう言い残すと、彼女は駆けて行った。その危なかっかしい背中を見送ると、ネリケシは形を変えた。
敵は軍事的、そして組織的に活動している。配置や担当は詳細に分別されていると考えるべきだ。つまるところ、外を監視しているはずの二人が施設内をうろついていれば、いずれ勘づかれてしまう。
「二人は外へ。残りは卵の捜索と、爆弾の解除を」
ネリケシの指示に、メタブルーが二匹、姿を変えた。外にいた兵士たちの姿になると、彼らは何事も無かったかのような素振りで引き返していく。そして残りの面々は、各々昆虫などの小動物の姿をとった。
「一人一殺、殺してから成り代われ」
彼の言葉を受けて、昆虫たちは散開した。




